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第二章
第120話 冷凍庫の底にて
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「シフトの人たちが現場周り中だって。戻るのに時間がかかるから始めてよ」
つつみちゃんは勝手知ったるでコントロールルームに入り。
途端。顔をしかめる。
「む」
続けて入ったサワグチも顔をしかめてメットを被った。
俺も入る。鼻を突く青臭く甘い芝生の臭いがした。アトムスーツの空調をシャットダウンし、メット内部のエアーもフィルタリングを開始する。
ここは二十畳くらいの広さのエントランスで、正面通路に数部屋ずつ区画が割り振ってある。一応この区画は温度管理も空調も人に合わせてある安地だ。
”よこやまクン。今バッテリー残量いくつ?”
”八十パ”
”警戒最大限でよろしく”
”りょ”
何秒もしない内に館内放送がかかった。
ここのスタッフがそろって社外に逃げ出したらしい。
大宮から逃げられる訳ないのに、何を考えているんだ?
”ここに盗聴器とかトラップあるかもだって。スタッフたちのログ、通信元の位置割り出し今弾かれた。二人もこの部屋の家探し協力よろしく”
ぬぅ。仕事が増えたな。めんどくせ。
”ファージは?”
つつみちゃんは正面受付のデスクに乗ると基盤をこじ開けてから中を見ながら操作パネルを何枚も展開しだした。
マニュアルを見ながら更に黒いスフィアも出して走査を開始している。
”ここはもうオフライン化してある。区画内なら使って大丈夫だよ”
この独特の、脳に訴えかける嫌な臭気には覚えがある。
大麻だ。
昔、癌で闘病生活していた友人の病室がこんな臭いだった。
体臭自体がこういう臭いで、俺の顔に出ていたのだろう。
苦笑いしながら窓を開けて自分が処方されてる大麻の臭いだと教えてくれた。
あまり吸い込むと身体によくないので、吸気口の近く、部屋の隅に纏めていく。
”こういう薬物って今の法律でどうなっているんだ?”
”あ。よこやまクン知ってるんだ?”
”何なの?毒ガス?”
サワグチは拷問生活中もクリーンだったのかと、不謹慎な事を考えてしまい、軽く自己嫌悪する。
”大麻だ。仕事中キメてたんだろ”
”今五人の内三人捕まったよ。九龍城に逃げようとして事故ったって。しかも二人が身分証偽物。本人たちと知人とかの住居に今セキュリティが向かってる”
二ノ宮ガバくない?大丈夫か?
”今は、医療用以外の許可はされてないよ”
室内換気は済んだのだが、盗聴の不安があるのでまだメットしていてくれとつつみちゃんからログが来た。
”昔は合法だったんだっけ?”
”俺の起きてた頃は、違法だった気がする”
吸ってる奴は普通にいたけどな。
”横山も吸ってたの?”
”まさか”
その友人からは、興味本位でも絶対止めておけと再三言われた。
”大麻は宗教だよ。眠る前の知り合いに合法化しろとか安全だとか異様に勧めてくる子がいたけど。すっごい気持ち悪かったわ”
俺の友達と大違いだ。
”やり口がおもいっきり新興宗教で、どう見ても依存で中毒なのに、本人は酒とタバコ例に出して話が通じなかった”
”災難だな”
言っている事は凄くまともなのだが、確かに、クスリ勧めてくる奴には何故かカルト宗教に感じるような生理的嫌悪感が湧いてくる。何故なんだろう。生臭い魚を毛嫌いするのと同じだと昔何かで読んだが、人間の本能が危険を察知して避けるよう仕向けているのだろうか。
俺の友人は布教者じゃなくて良かった。
”大麻は全ての反応が鈍くなるだけで何も良い事無いからね。リラックスと鈍感は全く別。ファージを動かしてるとよく分かる。少し入っちゃったから後で洗浄しないと”
仕事内容的に、針の先より鋭敏な感覚が求められるつつみちゃんには死活問題なのだろう。
ミニスカートがはためくくらい空調をガンガンにしている。
”薬物よりファージ誘導の方がメンタルコントロール早いのに、何で使ってたんだ?”
