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第二十五踊

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 ーーいざ、王都。
 私は馬車に乗り込む。召喚状に応じるためだ。どんな処分を受けるにせよ、ケジメだと考えている。
 もし、叶うならば、シンデレラに一言言いたい。あんたの人生、人を貶めて満足か、と。人を食い物にする人間には、少なくとも心に一片の曇りが残る。人は綺麗事だけでは生きられないが、人として踏み外してはいけない道があると思うのだ。
 シンデレラに何らかの事情があれど、私たちが一方的に攻撃を受けて良いはずはない。少しでもシンデレラに『曇り』を与えてやりたい。

「ふう……」

 私は領の屋敷を一瞥し、御者に出発を告げる。いきなり王都で幽閉されることもないだろうが、何が待ち受けているかわからない。お母様とお姉様がしばらくは生活できるだけの用意はしておいた。
 領政も問題ないだろう。あとは運を天に任す。一抹の不安と寂しさを覚えつつ、王都の方を見据えると、

「わーい、旅行」
「ふむ、遠乗りか……」

 などと口にしつつ、お母様とお姉様が馬車に乗り込んでくる。二人とも、しっかり旅支度だ。お姉様は果物に齧り付き、タネを飛ばしている。ヤメテ……。

(ヒイィィィ、いつの間に。気付かれないように、こっそり出たのに)

 いつものノリに悲壮な覚悟が台無しになるが、私は同時に心強さを覚えた。

 キュッキュッ!

 あ、ハムハムも来たのね……。私はハムハムを服の中に入れる。すっかり定位置である。

「ご武運を」

 執事頭であるパースが、そう言って見送りをしてくれる。私は笑顔で応じた。
 ……まあ、王宮に行くのは私だけで、お母様たちにはどこかで待っててもらえば問題ないのかな、と考えて賑やかな旅路を過ごした。
 朝に領を出れば、夕方には王都に着くーー。

◇◆◇

 久しぶりの王都で宿に落ち着き、翌日は召喚状に応じるよう役人に伝えている。私は個人的に『壁の花ーズ』を結成していた数人に手紙を送った。使用人に届けてもらったのだ。幾人かはすぐ返事を返してくれたので、近況を知ることができた。
 時折領地からも手紙を送っていたが、未だに数人とは遣り取りができていて、変わらぬ壁の友情に心が温まる。
 王都の情勢、第二王子とシンデレラの様子も少しながら知ることができたーー。


 さて、お母様とお姉様は部屋でゆっくりしているし、私もすることがない。手紙をゆっくりと読み返していると、ハムハムがキュッキュッと遊びだす。私は手紙から目を離し、ハムハムに触れようとしたが手を引っ込める。
 ーー手が、震えていたからだ。
明日を控え、不安なのだ。手紙を読み返したり、何かしら頭や身体を動かしていないと不安で押し潰されそうになる。明日は伯爵家の取り潰しが決まるかも知れない。私は忌避される黒魔術を使ったとでっち上げられ、幽閉されるかも知れない。
 最悪の考えが頭を離れない。地に足がついてないとはこのことだ。
 キュッ、とハムハムが心配そうに見つめてくる。私は震える手を押さえつつ、ハムハムを撫でた。

「怖いの……」

 と、ハムハムに不安を吐き出す。一度吐き出してしまうと言葉が止まらず、ハムハムに領政のこと、財産のこと、お母様とお姉様のこと、第二王子とシンデレラのこと、壁の友情のこと、今後の身の振り方のこと……。
 全ての不安を口にしてしまう。私は弱い。ビックリするほど、弱い。だって、こんなに小さなハムハムに大きな不安を聞かせて、縋ってしまうのだから。

 キュッキュッ!

 私の手にまとわりつくハムハムが、『元気だして』と励ましてくれるようだ。自己嫌悪に陥る私を激励してくれる。ほんのり、指先から暖かくなる。小さなカイロのよう……、と言ったらハムハムが怒るかもしれない。しかし、私には暖かく心強い味方だ。
 お母様やお姉様も側にいてくれる。明日は、どんな結果が待っていようとしっかりしよう。
私は『ありがとう』とハムハムを撫で、小さな額にキスをする。小さな騎士さんに、小さなお礼だ。私はハムハムをカゴに戻す。ハムハムがポテッと倒れた。む、失礼な……。


 明日は、決戦ーー。






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