27 / 65
第四章
第26話【現在】初恋、あるいは現在進行系
しおりを挟む
あのあと、陛下のことを避けた。徹底的に。
こちらをじぃっと見ている気配は感じたけれど、少しでも近づいてくる気配があれば女子トイレに逃げた。
そんな努力の結果もあり、無事に放課後にモーリスのいる保健室までこれた。
ちなみに友達は一人もできなかった。皇帝陛下に直接話しかけられる新入生なんて、遠巻きにされて当然だと思う。私も多分そうする。
いいもん。私にはモーリスがいるし……。
「あの男、アタシが見てない間にそんなことしてたの?」
モーリスは呆れ顔だ。
今日も甘いポーションを飲みながら、モーリスに魔力の流れを整えてもらっている。
夕方になるにつれ、昨日整えてもらって魔力の流れが乱れてきたのか徐々にしんどくなってきていたから、無事に治療してもらえて安心した。
温かい魔力が指先からじんわりと全身に回っていくのがわかる。
「宿題は出た?」
「レポートが一枚でました」
「ここで書いていきなさいよ。添削してあげるわ」
そう言って紙を渡してくれた。これで筆談しようというお誘いだと理解した。
これだったら手のひらに書くよりも情報量が多いし、手のひらに書いていた時みたいな簡単な言葉でやりとりをする必要がなくなる。
終わったら暖炉にくべてしまえば証拠隠滅も容易い。
「モーリス先生だけに言うんですが……私、陛下のこと初恋でした」
私がそういえば、モーリスは目を見開いたまま固まった。
かと思えば、その後何やらソワソワとしだす。
「え、恋バナ?恋バナしちゃう?」
モーリスの目が鑑定魔法を使ってないのにキラキラと輝き始める。
「初恋」が前世のことだと分かってくれたみたいだ。誰にも言ったことのない恋心を吐露するのは、正直恥ずかしい。
「これに気づいたのは最近の話です」
頬が燃えるように熱い。
モーリスが「もっと聞かせなさい!」と言わんばかりにお茶とお菓子を用意し始めた。
片手は私の治療で塞がっているから、残った片手で大変器用なことである。
「女の子の将来の夢と言ったらお姫様でしょう?この国には皇子殿下がいないから、必然的にその対象は皇帝陛下になるのはごく自然なことだと思います」
やたらと説明くさい口調になってしまったけれど、もちろんこれは建前だ。
陛下が盗聴魔法で聞いている可能性がある以上、どうしてもこういう言い方になる。
「で、実際話してどうだった?」
「ないな、と」
盗聴されているのに、あえてこんな話をしているのは陛下避けのためだ。
流石に自分のこと……しかも恋愛について話しているときに来るほど、無神経じゃないと信じたい。
むしろ、どこかで耳をそばだてて聞いていそうな気がする。
「私は、私のことを一番大事にしてくれる人を好きになります。でも、陛下の一番大事な人は私ではありません。だから無いです」
「そうよねえ、陛下はアリアナ様が亡くなってから、ずーっとアリアナ様一筋だったからねぇ」
モーリスがニヤニヤと笑っている。
「両思いだったんじゃん?」とでも言いたげだけど、残念ながらすれ違いの恋だと思う。
アリアナにとっては、陛下が初恋で最後の恋だった。でももし、陛下が私を想ってくれていたとしたら……
その恋は、私の死後から始まったんだと思う。
話している間にも手元では筆談が進む。
『昨日言ってた「覚悟を決めた男は笑う」ってどういうコト?』
『笑うしかないでしょ。あんなの。後戻りできない、絶対しないって、自分に言い聞かせるために』
モーリスの右手は治療のために私の左手に繋がれたままだ。
利き腕は右腕だから書きづらいらしい。モーリスにしては整っていない文字が、紙の上でいびつな間隔で置かれていく。
モーリスはペンを手に持ったままボリボリと頭を掻いた。
『でも、間ちがいなくアンタを殺すように命令したこと、それがきっかけで、でんかは「人」から「王」になった』
『いっぱい殺したって話は聞いた。血のシュクセイだっけ?』
『それもでんかが人のままだったら できなかっただろうね』
『私、殿下に嫌われてるのかと思った。笑って殺される程度の人間だったのかなって』
私が書いた文字を見て、モーリスが一瞬目を伏せて、ふーっと深く息を吐いた。
『でんかは アンタが死んだあと ずーっとアンタを探してたの』
『なんで? 私、もう死んでるじゃん』
高出力の魔力砲に焼かれて死んだのは殿下だって見てたはず。