”そりゃ、ここで使うと直ぐバレるもん”
そうでした。
仕事中も吸いたいくらい中毒になってたのか。
俺の起きていた時代も、生産性ドカッと落ちるしミスが多くなるから合法化したヨーロッパや東南アジアでも社会問題になってたよな。
室内の盗聴器や隠しカメラの掃除はだいぶ進んだ。
もりもり出てきた。
新旧大小。多すぎて終わりが見えない。
俺のアトムスーツの電磁波探査と腰の工具ポーチが火を噴いたのでチョットだけドヤって良いと思う。
”保安部が、外せないのは壊しちゃって良いって。送信中のモノ優先でよろしくね”
”はいはい”
”うぃっす”
”三人とも、聞こえてる?”
スミレさんだ。
”コネクションが広範囲なんでずっと泳がせていたんだけど、この際だから網の口を絞る事にしたわ。そこにいた内まだ二人が見つかってないの。出社記録と映像確認したからまだ下にいる可能性もある。人は送れないけどリョウくんいるから大丈夫よね?”
いやいや。だいじょばないよ。
”送ってくれ”
この施設が重要なのは分かるが、自社内なのに自由に人の行き来もできないとか。
”よこやまクン、圏議会の許可が降りてないんだよ。議員がバックにいる”
なんか、嫌な予感がするんだけど。
”この状況を想定されていたかもしれないって事か?”
それにしては、慌てて逃げたみたいだけど。
”分からないわ。もう反対議員の特定は済んだし。踏み込んでるから拘留は直ぐ終わるのだけど、でもまだ先がいるかもしれない”
圏議会議員の先って・・・、州の政府か?そこまで腐ってんの?
現代では、犯罪者や容疑者に対して、聞き取り調査とか取り調べみたいな悠長な事は行われない。
行動履歴と残存する記憶デバイスからスピーディに物事が運ぶ。
金持ちや議員は大抵記憶デバイスを標準装備しているから、”まだ先”がいるなら直ぐに割れるだろう。
目下の問題は。
”えっと。この可住区画外のファージ誘導は絶対禁止?”
”アトムスーツ内で気密すれば問題無いわ”
”つつみちゃん、この室内にスーツの予備って”
”今残ってるのは全部破損してる”
やられた・・・。
閉じ込められた。
俺とサワグチは普通に逃げ出せるが、クァドラテックスフィアが自由に使えないつつみちゃんはノーガードだ。置いていったらそれこそ大事になるだろうし。
ファージ誘導禁止だと、真空断熱とかも出来ない。
”絶対禁止なのか?”
”・・・。駄目ね”
マジかー。
”潜んでるかもしれないヤツが狂ってて、使ってくる可能性は?”
”損害は私たちが請求できる立場にあるわ。胴元の大株主は圏議会だし。誰も求めないでしょうね”
”出てきたバックがナチュラリストでも?”
”無いわね”
スミレさんが言い切るって事は、無いのだろう。
つまり、俺らは捕まった議員から容疑者が芋づるして全員割れて捕まるまでここで生き残らなければならない。
”誰が黒かはっきりしない内はセキュリティも物資も送れないわ”
下へ救助に来た奴がクロ側だったら笑い話にもならない。
スミレさんが動く訳にもいかないしなぁ。
”つつみちゃん、区画内全域に走査かけて良いか?”
”うーん”
”やっぱ今の無し”
潜んでてバレてやけっぱちになって部屋を壊されたらつつみちゃんが死ぬ。
”スーツの破損がどの程度か見に行くか”
”それなら大丈夫かな”
”なら、別行動ね。あたしはこれ脱いでトイレを見てくるわ”
”マテ”
何故フラグを建築してくのか。
それに、お前その下裸だろ。
”スーツは二つある。最悪、あたしが死ねばいい”
”そんな事言わないで”
おい。つつみちゃん泣かせるなよ。
”何であんたが怒るの。事実でしょ。誰も困らない”
”ヒマリ。止めなさい。いざとなったらわたしがスーツ持っていくわ”
”それこそ。思う壷だと思うけど?”
四人で幾らするんだ?
ファージが使えないのがなぁ・・・。
”どういう状況でファージの悪影響が出るんだ?”
そこを知っておきたい。
単に隔離するだけじゃ駄目なんだよな?
”真空隔離しても、正弦波の応答が発生するの”
なるほど。わからん。
”横山。あれだよ。音叉。疑似的に真空にしても結局その空間にファージが骨子状で微量に存在するでしょ。んでファージ越しに伝播する。結果、壁越しの影響無くしたつもりでも因果関係が生まれる”
あ~。
はいはい。
物質があればそこを波が伝わる。
ファージ使って窒素だの二酸化炭素だの抜いて真空にして音を防ごうとしても、確かに抜いた空間にファージがちょっとでも存在したらファージで伝わるな。
”この中から正規ルートで動かす分には問題ないんだけどね”
”何で問題ないんだ?”
