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5章 獣人国編

71話 ライオンマスクと決闘です

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 決勝が終わり、次に戦うライオンマスクの準備とやらで一旦休憩時間になったので、俺は仲間の元へ戻る。

「お見苦しい所をお見せしてしまいました」

 観客席に着くと、意識を戻したエドモンが自分を不甲斐なく思っているのか謝ってくる。

「全然見苦しいとかないだろう……むしろいい戦いだったと思うけど……」

「僕もそう思うよ」
「先程私たちも言ったのですけれど、エドモンは納得出来ないみたいですの」

「いえ、オサム殿を守る立場なのに、恐らく万全でもあの狼獣人には勝てなかったと思います」

 なるほど、そんな事を気にしてるのか。というか、もしかしてハッキリ言ってなかったか?

「まずさ、俺はエドモンが俺たちの壁役を卒業してると思ってるんだけど、違うか?もう既に、俺たちは命を助けて貰ったよ」

「そうだよね!エルフの森でエドモンさんがいなければ僕たちは死んでたかもしれないんだよ?僕は元々そうだと思ってたけど、これからは普通の仲間じゃダメかな?」

「そうだな。この世界の騎士道ってのも尊重したいけどさ、盾とか壁役とかじゃなくて普通の仲間でいいじゃん」

「はい……。ありがとう……ございます……」

 エドモンは俯きながら震えている。数滴ほど、地面を濡らす何かが零れるのを見てしまったが、俺たちは互いに目を合わせ、何も見ていない事にした。

「それよりオサム様、さっきの技はなんですの!?」

 しんみりした空気をエリーズが変えてくれる。本当は気の利いた理由なんかではなく、純粋な興味かもしれないのは否めないが構わないだろう。

「あれは、以前やってた魔力操作の精度が上がったから名前を付けた『ドッペルゲンガー』と攻撃力を与えるための『エーテルナックル』だ!」

「そのエーテルナックルというのはなんですの?」

「魔素を集めて結合すると、魔石みたいに硬くなるんだよ。だから集めて硬質化した魔素を魔力にコーティングすることで、実体を持たせるんだ」

「凄い発想ですわ。魔力を魔素でコーティング……ですか」
「僕は魔力で人を象る意味も分からなかったけど、ちゃんとした技に繋がるんだね……」
 
「だけど、魔力だけでは質量がないからな、殴っても物理的な威力はほとんどないんだよ」

「あーそれで闘技場の破片を集めてたんだね」

「そゆこと」

 説明が終わると、ちょうどライオンマスクとやらの準備が整ったようだ。

「ホークス!野郎ども待たせたなッ!!今回の武道大会もこれで最後の試合だ!最後はもちろん獣王様の腹心、獣王様に次ぐ実力を持ち、その正体は謎に包まれた我らがヒーロー!!ライィィィィオンマスクゥゥゥ!!!」

「「「「ウオォォォー!!!」」」」

 司会がライオンマスクを紹介すると、会場中の獣人達から怒号のような歓声が響き渡る。

 今までこんな熱狂は無かったぞ!?ライオンマスクってどれだけ人気なんだよ。

「対するは特級出場者!熊井ィィィィ理ゥゥゥ!!!」

「「「「ブゥゥゥゥ!!」」」」

 え、会場中からめっちゃブーイングされたんだけど……。なんか紹介も名前だけだし、決勝はこういう演出なの?さっきの三大屈辱のせい?

 俺はひとまず闘技場の真ん中へ移動し、先に待っているライオンマスクと相対する。

 あれ……コイツって…………。

「ホッホークス!会場中の多くがライオンマスクの強さを見に来たと言っても過言じゃないはずだぜ!今年はどんな強さで挑戦者を圧倒するのかァァァ!?」

「前回挑戦者の黒熊は手も足も出なかったカバァ!あのライオンマスクは一体誰なんだカバァ!!」

「ホークス!そう、ライオンマスクの正体は完全に謎ッッ!普段は獣王様の密命で国の為に動いていると獣王様が仰るが、やはり気になるゥゥゥ!!」

「勝てないまでも、挑戦者の健闘を期待するカバァ!健闘すればライオンマスクの正体に近づけるかもしれないカバァ!!」

「ホークス!挑戦者は特級出場者!決勝で圧倒的な強さを示してくれたが、やはり身体の線の細さが気になる!ライオンマスクの攻撃に耐えられないと予測されるのか、先程の大ブーイングだッ!!」

 ああ、そういう……。挑戦者は負ける前提で、ライオンマスクの正体を知りたいから、攻撃を受け続けられる奴が挑戦して欲しかったのね。

 っていうかさ……。

 ライオンマスクって、誰がどう見ても獣王じゃん!え、マジで気付いてないの!?全員目腐ってんじゃねえのか?

 フルフェイスならともかく、鼻から下が丸見えじゃん!ライオンマスクの下からライオンさんがコンニチワしてんじゃん!!

