寝起きでロールプレイ

スイカの種

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第二章

第98話 未遂

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 平和と安寧は、口を開けていれば落ちてくるモノではない。
 全力で維持していかなければ、たやすく崩れ去り、消え去ってしまう。
 そのトラブルの要因は、自らの過失だけではない。他人、仲間、家族。
 全てに目を光らせ、大事になる前に対処し、収束、再発もしっかり防がなければ、新しいトラブルに加えて同じトラブルをも繰り返して二度手間三度手間だ。
 身内や仲間にトラブルメーカーがいたら、それだけで難易度は爆上がりだ。
 いくら自分が一生懸命現状維持に努めても、容易く台無しにしていく。

 たとえそいつが、どんなに良いやつだったとしても。
 たとえそいつが、どんなに好きな人だったとしても。

 組織や生活を維持するためにはそいつを排除するのが身の為だろう。
 リスクマネージメントは感情論ではいけない。

 では、自分がトラブルメーカーだと、本人が気付いてしまった場合はどうすればいいのか。
 死ぬのか?組織から抜けるのか?
 トラブルを起さないように立ち回る努力をするのか?

 そこがお米の国の映画の主人公だったら、そいつは我関せずと好き放題し、周りを巻きこみ、数分毎に色々爆破し、何故か最後に好かれて救われる。

 ホラー映画だったら、最後は惨たらしく死ぬのが定番だけどな。
 あれは例外だ。ホラーの起承転結はクソほど息してないから。

 そっか。
 俺はホラー映画のキャストなんだ。

「よこやまクン、しっかりして。もうちょっとで抜けられるはずだから」

「ごめん。ほんとごめん。生きててごめん」

 クソムーブかまして話の冒頭でミンチになるパリピと同レベルだ。

「重傷ね」

 ソフィアの方が重傷だ。痛みに震える青白い顔で、唇を噛んでいる。
 今、止血こそしてあるものの、脹脛の肉がこそげ落ちている。
 人類の至宝が、至高の美脚が俺の所為で傷付いてしまった。

 いつものツーリングのつもりで、大宮から少しだけ出た。
 熊谷までの国道十七号線、俺が大名行列する為だけに、大宮が作ってくれた道路だ。
 作られて日も浅いのでアスファルトの品質もまだかなり良く、バイクでかっ飛ばしたら気持ちいいに決まってる。
 通行量はそれなりにあるのだが、リニアレールが引いてあるので、タイヤの摩耗を防ぐ為重いトレーラーは接地せずに走る事が多い。当然、轍の凹みもほとんど無い。
 現代日本人の道路交通技術の粋が詰め込まれた新十七号線。
 何度か走ったことがあるし、ちょっと大宮から出るだけ。今回も大丈夫と思っていた。

 手ぐすね引いて、待ち構えていた。

 ナチュラリスト。
 盗賊団。
 賞金稼ぎ。
 熊谷の企業からの私兵団。
 ノリで一攫千金狙うクソ共に。
 お祭り好きなコボルドが暴れているのも見かけた。
 さっきなんて遊びに来た殺し屋に”こんにちは”された。

 確かに、万馬券落ちてて、場所分かってるなら拾いに来るよな。
 でもさ。
 もっと自重しろよ!
 世紀末のモヒカンでももうちょい空気読むぞ?!