”ここから上げると一度アカシック・レコード上に正規データとして登録してから使用されるから、エラーが発生しにくいんだよ”
”正規データの登録方法は?”
”アカシャアーツに逐一アドレス割り振ってもらう”
確か、アカシャアーツってのは圏議会が直轄運営するさいたま技術研究所の量子コンピューターだったな。
”発生する振動にしか悪影響は無いのか?”
”・・・。そうだね。振動というか、音”
なら、話は早い。
”おし。んじゃ俺らの出す音全部、発生した瞬間、周囲に伝わる前にアドレス割り振ってもらおう”
「あっはっはっはっ!」
サワグチが声を出して笑っている。
「笑うところか?」
ついこの間、同じような事やったばっかなんだよなあ。
貝塚様様だ。
”発行されたアドレスのセキュリティは?”
”所在地の住所にある団体が管理責任を持つ”
つまり二ノ宮地所、いや、データセンターの方が発行したアドレスのケツ持ってくれるのか。
なら大丈夫そうだな。
”つつみちゃん。試しにここでやってみて良いか?”
”うん”
「ふん」
サワグチに鼻で笑われた。
お前そんなんだとなぁ。友達無くすぞ。
いやいやいや駄目だ。サワグチが居なくなると俺が困る。
とりあえずやるか。
まず、干渉が起きない程度まで認識の拡張。
あの金庫の時と同じくらいまで大丈夫だな。
てか、有効範囲同じだな。これ、トリビアになりませんか?
次に外部からの走査に対して検出される全てのデータを俺の身体から周囲に音が伝わる前に書き出してアカシャアーツに提出。許可を出してもらう。丁寧に割り振っていく。
幸いというか、三デシベル以下は検出されなかった。これは有難い。
音より光の方が速いので余裕で間に合う。
試しにワザと音を出して歩いてみる。
靴音は金属の床で反響するが、音が伝わる前に許可は出ている。
改めてファージ拡張下で外を見ると、冷凍庫内の空気中はファージが目視できるくらい膨大な量だ。
澄んだ空気に見えて実際はかなり濃いんだな。
流石にこの量全部コントロールは出来ないなぁ。
この量でこの透明度って事は、伊勢崎周辺にある自然界の色付きファージ霧は別の仕組みなんだよな。反射率がそもそも違っているのか?成分分析しても変なモノ出ないんだよな。構造的な発色なのか?
いやいや、考察は後だ。
”どうよ?”
「おぉ~!?」
これなら干渉起きないんだろ?
”オカシイな。ナイトロゲン・シリンダ内で音が出るモノを動かすのは特許技術な筈なんだけど”
つつみちゃんはなんか面白くなさそうだ。
ああ。あの髪振り乱して動く串ダンゴたちにもこの技術が使われてるのか?
”仕組みは全然違うけど、やってる事は同じだな。見直した”
そりゃどーも。
プロのサワグチに褒められるとチョット嬉しい。
”んじゃこれで、凍る心配は無くなったな。あとはどこかに隠れてるかもしれない奴らに気を付けながら”
「ストーカー炙り出すんでしょ」
サワグチが声に出して言う。
そうだ。帰るのはその後だった。
”危ないだろ。どこかで聞かれてたら挑発と取られるぞ”
もう、ここ全体が俺の領域みたいなもんだから、銃で撃たれても反応出来るけど、何やってくるかわからないからな。隠れているとしたらもう見付けている、でも走査で見当たらない。取り越し苦労だと思いたい。
炭疽菌の奴らみたいにガス放出で防ぐなんて事は、この区画外とかのマイナス百二十度の極低気温下では不可能だ、アトムスーツ着てシリンダ内に潜んでいるか、このファージ隔離された区画内に隠れているどちらかの筈だ。
”聞こえるように言ったの”
”ひーちゃん危ない事止めてよぉ”
ああ、それはそれとして。
”つつみちゃん、俺のアトムスーツ着ておいてくれ。万が一があるから。こっちの方がサイズ合うだろ”
”えっ?よこやまクンの?嫌だよ”
真顔で言われると少し傷付く。
”なら、とりあえずスーツの破損確認しに行こう”