「かかって来い」

 俺が正体に気づいている事を察したのだろうか、確認するために話しかけようとしたら戦いを急かしてきた。

 まあ、正体なんて何でもいいか。

 理由や根拠なんて聞かれても分からない。だけど、この強者特有の圧倒的な風格が、俺のどこかにある欲求を刺激してくる。

 トランスお楽しみは後にとっておこうか。俺はオーバーライドを発動して軽く仕掛ける。

 まずは左ジャブを連発し、意識を割かせた反対側に右ローキックを当てる。

 ははっ硬ぇ足だな、おい。

 まるで効いていなそうな獣王も動き出し、手の爪を剥き出しに右下から引っ掻き上げ、それを躱すと今度は左上から、どうやら上下連続の引っ掻き攻撃だったらしい。

 思った以上に速かったため避ける事が出来ず、上からの引っ掻きはなんとか腕でガードする。

 受けた衝撃で闘技場にヒビが入るが、俺は都合良く中腰になった反動を使ってジャンプし、獣王の顔に膝蹴りを入れにいく。

 獣王はこのタイミングでの反撃は予期していなかったようで、膝が顔にタッチする所までいったのだが、膝蹴りが深く入る前にバックステップで俺から距離をとった。

「なかなかやるようだな。ならばコチラも少し本気を出そう」

 まだまだ余裕がありそうだし、負け惜しみでは無さそうだな……。

 それより、俺の膝蹴りが顔にタッチした後で避けれたってことは、今の段階で俺よりも速いってことだろ?

 本気ってのは一体どれほど……。

 目の前の獣王がブレたと思ったら、鳩尾付近に高速で動くものを察知し、なんとか腕を潜り込ませてガードする。

「ぐぅえぇぇ……」

 膝蹴りか……ガードを貫いて……。久しぶりだなこの衝撃、なんかルウに初めて会った時を思い出したぜ……。

 俺は鳩尾への衝撃で四つん這いになりたいほど気持ち悪くなっているのだが我慢し、獣王の追撃を辛うじて躱す。

 だが、この状態で全ての連撃を避けきれるはずもなく、蹴り上げによって大きく打ち上げられた。

 着地点を……ははっヤッバ。

 俺は回転しながら数メートルほど打ち上げられ、着地点を見つけるために下をみるが、餌を見つけた猛獣のような口裂けライオンがクラウチングスタートの格好をしている。

「『紅蓮獣穿爪ぐれんじゅうせんそう』」

 空中では上手くガードをすることが出来ず、腹に突き刺さるような痛みを受けた瞬間、背中に何かが叩きつけられた。

 腹、これ腹大丈夫?内臓出てない?

「オサム、内臓ってか血も出てないし……」

 そうですか……。

 しかし、気を抜けば死ぬかもしれない攻防……気が付けば、その命の取り合いに心が満たされている。 

「ホッホークス!!!決まってしまったァァァ!!ライオンマスク必殺の紅蓮獣穿爪だ!知らねぇモグリはいねぇと思うが、技の直後、相手の血で真っ赤に染まった爪が……」

「染まってないカバァ!!まだ流血もしていないカバァ!!」

「ホッホッホッ……ホークスッ!!!ライオンマスクの必殺を食らってすぐに立ち上がっただとォォォォ!?しかも必殺を食らった直後のこの顔だァァァ!子供達の夜泣きは確定だが、この戦いは絶対に目を背けるなァァァ野郎どもォォ!!」

「「「「ウォォォォー!!!」」」」
 
 ふふふふふ、まだいるじゃねえか。

 剣聖ストークスのように瞬間的じゃない。俺より速い、俺より力もある奴が!

 本気を出せるッ!

「『擬似精霊化トランス』」

 起き上がりトランスを発動した俺を見て、獣王は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに元の表情へ戻した。

 トランスを発動した時の全能感はクセになりそうだな……。

 ん?美砂の声?
 
「オサム君……また新しい技……?」
 
「そういえば、美砂様はちょうど寝ていて知りませんでしたか。オサム様がエルフの森で開発した、オーバーライドの次のステージだそうですわ」

「あの時はオサム殿も制御が出来ず、森を破壊して回っていたみたいで大変な騒ぎだったんですよ」

「えっと……この闘技場は大丈夫だと思う……?」

「え、流石にその辺は理解を……」
「でも……あの顔をしてましたね」
「確かに……あの顔でしたわね……」

「し、『シールド』」

「美砂様、まさか会場全体をシールドで!?」

「うっ……。オサム君!聞こえてるか分かんないけど、五分だけだよ!それ以上は維持出来ないからね!」

 そういや観客なんていましたね、大量虐殺する所だったぜ。

 俺は片手をあげ、美砂に聞こえていることをアピールする。

 さて、心置きなく決着を付けますか。

「ライオンマスク、お前の正体なんざどうだっていいが、『武を示せ』とお前は言ったな。その強さじゃあ全力を出せる相手も限られただろう。俺が受け止めてやるよ、その上、圧倒的な暴力ってやつを見せてやる」

 闘技場と場外の地面全体を魔素でコーティングし、地面が壊れるのを防ぐ。

 硬くなった地面を思いっきり蹴ると、獣王は何も気付いていないようだが俺は既に目の前まできている。

 無防備な獣王の顔面を思いっきり殴りつけると、獣王は美砂の張ったシールドに叩きつけられ、シールドにヒビでも入ったのか『ビキッ』という大きな音が鳴り響いた。
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