寝起きでロールプレイ

スイカの種

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第二章

第77話 青森への誘い

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「リョウくん。貝塚政子って覚えてる?」

 スミレさんからコールが来て、本社で久々に社長室出頭と思ったら、ライヴハウスが新しく大宮にオープンしたという事で、つつみちゃんにお呼ばれして、スミレさんをエスコートしつつ一緒に見学する事になった。箱のマスターは今回もスミレさんになるそうで、屋号はテルミット・スパーカーズ大宮店で出したそうだ。
 新都心の少し北、エヌアールと十七号線の間にある家賃が少しお高い場所だが、セキュリティのしっかりしている地区なので、テロの標的にはなりにくい。
 見学は建前で、向かうヘリの中での密談が本命なのだろう。

「カミオカンデ観測会の役員だっけ?」

 確か、大宮にいる大金持ちの一人だったか?

「大宮に住んでる金持ち?」

 スミレさんは嬉しそうに微笑む。

「調べてなかったのね。良かったわ」

 調べるなって言われたからな。

「あの時は大宮に偶々いたみたいだけど、彼女の本拠地は岐阜の金華山よ」

 岐阜ってどこだっけ?アルプスの辺りか?

「北関東の金持ちの一人なんじゃなかったっけ?」

 スミレさんは頷いて話を続ける。

「本家は高崎市にあって、分家が大宮に拠点を持ってるの。政子は高崎と金華山を行ったり来たりね。カミオカンデの有る飛騨は危険だから観測会の活動拠点は岐阜市なの」

「カミオカンデって何なんだ?」

「実験設備自体は、あなたの時代からあるんじゃないかしら?」

 聞いたこともあるような気もしないでもない。

「ニュートリノの振動を観測する機関で、現在は過去における振動ログの検出に関する研究が多いわね」

 なるほど。わからん。

「加速器の研究機関みたいなものか?」

「コンセプトは違うけど、解き明かす謎の方向性は同じ部分はあるわ」

 なんとなく把握した。
 あれ?俺もしかしてやらかしたか?
 俺の口から”加速器”が出るのは不思議か?
 地下市民たちの建設スケジュールに、衛星軌道を利用した加速器の建設計画があったが・・・、今のコメから推測とかは流石に無理だろ。無理だよな?いくらスミレさんでも。
 そう。俺はSF大好きなゲーマーだ。こういう話は好物なんだ。
 何もおかしくない。
 つい、スミレさんの顔色を窺ってしまった。
 不審に思われただろうか、

「着いたわね。続きはまた後で」

 気付かなかったのか、フリなのか、判別は付かなかった。

 駅ビルの屋上にあるヘリポートから直通で行けるビルの最上階が箱なのだが、直通通路入口からずっと、置ききれなくてもう一面にお祝いの生花で溢れている。花畑をかき分けて進んでる気分だ。
 大宮の金持ちの名前が多い。相当期待されてるな。
 大企業がバックについているライヴハウスは現代では情報集積地だ。
 トレンドのファージ技術や音響技術、最近の市場の傾向が、研究や発表と共に日夜更新されている。

 籠原も熊谷もテルミットの再誘致に動いていたが、流石に二ノ宮は首を縦に振らなかった。条件を良くしたし、肉嵐対策は二ノ宮主導で動いていたから、また籠原で仕事したくて手を貸していたのだと思われていて、上が代わって心も入れ替えたから当然来てくれると上から目線で思っていたらしい。
 かなりの企業を誘致成功したので、何故来ないのかと籠原側の担当者が不思議に思っているとスミレさんが苦笑いしていた。
 街ぐるみで潰そうとしてきたのに、本気で言っているとしたら怖いな。
 いつコロッと気が変わって売られるか分からない状況で仕事なんてしたくない。

「あの街は、金も銃も同時に出てくるからね。嫌いじゃないけど、今は困るわ」

 確かに、気前は良かったが、手の平ドリルは俺も困る。
 熊谷のあの勢力図カオスな中でサワグチの身の安全も守りながら自分の身も守るとか、ムリゲー過ぎる。
 テロリスト共も、ナチュラリスト共も、俺が一人で大宮から出ようものなら待ってましたとばかりに襲い掛かってくるだろう。
 そして、寝る間もなく逐次投入される物量の前におれは成す術もなく捕まり、脳缶になる未来が見える。
 そして数年で使い潰されてエルフに安く売られるのだろう。