”ううん。先にアドレスの洗い出しやっとこ。ここが壊されたら調べられなくなる。準備はもうできたよ”
”んじゃそうすっか”
よくある”電源室を落とす”とか、”配線を切られる”的な事は全く無かったのだが、何故かその不安感がまとわりつく。
俺はテンプレに毒されているな。
”だいぶ時間ロスしちゃったね”
保安部のカウンターはまだ続いている。
回線がわっちゃわっちゃしてるので隙は十分にある。
横でつつみちゃんのディテクションの手順をじっくりじっとり観察する。
めっちゃ勉強になるわー。
該当先を探すのではなく、気付かれないように消去法で潰していっている。
これなら確かに探知されてる側に気付かれにくい。
現代では、このデータセンターを経由して全ての情報が一度レコードにログを残す。
毎秒、天文学的なな量のログが蓄積していくが、その中でアカシック・レコードにIPアドレスが永続登録されるモノは全体から見ればほんの一部だ。
世界に記憶する取捨選択は半自動化されている。ナチュラリストは表層を改ざんしまくっているそうだが、所詮表層のみ。
地球上の誰もその全貌は把握出来ていないだろう。
毎日定時まで潜ってる俺でも、全体像は視覚化も言語化も出来ない。
だが、知らなくとも使い道は沢山ある。
”範囲特定出来た。近いけど、ここにいた人たちがやってる訳じゃなかったね。スパイ君たちはこっち側でポートの解放だけ担当してたみたい。時期的にはサルベージの覗きと同時期だからクロだね”
”重罪じゃん?”
サワグチが呆れている。
”証言によっては二ノ宮も罪に問われそうだよね”
さっきスミレさんは泳がせてた的な事チラッと言ってたし。
その辺は大丈夫だとは思うが。
”これ以上囲い込むとバレるけど”
地図に範囲指定した。
二回見直した。
何の因果か。
”よこやまクン?”
それ以上聞かないようにつつみちゃんに目配せする。
サワグチの前でここの事は言いたくないな。
”何?横山知ってんの?”
”んー。地元に近い。この間近くを通った”
”ふうん”
あの、銀行行く途中で見たファージ汚染区域にある人間牧場施設だ。
流石に、やり方からして舞原の時みたいに救助目的で接触って訳ではないだろう。
つつみちゃんは勝手知ったるでコントロールルームに入り。
途端。顔をしかめる。
「む」
続けて入ったサワグチも顔をしかめてメットを被った。
俺も入る。鼻を突く青臭く甘い芝生の臭いがした。アトムスーツの空調をシャットダウンし、メット内部のエアーもフィルタリングを開始する。
ここは二十畳くらいの広さのエントランスで、正面通路に数部屋ずつ区画が割り振ってある。一応この区画は温度管理も空調も人に合わせてある安地だ。
”よこやまクン。今バッテリー残量いくつ?”
”八十パ”
”警戒最大限でよろしく”
”りょ”
何秒もしない内に館内放送がかかった。
ここのスタッフがそろって社外に逃げ出したらしい。
大宮から逃げられる訳ないのに、何を考えているんだ?
”ここに盗聴器とかトラップあるかもだって。スタッフたちのログ、通信元の位置割り出し今弾かれた。二人もこの部屋の家探し協力よろしく”
ぬぅ。仕事が増えたな。めんどくせ。
”ファージは?”
つつみちゃんは正面受付のデスクに乗ると基盤をこじ開けてから中を見ながら操作パネルを何枚も展開しだした。
マニュアルを見ながら更に黒いスフィアも出して走査を開始している。
”ここはもうオフライン化してある。区画内なら使って大丈夫だよ”
この独特の、脳に訴えかける嫌な臭気には覚えがある。
大麻だ。
昔、癌で闘病生活していた友人の病室がこんな臭いだった。
体臭自体がこういう臭いで、俺の顔に出ていたのだろう。
苦笑いしながら窓を開けて自分が処方されてる大麻の臭いだと教えてくれた。
あまり吸い込むと身体によくないので、吸気口の近く、部屋の隅に纏めていく。
”こういう薬物って今の法律でどうなっているんだ?”
”あ。よこやまクン知ってるんだ?”
”何なの?毒ガス?”
