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3章 アドルファス帝国編

34話 帝国からの宣戦布告です

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 研究所での話しも終わり、王城のベッドで横になりながらミレーヌ所長の言葉を思い出す。『オサムは天才、研究員になるべき』か……。

 天才なんてのは俺程度じゃ名乗れないだろう、もっと……。

 俺は目を瞑って、少し昔のことを思い出す。

 ――*――
 中学二年生の頃。(オサムの回想)

 冬の全国中学統一テスト
 一位:五百点(東京都 不破賢音)
 二位:四九八点(東京都 熊井理)
 三位:四二一点(岐阜県 ――)

「くっそー!あそこのチェックミスさえ無ければ同点だったのによ!」

「ふふふ。たかが二点、されど二点だよオサム」

「ていうか賢音は当日休んでたろ、何してたんだ?テストは後日受けたのか?」

「当日は裏の学会に呼ばれて、異世界の存在を科学的に証明してたんだ。ふふふ、その世界に行ければオサムと……」

「はあ?そんなんニュースになってねえじゃねえか、厨二病は程々にな」

「ふふふ、この国の猿共の唯一誇れることは、妄想力だな。理解出来てもいないのに異世界を想像し、そして存在が証明された。猿共の妄想が実現可能な未来を見ていると仮定するならば、魔法もあるのだろう。魔法ならば……ぐふふふ」

「おい、トリップしてんなよ。それで?テストはいつ受けたって?」

「ん?私は一か月前には提出済みだったからね」

「先に受けてたってことか?そんな事できんのか?」

「ああ、テスト問題をちゃんと予測して、問題も回答も全部合ってたよ。見ての通りじゃないか」

「え?何言ってんのお前?」

「え?今の説明で何が分からないんだい?」

「テストの問題まで全部予想して、その上で全教科満点ってこと?」

「そう言ったつもりだが……」
 
「馬鹿言うんじゃねーよ、そんなんどうやって予測立てるんだよ」

「統一テストの作成者ってね、何人か事前に決まっているんだよ。名前だけ分かれば、後はその人の行動パターンを読めば簡単だ」

「はあ?」

「数学の問題なんかは使う公式も決まっているからね、一番簡単さ」

「使う公式が分かっても、数字の組み合わせとか無限にあるじゃねえか。そんなもんスパコンだって計算出来ねえだろ」
 
「無限桁の計算が出来ないコンピュータなんてただの漬物石じゃないか。カオス理論を完全に計算しきればすぐだよ、赤子の手をひねるより簡単さ」

「お前にとって赤子ってなんなの?ゴジラかなんかなの?ていうかじゃあ東大とかの試験もいけんの?」

「来年のかい?来年のならもう出来てるよ」

「はー、じゃあ来年の中間テストとか期末テストの答えも教えてくれ」

「はっはははははは、ひぃーっ!オサムは面白いことを言うね!テスト製作者が定まってないのに、そんなの分かるわけないじゃないか」

「いや……凡人の俺にはどこに笑いの要素があったかも分かんねえし、難易度の違いも分かんねえよ」
 ――*――

 どこか遠くで鐘の音が聞こえる。

「執事のセバスチャンでございます。失礼してよろしいでしょうか」

 部屋の扉がノックされる音と執事の声に気づき、返事をする。

「ええ、大丈夫ですよ」

 どうやらいつの間にか眠ってしまい、朝になっていたらしい。

「緊急の用事があるようでして、朝食が済み次第、謁見の間へお願い出来ますでしょうか?」

「え、ええ……。分かりました」

 緊急の用?何かあったのかな……。俺は手早く身支度と朝食を済ませ、謁見の間へ急いで向かっているのだが、城内もいつもの様子ではなく何か慌ただしい様子だ。

 いつもと違う空気に少し緊張しながら謁見の間の前まで来ると、ちょうど京介と美砂も同時だったようで一緒に中へ入った。リオンは美砂と寝ていたはずだけど置いてきたのかな?まあ朝早いしな。

「朝から呼び出してしまって申し訳ないな」

 ルロワ王が申し訳なさそうに声をかけてくる。

「おはようございます。いえ、構いませんよ。それよりも、随分と城内が慌ただしい様子ですね」

「ああ。皆を呼び出した理由でもあるのだが、隣国のアドルファス帝国から宣戦布告が来た」

「「「えっ!?」」」

 ルロワ王の説明に驚き、三人で声が揃ってしまった。

「降魔薬ハイロゲインでナーヴェ連合国を攻めていた件もそうですけど、魔人族が攻めて来るかもって時に帝国は何を考えてるんですかね?」

 アドルファス帝国の狙いが分からず、愚痴のように疑問が出てしまう。

「それは余も図りかねていてな。我らは最悪の想定として、魔人族と帝国が繋がっており挟み撃ちにされることを懸念しておる」

 うん、それは有り得る。薬を飲んで魔人族になるぐらいだ、繋がっているというよりは、全て魔人族が裏にいると考える方が自然かもしれないな。

「それで、共有頂けるのは嬉しく思いますが、なぜそれを我々に?」

「うむ。本来こういった宣戦布告時には通例でな、開戦時期まで明記するものなのだ。だが今回は時期が書かれておらんので、手紙でやり取りしながら、平行して内密に調査隊を派遣しようと思っておるのだ」