「大丈夫よ。籠原にはもう行かないわ」

 落ち着いてきた店内で、バーカウンターに陣取ったスミレさんは、ソフィアの偽物と俺に夕飯を作ってくれている。
 ステージではアンカーパイルで歌っていたエロ女と同じユニットのトランペット使い、名前は何だったか?チョコレートっぽい名前の奴と、金属袋が高速でジャズセッションしていて、つつみちゃんとシャカタカがそれを煽っている。この間のですっかり仲良くなったみたいだな。
 熊谷なんて気にしていない風に装ってステージを眺めていたのだが、スミレさんにはしっかり見抜かれている。

「なんだ。横山怖いの?」

 サワグチにもしっかりバレている。
 そりゃあ。

「怖いな」

 俺だけなら、自分一人だけならまだ我慢できる。
 けど、サワグチやつつみちゃん。
 どんなに安全な環境でも、どんなにセキュリティに資金と知識をつぎ込んでも。夜寝て、また朝起きた時、そこで地獄を見せられたらどうしよう。と、不安になる時がある。
 そもそも、この今の状況が俺にとっては異常で、不安で、孤独で、安寧とはほど遠い。
 昔にはもう戻れない。
 この世界は、なんとなくで生きていける優しい世界ではない。
 スリーパーとして生きているのが良いのか悪いのか。
 そもそも選択肢が無い。
 遺伝子鍵は一生付いて回る。

「ふうん」

 俺が強がるとでも思っていたのか、サワグチは面白くなさそうにサラダを突っついている。

「そうだ、さっきの続きだけど」

 スミレさんが俺とサワグチに指向性通話で話し始めた。

「ヒマリも聞いておいて。カミオカンデの話」

「あいつらまた何か余計な事やってるの?」

 俺がサラダを食べ終わったのを見て、スミレさんは飲み物のお代わりを用意し始めた。
 三人分のコーヒーカップを温め始める。

「余計と言えば余計ね。近いうちに彼らが青森に遠征に行くんだけど、オブザーバーとして、生体接続者も参加して欲しいって大宮市議会に話が来てるの」

 色々と良く分からない。

「余計な事しかしないな。トラブルメーカーども」

「生体接続者って、実質俺に青森まで行けって事か?」

 俺が行ったところでどうなるんだ?
 トラブルの種にしかならなそうだが。

「目的は、青森ではなくて、リョウくんとのコンタクトでしょうね。青森なのは、多分リョウくんの為ね」

 俺を青森に連れていくから、代わりに接点作れと?
 俺に何の得があるんだ?
 言う事聞かないと損があるのか?

「ああ」

 サワグチは理解したのか?

「プレゼントするから友達になってくれって事か。受けとけば?奴らに貸しが作れる」

「どこがプレゼントなんだ?」

「元々、あたしも青森は気になってた。あそこにはスリーパーに関する何かがある。知りたいけど、現地に行く手段は少ない」

 何かあったっけ?
 生まれは北関東で青森なんて行ったことも無いんだが。
 貝塚がくれたデータのリスト、あの医療施設も籠原の事だし、何なんだ?
 ハテナで埋め尽くされた俺を見かねて、スミレさんが説明を始める。

「ヘルプコマンドの緊急発信。関東からの大量発信源に見せかけて結局青森から出てたのよ」

 あれってそんなに大事な話なのか?

「自律AIじゃなくて、あの時青森から誰かが見ててサポートしてたとでもいうのか?」

「そうよ」

 何それ怖い。
 通信環境を慌てて確認する。
 送受信ログもアドレスも、不審なものは無い。
 探査範囲を広げても不審なアドレスは出てこない。
 後で時間を作って虱潰ししよう。

「ちと待って。そもそも、ファージネットワークって、距離が遠くなればなるほど脆弱性も消費エネルギーも加速度的に増すんじゃなかったっけ?」

 ケーブル通信網や衛星通信網と違い、ファージは距離が開くにつれノイズと遅延が多くなる。大昔のアナログ回線並みに浪費する仕組みだ。アカシック・レコードへのアクセスは無制限だが、アドレス同士の距離が物理的に遠いと、それに比例して通信環境は悪くなる。
 ブラフとして撒くなら兎も角、本気で青森経由で関東から送受信するのは難易度もリスクも高すぎる。
 今の世の中、遠距離で快適に通信したいなら、大企業が持っている衛星通信回線を経由した方が速いし正確だ。
 ただ、接続地域は限定的だし、金もかかるから一般にはあまり普及していない。
 ルルルはいつ発表するのかな。
 何が起こるのか見てみたくはある。