サワグチは拷問生活中もクリーンだったのかと、不謹慎な事を考えてしまい、軽く自己嫌悪する。
”大麻だ。仕事中キメてたんだろ”
”今五人の内三人捕まったよ。九龍城に逃げようとして事故ったって。しかも二人が身分証偽物。本人たちと知人とかの住居に今セキュリティが向かってる”
二ノ宮ガバくない?大丈夫か?
”今は、医療用以外の許可はされてないよ”
室内換気は済んだのだが、盗聴の不安があるのでまだメットしていてくれとつつみちゃんからログが来た。
”昔は合法だったんだっけ?”
”俺の起きてた頃は、違法だった気がする”
吸ってる奴は普通にいたけどな。
”横山も吸ってたの?”
”まさか”
その友人からは、興味本位でも絶対止めておけと再三言われた。
”大麻は宗教だよ。眠る前の知り合いに合法化しろとか安全だとか異様に勧めてくる子がいたけど。すっごい気持ち悪かったわ”
俺の友達と大違いだ。
”やり口がおもいっきり新興宗教で、どう見ても依存で中毒なのに、本人は酒とタバコ例に出して話が通じなかった”
”災難だな”
言っている事は凄くまともなのだが、確かに、クスリ勧めてくる奴には何故かカルト宗教に感じるような生理的嫌悪感が湧いてくる。何故なんだろう。生臭い魚を毛嫌いするのと同じだと昔何かで読んだが、人間の本能が危険を察知して避けるよう仕向けているのだろうか。
俺の友人は布教者じゃなくて良かった。
”大麻は全ての反応が鈍くなるだけで何も良い事無いからね。リラックスと鈍感は全く別。ファージを動かしてるとよく分かる。少し入っちゃったから後で洗浄しないと”
仕事内容的に、針の先より鋭敏な感覚が求められるつつみちゃんには死活問題なのだろう。
ミニスカートがはためくくらい空調をガンガンにしている。
”薬物よりファージ誘導の方がメンタルコントロール早いのに、何で使ってたんだ?”
”そりゃ、ここで使うと直ぐバレるもん”
そうでした。
仕事中も吸いたいくらい中毒になってたのか。
俺の起きていた時代も、生産性ドカッと落ちるしミスが多くなるから合法化したヨーロッパや東南アジアでも社会問題になってたよな。
室内の盗聴器や隠しカメラの掃除はだいぶ進んだ。
もりもり出てきた。
新旧大小。多すぎて終わりが見えない。
俺のアトムスーツの電磁波探査と腰の工具ポーチが火を噴いたのでチョットだけドヤって良いと思う。
”保安部が、外せないのは壊しちゃって良いって。送信中のモノ優先でよろしくね”
”はいはい”
”うぃっす”
”三人とも、聞こえてる?”
スミレさんだ。
”コネクションが広範囲なんでずっと泳がせていたんだけど、この際だから網の口を絞る事にしたわ。そこにいた内まだ二人が見つかってないの。出社記録と映像確認したからまだ下にいる可能性もある。人は送れないけどリョウくんいるから大丈夫よね?”
いやいや。だいじょばないよ。
”送ってくれ”
この施設が重要なのは分かるが、自社内なのに自由に人の行き来もできないとか。
”よこやまクン、圏議会の許可が降りてないんだよ。議員がバックにいる”
なんか、嫌な予感がするんだけど。
”この状況を想定されていたかもしれないって事か?”
それにしては、慌てて逃げたみたいだけど。
”分からないわ。もう反対議員の特定は済んだし。踏み込んでるから拘留は直ぐ終わるのだけど、でもまだ先がいるかもしれない”
圏議会議員の先って・・・、州の政府か?そこまで腐ってんの?
現代では、犯罪者や容疑者に対して、聞き取り調査とか取り調べみたいな悠長な事は行われない。
行動履歴と残存する記憶デバイスからスピーディに物事が運ぶ。
金持ちや議員は大抵記憶デバイスを標準装備しているから、”まだ先”がいるなら直ぐに割れるだろう。
目下の問題は。
”えっと。この可住区画外のファージ誘導は絶対禁止?”
”アトムスーツ内で気密すれば問題無いわ”
”つつみちゃん、この室内にスーツの予備って”
”今残ってるのは全部破損してる”
やられた・・・。
閉じ込められた。
俺とサワグチは普通に逃げ出せるが、クァドラテックスフィアが自由に使えないつつみちゃんはノーガードだ。置いていったらそれこそ大事になるだろうし。
ファージ誘導禁止だと、真空断熱とかも出来ない。
”絶対禁止なのか?”
