ピエロの仮面は剥がれない

寝倉響

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Shape of love

最上の愛②

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 そんなある日の帰り道。

 近道である、人通りの少ない商店街を歩いていた。そこは夜になるとお客がまったく来ないためシャッターが降りている店が多く並んでいる。まあ昼時でも、元々開いている店が少なく、シャッターが降りている店ばかりで、人通りも元々少ないので、夜になるとさらに少なくなるのは当然だった。
 その商店街には僕以外の人は極わずかしかいなく、ホームレスがぽつりぽつりとふらついているだけだった。

 僕は暗闇で気づかなかったのか、突然目の前に黒い服を来た男が現れた。
 切れかかった街灯の灯りが照らしてくれた光で、その黒服を良く見ると、喪服のようだった。手は後ろに組んでいるようで、もちろん胸には黒いネクタイをつけている。
 そして顔には何故か口元だけがあいたピエロの仮面がつけられていた。
 その隣には、また喪服を着て黒いレースを顔につけた女の子が立っていた。年の頃は自分と同じくらいに見えた。その女の子の身長からか、隣にいるピエロの男の背が高いことが見て取れた。
 喪服を着たピエロの男は僕のところまで歩いてくると、僕の顔を上から覗き込んできた。

『君……もしや人生に不満があるんじゃないかい? 君に新しい人生を提供できるよ。もしも、人生をリセマラ(やり直し)したいなら私の手を握りなさい』

 するとピエロは白い手袋を着けた自分の右手を僕の方へ差し出した。ピエロの優しい声は、なぜだか僕の心の奥に強く響いた。
 僕は、見ず知らずのピエロの現実離れしたような言葉を信じたくなるほどに追い込まれていた。気がつくと、僕は無意識のうちにピエロの手を握っていた。

 すると急に辺りが一面真っ白になり、そこにあった商店街の魚屋や定食屋も消えていた。もちろんホームレスの姿もいなくなっていた。僕が握っていたピエロの手の感触も気付けば消え去っていて、当然隣にいた黒いレースの女の子の姿も消えていた。
 そして一瞬のうちに視界全てが白い場所へと変貌した。僕はその真っ白な場所にある真っ黒な椅子と机の前にいた。
 その正方形の机の上には、真っ黒な正方形の箱が置いてあった。

 目の前には不敵な笑みを浮かべたピエロが立っていた。その隣にはさっきの黒のレースの女の子がいる。

『どうぞお座りください』

 ピエロは白い手袋を着けた右手で椅子を指し示しながらそう言い、僕が座ったのを確認するとピエロの方も向かいの椅子に腰を下ろした。そして用紙を1枚胸ポケットから取り出して僕に渡した。

 そして、ピエロは人生リセマラについてのルールを話し始めた。





契約の書

ルール

①一度につき貴方の人生4年を貰い受けます。
②リセマラ回数は、人生数によります。※1
③一度に1枚以上はとらないでください。
④リセマラして受け取れる人生は無数にあります。ご希望の人生が受け取れるかは貴方の運次第です。
⑤リセマラ後 貴方は現実世界で何らかの形で死亡、貴方に関わった人間全ての記憶は改竄され、貴方は新しい人生を歩みます。

※1 例 貴方の人生が40年の場合最高9回おこなえます。貴方の寿命を最低1年以上残してもらいます。



手順

①料金 人生4年を貰い受けます。

②譲渡 貴方は無数の人生が入った篋(はこ)から1枚用紙を取ります。※2

③体験 その人生を映像としてまとめたものを視聴体験します。

④受取 気に入ったなら此処での記憶を消去し、新たな人生を歩むことになります。

気に入るまで①を行うことで②から先を行うことができます。

※2 あくまでも大まかな人生ですので貴方の行動で変わることがあります。また交通事故や殺人など他人の行動が人生に干渉した場合、予定されている人生数をまっとう出来ない可能性もあります。

その他、規約
1.私の指示に無視する行動をした場合、貴方の人生はその瞬間全て失われます。
2.ルールに従い行動しなかった場合、貴方の人生は全て失われ、無へと送られます。
3.途中で元の人生に戻ることも可能ですが支払った人生は返却されません。そして、ここでの記憶は消えます。
4.質問があればその都度ご質問ください。出来る範囲でお答えします。

□契約の書の内容に同意しますか?
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