 大宮の正規市兵団と、大宮市警と、二ノ宮の傭兵たちが救助に出張って来てくれたが、火に油を注いでいる。

「最近周りが大人しかったんで忘れてたけど、あんたってスッゴイ人気者だったのね」

 逃げる度に大宮から離され、今は鴻巣の荒川沿い、朽ち果てた雑居ビル群の一角に三人で身を潜めている。
 俺だけだったらやり様はいくらでもあるが、女の子二人抱えてガチバトルは正直避けたい。
 ファンタジーの主人公だったら、大立ち回りでカッコよく殲滅して、死骸の山の上でドヤ顔とか出来るんだろうが、現実には無理だ。
 俺は結構鍛えてはいるが、人を殺せる威力で数十回鉄パイプを振るうだけで青息吐息だし、パクったこの錆びた突撃銃も、ゲームと違ってマガジン一個分も撃てばベーコンが焼けそうなくらい銃身が熱くなるから、熱感知で直ぐ居場所がバレる。そもそも残りあと十三発しか無いし、三発に一発は弾が湿気ている。ナイフも有るけど、大立ち回りには使いづらいんだよな。ブラックジャック作りてぇ。
 バトルフィールドで居場所がバレるとどうなるか。わかるよな。
 平地の真ん中でキラキラ光ってドヤ顔しながらムニャムニャ呪文喋ってる暇は無い。
 ヒーローの前にノコノコ出て来て負けて死んでくれるモブおじさんなんて居ない。見えない所から周囲のファージを弄られ、身動きも出来ず声も出せないまま、四肢を撃ち抜かれ、無力化され、運が良くて身代金の材料。運が悪ければおもちゃにされてから食肉加工場行きだ。
 俺は運が良い方の扱いだろうが。つつみちゃんとソフィアは。考えたくない。

「面倒だから、もうMAP兵器しちゃおっかな」

「連絡が取れなくなってる傭兵のおじさんたちが可哀そうだよ」

 つつみちゃん、そうは言いますがね。
 このままだと、俺らもっと可哀そうな目に遭っちゃうんだよ。

 出会い頭に無力化とかなら今の俺なら余裕で出来る。
 でも、二人を隠しておいて周囲に隠れている奴らを炙り出して無力化してとかやってたら、しっかり二人が襲われた。
 ファージや音で隠しても、全く効果が無い。
 どんなに上手く隠れても、地図見てルート予測してアタリを付けて山狩りされるだけで炙り出されてしまう。
 ソフィアなんて脚撃たれて顔殴られて胸をしゃぶられた挙句に早漏野郎にぶっかけられた。
 俺が後五秒戻るのが遅かったら強姦が未遂じゃなくなってた。
 思い出すと冷や汗が止まらん。
 入れられてないからセーフだよな?

「うん?だいぶ治って来たわ」

 腫れた口の端を歪めながら不器用に微笑み、修復剤の残りをぺろりと舐めた。
 畜生。マジ済まん。

「ふふふ」

 ソフィアは俺の顔を見て嬉しそうにニヤついている。

「いつも傲岸不遜なあんたが珍しいわね」

「俺はいつだって後悔を忘れない生き物だ」

「嘘ばっかり」

 つつみちゃんから秒で突っ込みが入る。

「反省はしても後悔はしないんじゃなかったの?」

 言った気もする。

「考えるのは後にしよう、移動するぞ」

「あ。流した」

 また集団が近づいてきた。ソフィアをおぶってつつみちゃんの手を引く。
 ぱっと見で百人近くいる。ファージガードしてるし、かなり広範囲に散開しているので厄介だ。

「無人機も持ってるね。こっちも展開しておく」

「よろしく」

 人は、ちゃんと喰ってクソして寝ないと死ぬ。
 一日でパフォーマンスは激落ちだ。
 夕方チョロっとツーリングして遊ぶつもりが、既に後半時間程で日は落ちる。
 日が暮れたら、明日の朝日を拝む前に、数の暴力で俺らはすり潰されるだろう。

「虫が多いな」

 蚊だか蚋だか、脚が長くて羽音の高いキモい虫が大量に飛んでいる。
 水場があるのか。
 少し蒸している気もする。
 ああ、荒川があるからか。
 虫が繁殖しないように護岸整備して欲しいよなあ。
 つつみちゃんのガードが無ければ、俺らはあっという間に体液を吸われまくって全身掻きむしりながら干からびている。
 虫を求めて、蝙蝠だか夜鷹だかが飛び回り、そいつらも虫に集られて墜落してたり。
 銃身に寄ってくるアホ虫は何がしたいんだ?
 暴発するんじゃないかってくらいモリモリ集っては焼けて死んでいる。