 おいおい、それって。

「そこで、余としては、調査隊を熊井殿にお願いできないかと考えている」

「いやいや、こないだ貴族になるのを断った通り、あまり戦力として想定されては困ります。大体、そういった調査隊は他に適任の部隊があるんじゃないですか?」

 俺は、そう言って天井の方を見る。

 以前なんとなく魔素粒子波動エーテルサーチを発動したら一杯いたんだよね。諜報部隊なのか、暗殺者部隊なのかは知らんが、黒くない政治など政治ではないだろう。

「ゴ、ゴホン!その件は改めて話したい所ではあるが、熊井殿はアレス教国の禁書庫に入りたいと言っておったそうではないか」

「まさか?」

「受けて頂けるのであれば、万事手はずを整えよう」

「行きましょう、すぐに行ってきます」

「オサム……」
「オサム君……」

 京介と美砂が呆れているが関係ない。大体、地球に帰りたいっていう君たちのためでもあるんだからねっ!

「ありがたい。許可証の発行は水国と穀倉国へ頼むつもりなので、連携の取れる熊井殿が好ましいという理由もあったのだ」

「内密の調査隊なのに、帝国の関所を通って行くんですか?」

「流石に国からの依頼で密入国などお願い出来んぞ?」
 
「ああ……」

 俺たちは調のね。

 俺が一人で納得していると、ルロワ王が目を細めてこちらを見てくる。この目線は何かの牽制だろうか。
 
「分かりました、人数に指定はありますか?」

「形としては商隊として行ってもらおうと考えておる。リオン殿も一緒にいくのだろう?商人家族と護衛のような形で五名程度を想定しているがどうだろうか?」

 俺とリオン、美砂とエドモン、あと一人くらいか。まあ四名でもいいけどな、護衛が一人だと変かな?

「ああ、それから京介殿には国に残ってもらう。勇者が国にいるというのは抑止力にもなるし、魔人族も攻めて来るかもしれんのでな」

「とりあえず、内容は分かりました。メンバーについては少し考えます」

「では、こちらが水国王や国境王への依頼書になっておる。滝国カスカータにどちらかはいるであろうから、この手紙を渡して欲しい」

 手紙まで用意済みかい。

「分かりました、数日中には出発しますね」

「頼んだぞ」

 謁見の間での話しが終わり、俺たちはリオンを起こしに部屋へ戻る。リオンを起こしたら、今度は訓練場でいつもの訓練をしながら五人目を考えるか。

「オサム君どうするの?」
「んー?」

 訓練の合間に美砂が質問してくる。

「出発前に、二人にも身体強化を覚えてもらわないとな」

 京介とアレクシス団長は、今日も二人で仲良く倒れている。

「違くて、メンバーの話しだよ!あと一人でしょ?」

「四人でもいいかと思ってるんだよね、やっぱり最低でも……「皆さまおはようございます」

 聞き覚えのある声に気づき、声のある方を見ると執事のシャルルがいた。

「おー、シャルル久しぶり!」
「シャルルさんお久しぶりです!」
「熊井様、東部様もお久しぶりです」

「シャルルはどうして王城に?」

「浄化魔石を王国貴族の大半に直接売り込んで下さった方がいたようでしてね?メフシィ辺境伯領は大忙しなのです。私が各貴族様への説明役を仰せつかりまして、王都へ足を運んだ次第です」

 あれ、少し棘が出てませんか?何だかチクチクする。

「儲かりまっか?」
「ぼちぼちでんなぁ」

 やっぱコイツ地球人だろう。

「ナイーブな話しかもしれないが、記憶は「お兄ちゃんなのです!」

 リオンがこちらに気づき、文字通り飛んできた。

「お兄ちゃん?リオンはシャルルと会ったことないよな?」

 おいおい。これはもしかするのか?

 俺はオーバーライドと魔素粒子波動エーテルサーチを発動し、シャルルの全ての挙動を見逃さないように意識する。

「お兄ちゃんは街に連れてってくれて、大道芸をする場所を教えてくれた人なのです!お兄ちゃんはママの所には帰らなかったのです?」

「え?」

 絶対に人を疑わない美砂が、シャルルを信じられないモノでも見るような目で見つめる。

 僅かな動揺。

 シャルルはおくびにも出さないように努めていたみたいだが、感知に意識を全振りしていた俺は見逃さなかった。

 俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

「リオン様を少し勘違いさせてしまったようですが、私が主の所に帰ると言ったのは、メフシィ辺境伯という方の所ですよ」

「リオンに大道芸をさせたのは否定しないんだな?」

「え、ええ。オサム殿に会いたいと言っていたので、知り合いかと思いまして……。それに皆様も国境国には行かれる様子でしたから、すれ違うよりはその国で待っていた方がいいかと」

「な……なーんだ、色々な偶然が重なっちゃっただけなんだね!僕びっくりしたよー」

「色々あったようで、お話しは聞いていましたが申し訳ありませんでした」
 
「まあ、そういうことにしておこうか」

 間違いない、首領セグレトに金を払ってリオンを攫うよう依頼したのはコイツだな。
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