「妖精さんが守ってくれたってのより、誰かが横山をストーキングしてたって方がよっぽど現実的じゃない?」

 そりゃそうだけど、いつから?何のために?
 あれ以降、それらしい手助けは全く無かったし、意味不明だ。

「あたしの起きた時より少し前から、青森からの不審なアクセスは数年に一回程度の頻度で有った」

 初耳だ。

「都市伝説と同じ程度の話だし、アカシック・レコード自体が自律AIの山でオカルト話には事欠かないから、数あるネタの一つ程度だった。実際、あたしも昔少し調べた」

 それで以前、青森ってのに反応してたのか。

「でも、アカシック・レコードで何か探したいのなら、正式に依頼すればいいだけの話じゃないのか?」

 その質問は当然だとスミレさんは頷く。

「カミオカンデが探しているのは、ファージネットワークに影響を及ぼすオブジェクトなの。アドレスの所在地にあるモノに興味を持ってるの」

 発信源が何なのか、誰なのかって事か。

「俺がその話を受けると思っているのか?」

「むしろ受けないの?」

 受けるけど。

「横山は神経質で潔癖症だもんね。気になって仕方ないでしょ」

 ニヤニヤしやがってこいつ。
 俺は清潔症候群じゃない!

「空路でも陸路でも青森までは行けないから、海路しか手は無いのだけど、安全確保の為には船団を組織する必要がある。関東で、青森まで行って帰ってこられる武装船団を即座に組織運営出来るのは今の所”貝塚物流”だけなの」

「海ってそんなに危険なのか?」

「海もそうだけど、東北が危険なのよ。付近のファージも含め、ナチュラリストの勢力下だし」

 サワグチも頷く。

「津軽海峡付近は比較的安全だけど。基本、東北の二百海里は踏み込んだら死ぬと思った方が良い。燃料ケチったタンカーがもう何隻も拿捕されてるし、近づいた船は大体消される」

 そんなに?!

「そんな所に行って大丈夫なのか?」

「貝塚物流はもう何十年も北海道と取引してるし、ルート開拓も出来てると思うわ。もしかしたら、青森のそのアドレスにも行ったことがあるのかも」

 俺が行く必要がある何かがそこに有るってのか?

「事故を装ってスリーパーの身柄を拘束する為ってのは?」

「資産が一京か二京増える程度の事の為にわたしたちと事を構えたりはしないでしょう」

 お、おう。

 スケールが違うな。
 てか、俺の価値ってその程度なんだな。
 地下に行けば無価値な俺も、地上では金鉱山か。

 ん?

「どうした?」

 目敏くサワグチが気付いた。

「いや」

 一つ、可能性に気付く。
 地下から誰かがこっそり青森を経由して発信してたんじゃないか?
 スリーパーを助ける為に。

「違うか」

 ないな。
 そんなまどろっこしい事する筈がない。
 そもそも、地下市民は地上の技術革新にも無頓着だし、供給はするけど、死のうが生きようが、知ったこっちゃないというスタンスだ。
 地上の俺を助ける意味が無い。
 本当に助けたかったら、施設に電力だけ送るなんてせずに居場所が判明した時点で何が何でも地下に接収するだろう。

「サワグチにもアクセスが有ったのか?」

「あたしには一度も無い。あたしと横山の間にも、何十人か起きたり起こされたりして、全員もう亡くなってるけど、その中の何人かがアクセスを受けた」

 守る法律が出来るまでに無理矢理起こされた人たちか。

「ヘルプコマンドに助けられたのか?」

 サワグチとスミレさんは顔を見合わせている。
 何だ?

「まぁ、あんたがちょっと調べれば出てくるし。そいつらは青森からの送信で殺されたの」

 それは・・・、また。

「経緯とかは後で読んで。あたしが以前調べたまとめとか参考データのリンク送るよ」

「よろしく」
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