 サーチ範囲内にコボルドがいる。
 こちらから視認は出来ないが、付かず離れずマークされている。
 でも、迂闊に撃退できない。
 向こうもおいそれと襲撃はしてこない。
 大規模なファージ操作したり、戦闘音がすれば有象無象が我先にと一斉に押し寄せてくる。犬どももそれは分かっている。

 コボルドは鼻が凄く良いらしく。好みのメスの匂いを細かく嗅ぎ分けてから襲い掛かるそうだ。あいつら、女を見付ければ犯す事しか考えないからな。
 この二人は犬にもモテモテだ。
 さっきのクソ盗賊共ならなんとかなったが、今コボルドみたいな戦闘民族が十匹くらいで一斉にかかってきたらぶっちゃけ詰む。
 奴ら対策でマスタードガスでも欲しいな。

 因みに俺は、アトムスーツはいつも通り着ているのだが、ヘルメットは割れてしまってメインのバッテリーパックも破損したので重いから捨ててしまった。
 つつみちゃんとソフィアはホットパンツだ。
 襲ってくれと言ってるようなもんだ。正直エロい。
 平時ならご褒美だが、今は懸念点にしかならない。

 二ノ宮と連絡を取れば良いのだが、居場所がバレた後確実に耐えきれる状況じゃないと助けが来る前に捕まるので、非常手段だ。

「いっそのこと、どこかのビルの屋上に登ってヘリ呼ぶってのは?」

 囁くソフィアの息がうなじに吹きかかる。
 汗ばんだノーブラの巨乳が俺の背中で形を変えているのがスーツ越しに感じられるが、気付かないフリをする。

「一発勝負でリスクがデカすぎる」

 失敗はできないからな。

「耐えきれるヘリも無い」

 ヘリも万能じゃない。
 っと。
 前方廃車の山に人影、サーチ範囲外だが、見通しが良かったので気付いた。
 逆光で一瞬だが、三人見えた。

「つつみちゃん、ノイキャン今範囲どんくらい?」

「同じ。三メートルで設定してある」

「らじゃ。前方。サーチ範囲外、あの車の山んとこ三人」

「りょ。一つ出すね」

 つつみちゃんは、コントロールしているスフィアの一つをビルの壁にくつけると、そのまま外壁に沿ってコロコロ上に転がしていく。
 夕闇に消えて見えなくなったが、たぶんあっちに近づいて行ってる。
 サーチ範囲が前方に広くなっていく。

「んむ」

「張ってるな」

 前方に広く展開されている。
 追ってきてるのと同じ勢力だろうか。
 まだソフィアは走れない。抜けるのは難易度が高い。
 北か南に抜けるしかない。
 十七号に出れば助けは呼び易くなるが、そこまでの網はかなり厚いだろう。
 南にしか行けないのだが、それはそれで罠だろうしなぁ。

「もう少し南下するとポンポン山があるの」

「ぽんぽん?」

「そういう名前なの!ここからだとぐるっと回らなきゃだけど南の麓に五百人くらいのコミュニティが有って、外回りで一度行った事がある。治安はしっかりしてる街だったわ」

「匿ってくれるのか?」

「無理ね。厄介ごとは御免でしょうね」

 駄目じゃん。

「忍び込んで有線で連絡取るくらいなら出来るでしょ?」

 なるほど。
 行けない距離でもない。

「よし、レッツぽんぽん」

「ばかっ」

 頭を叩かれた。

「ソフィア。しーっ」

 つつみちゃんに睨まれてソフィアが首を竦めると、髪がかざってくすぐったかった。俺が首を竦めると、真似したと思われて後頭部に頭突きされた。
 理不尽だ。


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