”・・・。駄目ね”
マジかー。
”潜んでるかもしれないヤツが狂ってて、使ってくる可能性は?”
”損害は私たちが請求できる立場にあるわ。胴元の大株主は圏議会だし。誰も求めないでしょうね”
”出てきたバックがナチュラリストでも?”
”無いわね”
スミレさんが言い切るって事は、無いのだろう。
つまり、俺らは捕まった議員から容疑者が芋づるして全員割れて捕まるまでここで生き残らなければならない。
”誰が黒かはっきりしない内はセキュリティも物資も送れないわ”
下へ救助に来た奴がクロ側だったら笑い話にもならない。
スミレさんが動く訳にもいかないしなぁ。
”つつみちゃん、区画内全域に走査かけて良いか?”
”うーん”
”やっぱ今の無し”
潜んでてバレてやけっぱちになって部屋を壊されたらつつみちゃんが死ぬ。
”スーツの破損がどの程度か見に行くか”
”それなら大丈夫かな”
”なら、別行動ね。あたしはこれ脱いでトイレを見てくるわ”
”マテ”
何故フラグを建築してくのか。
それに、お前その下裸だろ。
”スーツは二つある。最悪、あたしが死ねばいい”
”そんな事言わないで”
おい。つつみちゃん泣かせるなよ。
”何であんたが怒るの。事実でしょ。誰も困らない”
”ヒマリ。止めなさい。いざとなったらわたしがスーツ持っていくわ”
”それこそ。思う壷だと思うけど?”
四人で幾らするんだ?
ファージが使えないのがなぁ・・・。
”どういう状況でファージの悪影響が出るんだ?”
そこを知っておきたい。
単に隔離するだけじゃ駄目なんだよな?
”真空隔離しても、正弦波の応答が発生するの”
なるほど。わからん。
”横山。あれだよ。音叉。疑似的に真空にしても結局その空間にファージが骨子状で微量に存在するでしょ。んでファージ越しに伝播する。結果、壁越しの影響無くしたつもりでも因果関係が生まれる”
あ~。
はいはい。
物質があればそこを波が伝わる。
ファージ使って窒素だの二酸化炭素だの抜いて真空にして音を防ごうとしても、確かに抜いた空間にファージがちょっとでも存在したらファージで伝わるな。
”この中から正規ルートで動かす分には問題ないんだけどね”
”何で問題ないんだ?”
”ここから上げると一度アカシック・レコード上に正規データとして登録してから使用されるから、エラーが発生しにくいんだよ”
”正規データの登録方法は?”
”アカシャアーツに逐一アドレス割り振ってもらう”
確か、アカシャアーツってのは圏議会が直轄運営するさいたま技術研究所の量子コンピューターだったな。
”発生する振動にしか悪影響は無いのか?”
”・・・。そうだね。振動というか、音”
なら、話は早い。
”おし。んじゃ俺らの出す音全部、発生した瞬間、周囲に伝わる前にアドレス割り振ってもらおう”
「あっはっはっはっ!」
サワグチが声を出して笑っている。
「笑うところか?」
ついこの間、同じような事やったばっかなんだよなあ。
貝塚様様だ。
”発行されたアドレスのセキュリティは?”
”所在地の住所にある団体が管理責任を持つ”
つまり二ノ宮地所、いや、データセンターの方が発行したアドレスのケツ持ってくれるのか。
なら大丈夫そうだな。
”つつみちゃん。試しにここでやってみて良いか?”
”うん”
「ふん」
サワグチに鼻で笑われた。
お前そんなんだとなぁ。友達無くすぞ。
いやいやいや駄目だ。サワグチが居なくなると俺が困る。
とりあえずやるか。
まず、干渉が起きない程度まで認識の拡張。
あの金庫の時と同じくらいまで大丈夫だな。
てか、有効範囲同じだな。これ、トリビアになりませんか?
次に外部からの走査に対して検出される全てのデータを俺の身体から周囲に音が伝わる前に書き出してアカシャアーツに提出。許可を出してもらう。丁寧に割り振っていく。
幸いというか、三デシベル以下は検出されなかった。これは有難い。
音より光の方が速いので余裕で間に合う。
試しにワザと音を出して歩いてみる。
靴音は金属の床で反響するが、音が伝わる前に許可は出ている。
改めてファージ拡張下で外を見ると、冷凍庫内の空気中はファージが目視できるくらい膨大な量だ。
澄んだ空気に見えて実際はかなり濃いんだな。
流石にこの量全部コントロールは出来ないなぁ。
この量でこの透明度って事は、伊勢崎周辺にある自然界の色付きファージ霧は別の仕組みなんだよな。反射率がそもそも違っているのか?成分分析しても変なモノ出ないんだよな。構造的な発色なのか?