『それでも探してたのよ。この世にいないって 分かってるのにね』
ペン先が踊る。何も思い浮かばずに、ただぐるぐるとした黒い渦巻きだけ書いた。
じわじわとインクが、白い紙に滲んでいく。
『死に際に笑われるくらいだし、陛下に嫌われていたのかな』
その答えは出た。
死んだあとに探されるくらいだ。嫌われてはいなかったのだろう。
それどころか大切に思われていた。
ただ、死んだあとに一人で私を探す殿下を想像してしまって、ひどく苦しい気持ちになった。
どうして、私はその隣りにいられなかったんだろう。
そこにいられるはずなんて、ないのに。
あのとき隣にいたかった、どうしてお前はそこにいないんだと、心のどこかが叫んでいた。
『アンタの死後のことが知りたいなら、アリアナ・ブレメア博物館に行くと良いわよ』
あー、つかれた、という表情でモーリスがペンを投げる。
利き腕じゃない手で文字を書き続けるのは、さぞ大変だったに違いない。
『博物館があるの!?』
しかもアリアナの名前がついてるの!?
びっくりして顔をあげたらモーリスがニヤニヤしていた。
モーリスが立ち上がって紙を暖炉にくべる。
二人の秘密の会話の記録は、あっという間に燃え上がって灰となった。
初恋「でした」にするには、もしかしたらまだ早いのかもしれない。
いや、でも今の陛下なんか変態っぽいしなぁ……。
私の悩みは尽きない。
こちらをじぃっと見ている気配は感じたけれど、少しでも近づいてくる気配があれば女子トイレに逃げた。
そんな努力の結果もあり、無事に放課後にモーリスのいる保健室までこれた。
ちなみに友達は一人もできなかった。皇帝陛下に直接話しかけられる新入生なんて、遠巻きにされて当然だと思う。私も多分そうする。
いいもん。私にはモーリスがいるし……。
「あの男、アタシが見てない間にそんなことしてたの?」
モーリスは呆れ顔だ。
今日も甘いポーションを飲みながら、モーリスに魔力の流れを整えてもらっている。
夕方になるにつれ、昨日整えてもらって魔力の流れが乱れてきたのか徐々にしんどくなってきていたから、無事に治療してもらえて安心した。
温かい魔力が指先からじんわりと全身に回っていくのがわかる。
「宿題は出た?」
「レポートが一枚でました」
「ここで書いていきなさいよ。添削してあげるわ」
そう言って紙を渡してくれた。これで筆談しようというお誘いだと理解した。
これだったら手のひらに書くよりも情報量が多いし、手のひらに書いていた時みたいな簡単な言葉でやりとりをする必要がなくなる。
終わったら暖炉にくべてしまえば証拠隠滅も容易い。
「モーリス先生だけに言うんですが……私、陛下のこと初恋でした」
私がそういえば、モーリスは目を見開いたまま固まった。
かと思えば、その後何やらソワソワとしだす。
「え、恋バナ?恋バナしちゃう?」
モーリスの目が鑑定魔法を使ってないのにキラキラと輝き始める。
「初恋」が前世のことだと分かってくれたみたいだ。誰にも言ったことのない恋心を吐露するのは、正直恥ずかしい。
「これに気づいたのは最近の話です」
頬が燃えるように熱い。
モーリスが「もっと聞かせなさい!」と言わんばかりにお茶とお菓子を用意し始めた。
片手は私の治療で塞がっているから、残った片手で大変器用なことである。
「女の子の将来の夢と言ったらお姫様でしょう?この国には皇子殿下がいないから、必然的にその対象は皇帝陛下になるのはごく自然なことだと思います」
やたらと説明くさい口調になってしまったけれど、もちろんこれは建前だ。
陛下が盗聴魔法で聞いている可能性がある以上、どうしてもこういう言い方になる。
「で、実際話してどうだった?」
「ないな、と」
盗聴されているのに、あえてこんな話をしているのは陛下避けのためだ。
流石に自分のこと……しかも恋愛について話しているときに来るほど、無神経じゃないと信じたい。
むしろ、どこかで耳をそばだてて聞いていそうな気がする。
「私は、私のことを一番大事にしてくれる人を好きになります。でも、陛下の一番大事な人は私ではありません。だから無いです」
「そうよねえ、陛下はアリアナ様が亡くなってから、ずーっとアリアナ様一筋だったからねぇ」
モーリスがニヤニヤと笑っている。
「両思いだったんじゃん?」とでも言いたげだけど、残念ながらすれ違いの恋だと思う。
