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第三十踊

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 いつの間にか私が伯爵家の当主とか言われて、家や領地の運用、お母様とお姉様の面倒見てきたつもりだけど……。
 お母様やお姉様は私の認識の斜め上を行く……。

「ひとつ、お断りいたしますが……」

 トドメ、とばかりにお母様が交易の拡大を発表した。
 お母様の小難しい話を要約すると、いつの間にか広大な貿易圏が出来上がっており、その中心がロワール伯爵家とイリタ王国とドネツ王国。そこを中心にして大陸中の国の経済が回るように形成されつつある。しかも、微妙にフランシア王国だけ外されていた。

(フランシア王国、立ち枯れしちゃう……?!)

 貿易圏は既に動き出しており、奔流には抗えない。各国の首脳による協定が宣言される日程まで調整されつつある。フランシア王国だけ除け者だ。
 お母様は伯爵家に嫁いで来て、伯爵家の財政を数倍の規模に引き上げた他、自分でも事業を立ち上げて国でも有数の資産家になった女傑……。誰が呼んだか『マダム・デラックス☆』。本気になれば、各国を主導するほどの手腕を発揮できるのね。
 これには居並ぶ貴族たちが魂を飛ばした。国益を損ねるどころか、国が成り立たなくなる。貴族たちの動きが怪しくなる。自分たちの付け入る隙を探し始めたのだ。

「…………」

 第二王子が臨界点に達した。
 追い詰められて、更にそこから最悪の状況を突き付けられたのだ。あとは爆発するしかなくーー。

「衛兵ィッ! ロワール伯爵家の者共とイリタ王国の使者を語る偽物を捕えよ! 捕らえよ! 捕らえよぉぉーッ!!」

 恥も外聞もなく喚く。
 流石にそれは不味いという空気が流れ、誰しもが動けないでいる。王の間に近侍する衛兵も、戸惑う様子を見せるだけだ。

「どうしたのだ!? 捕らえよ! 捕らえよーッ!」

 喚き続ける第二王子。

(これ、どう収拾をつけるのかしら)

 私は他人事のようにそう思った。
 呆然と事態の流れる方向を窺っていると、

「待てーッ!」

 待ったの声が。
 王の間にまた新たに現れた人がいるーー。
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