いやいや、考察は後だ。
”どうよ?”
「おぉ~!?」
これなら干渉起きないんだろ?
”オカシイな。ナイトロゲン・シリンダ内で音が出るモノを動かすのは特許技術な筈なんだけど”
つつみちゃんはなんか面白くなさそうだ。
ああ。あの髪振り乱して動く串ダンゴたちにもこの技術が使われてるのか?
”仕組みは全然違うけど、やってる事は同じだな。見直した”
そりゃどーも。
プロのサワグチに褒められるとチョット嬉しい。
”んじゃこれで、凍る心配は無くなったな。あとはどこかに隠れてるかもしれない奴らに気を付けながら”
「ストーカー炙り出すんでしょ」
サワグチが声に出して言う。
そうだ。帰るのはその後だった。
”危ないだろ。どこかで聞かれてたら挑発と取られるぞ”
もう、ここ全体が俺の領域みたいなもんだから、銃で撃たれても反応出来るけど、何やってくるかわからないからな。隠れているとしたらもう見付けている、でも走査で見当たらない。取り越し苦労だと思いたい。
炭疽菌の奴らみたいにガス放出で防ぐなんて事は、この区画外とかのマイナス百二十度の極低気温下では不可能だ、アトムスーツ着てシリンダ内に潜んでいるか、このファージ隔離された区画内に隠れているどちらかの筈だ。
”聞こえるように言ったの”
”ひーちゃん危ない事止めてよぉ”
ああ、それはそれとして。
”つつみちゃん、俺のアトムスーツ着ておいてくれ。万が一があるから。こっちの方がサイズ合うだろ”
”えっ?よこやまクンの?嫌だよ”
真顔で言われると少し傷付く。
”なら、とりあえずスーツの破損確認しに行こう”
”ううん。先にアドレスの洗い出しやっとこ。ここが壊されたら調べられなくなる。準備はもうできたよ”
”んじゃそうすっか”
よくある”電源室を落とす”とか、”配線を切られる”的な事は全く無かったのだが、何故かその不安感がまとわりつく。
俺はテンプレに毒されているな。
”だいぶ時間ロスしちゃったね”
保安部のカウンターはまだ続いている。
回線がわっちゃわっちゃしてるので隙は十分にある。
横でつつみちゃんのディテクションの手順をじっくりじっとり観察する。
めっちゃ勉強になるわー。
該当先を探すのではなく、気付かれないように消去法で潰していっている。
これなら確かに探知されてる側に気付かれにくい。
現代では、このデータセンターを経由して全ての情報が一度レコードにログを残す。
毎秒、天文学的なな量のログが蓄積していくが、その中でアカシック・レコードにIPアドレスが永続登録されるモノは全体から見ればほんの一部だ。
世界に記憶する取捨選択は半自動化されている。ナチュラリストは表層を改ざんしまくっているそうだが、所詮表層のみ。
地球上の誰もその全貌は把握出来ていないだろう。
毎日定時まで潜ってる俺でも、全体像は視覚化も言語化も出来ない。
だが、知らなくとも使い道は沢山ある。
”範囲特定出来た。近いけど、ここにいた人たちがやってる訳じゃなかったね。スパイ君たちはこっち側でポートの解放だけ担当してたみたい。時期的にはサルベージの覗きと同時期だからクロだね”
”重罪じゃん?”
サワグチが呆れている。
”証言によっては二ノ宮も罪に問われそうだよね”
さっきスミレさんは泳がせてた的な事チラッと言ってたし。
その辺は大丈夫だとは思うが。
”これ以上囲い込むとバレるけど”
地図に範囲指定した。
二回見直した。
何の因果か。
”よこやまクン?”
それ以上聞かないようにつつみちゃんに目配せする。
サワグチの前でここの事は言いたくないな。
”何?横山知ってんの?”
”んー。地元に近い。この間近くを通った”
”ふうん”
あの、銀行行く途中で見たファージ汚染区域にある人間牧場施設だ。
流石に、やり方からして舞原の時みたいに救助目的で接触って訳ではないだろう。
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わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
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