アリアナにとっては、陛下が初恋で最後の恋だった。でももし、陛下が私を想ってくれていたとしたら……
その恋は、私の死後から始まったんだと思う。
話している間にも手元では筆談が進む。
『昨日言ってた「覚悟を決めた男は笑う」ってどういうコト?』
『笑うしかないでしょ。あんなの。後戻りできない、絶対しないって、自分に言い聞かせるために』
モーリスの右手は治療のために私の左手に繋がれたままだ。
利き腕は右腕だから書きづらいらしい。モーリスにしては整っていない文字が、紙の上でいびつな間隔で置かれていく。
モーリスはペンを手に持ったままボリボリと頭を掻いた。
『でも、間ちがいなくアンタを殺すように命令したこと、それがきっかけで、でんかは「人」から「王」になった』
『いっぱい殺したって話は聞いた。血のシュクセイだっけ?』
『それもでんかが人のままだったら できなかっただろうね』
『私、殿下に嫌われてるのかと思った。笑って殺される程度の人間だったのかなって』
私が書いた文字を見て、モーリスが一瞬目を伏せて、ふーっと深く息を吐いた。
『でんかは アンタが死んだあと ずーっとアンタを探してたの』
『なんで? 私、もう死んでるじゃん』
高出力の魔力砲に焼かれて死んだのは殿下だって見てたはず。
『それでも探してたのよ。この世にいないって 分かってるのにね』
ペン先が踊る。何も思い浮かばずに、ただぐるぐるとした黒い渦巻きだけ書いた。
じわじわとインクが、白い紙に滲んでいく。
『死に際に笑われるくらいだし、陛下に嫌われていたのかな』
その答えは出た。
死んだあとに探されるくらいだ。嫌われてはいなかったのだろう。
それどころか大切に思われていた。
ただ、死んだあとに一人で私を探す殿下を想像してしまって、ひどく苦しい気持ちになった。
どうして、私はその隣りにいられなかったんだろう。
そこにいられるはずなんて、ないのに。
あのとき隣にいたかった、どうしてお前はそこにいないんだと、心のどこかが叫んでいた。
『アンタの死後のことが知りたいなら、アリアナ・ブレメア博物館に行くと良いわよ』
あー、つかれた、という表情でモーリスがペンを投げる。
利き腕じゃない手で文字を書き続けるのは、さぞ大変だったに違いない。
『博物館があるの!?』
しかもアリアナの名前がついてるの!?
びっくりして顔をあげたらモーリスがニヤニヤしていた。
モーリスが立ち上がって紙を暖炉にくべる。
二人の秘密の会話の記録は、あっという間に燃え上がって灰となった。
初恋「でした」にするには、もしかしたらまだ早いのかもしれない。
いや、でも今の陛下なんか変態っぽいしなぁ……。
私の悩みは尽きない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
コンバット
サクラ近衛将監
ファンタジー
藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。
ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。
忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。
担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。
その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。
その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。
かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。
この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。
しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。
この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。
一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる