気が付いたらTSエルフ ――腹黒ショタが彼氏になりました――

夏目 空桜

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第Ⅰ部 第一章 性転の霹靂

TSヒロイン・姉と女体化論争(雑魚は滅びた)

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 あっという間に二人の暴漢が撃沈した時点でやっと危機感を覚えたのか、手前の金髪が懐から電機シェーバーのような物体を取り出した。

「調子に乗りやがって!」

 金髪男の歯ぎしりとともに、バチチチン! と破裂音にも似た音が深夜の路地裏に響く。
 電気シェーバーと思った物体から聞こえた音だ。ついでに言うなら、青いスパークまで撒き散らしている。

「スタンガン、ね……」

 まぁバタフライナイフをひけらかす連中だ持ってても不思議じゃ無い。不思議じゃ無いが、それは女性や弱き者が護身用に持つ物だ。
 間違ってもお前らみたいなクズが悪さをするために持って良い道具じゃ無い。

「今さらビビってもおせぇよ! 散々暴れてくれたお礼はさせてもらうぜ」

 怒気に紅潮させながら闇雲に突っ込んでくる。
 ナイフを持ったヤツを圧倒した時点で力量差は分かりそうなもんだが……
 あ、コイツには不意打ちをしたようにしか見えなかったか。まともにぶつかれば勝てると舐められたのかな?
 しゃあない、もうちょっとだけ暴れるとするか。

 俺の心が震えたのは、そんな覚悟を決めた時だった。

「もうやめて! 貴女もすぐに逃げて!」

 それは、奥で拘束されていた女が発した声だった。
 悲痛な、己の身よりも他人を案じる声音。
 だが、俺が震えたのはそんな事よりも……
 まさか、この声は……そんなはず……

 その時、一台のトラックが過ぎ去りヘッドライトが一瞬奥を照らした。
 そこに居たのは、上着を引き裂かれた……

「ッ! 姉貴!!」

 全身の血液が沸騰するかのような激情を覚えた刹那、

 俺は全力で駆け出していた。

「どこに行っきやがる! お前の相手は俺――」
「どけっ!!」
「ゲバァッ!?」

 立ち塞がった金髪男を全力の裏拳で無造作に殴り飛ばす。
 がしゃっ!! と電信柱に叩き付けられた男は肩に足場ボルトが突き刺さり、身動きも取れずに絶叫する。
 これで背後から襲われる心配も無いだろう。
 俺は奥に残った男に一気に接近すると、有無を言わせず魔素を爆発させた回し蹴りを股間にぶち当てた。

「!!!!」

 悲鳴も絶叫も許さない問答無用の一撃。

「ひ、ひぃっ!!」

 肩にバタフライナイフを突き刺されただけ・・の、ほぼ無傷の男が小汚い悲鳴を上げる。

「ゆ、ゆるっ」
「レイパー野郎の命乞いなんか聞くかよっ!!」

 這いつくばった男にそのまま高速の踵落としを顔面にねじ込んだ。

 ゾリッ……

「あ、が、が……」
 
 俺の踵落としで顔の半分を削り取られた男がそのまま地面に頽れる。
 かなりグロい感じだが、薄暗い路地裏なのが幸いした。
 夜目の利かない姉貴にこんな汚物を見せずにすむ。

「あ、ありがとう、ございま……え? お母……」

 弱々しい声音。
 当たり前だ、こんな事態に慣れてるヤツ何て居るもんか。
 ましてや姉貴は俺に対してはベタベタだったが、男は苦手でいつも一歩引いているような性格だった。
 それなのに、何でこんなとこに……

「何やってんだよ! 姉貴!!」
「へ? お母さんじゃ……ない」
「何訳の分かんない事言ってんだよ!」
「あ、あの……」
「俺たちみたいな田舎者がこんな都会の夜中に出歩けばどんな目に遭うかぐらい分かるだろ!! いつも俺に言ってただろ! 夜出歩くような不良になるなって! それなのに、何でこんな何処ほっつき歩いてんだよ!」
「何で、そのこ、と……も、もしかして……良ちゃ」

 ファンファンファン……

「まずいッ!」

 くそっ! 姉貴の事で失念していた。
 恐らくこの騒ぎで誰かが通報したんだろう。
 失敗だ、父さんに警察の気配の察知方法は鍛えられていたのに……まさか、こんなに近づくまでパトカーてきの接近に気が付かなかったとは!
 正直、死んじゃいないと思いたいが生きてるかどうかは疑わしい。
 かなりなオーバーキルをやらかした。
 誰から見ても過剰防衛じゃすまないよな……

「姉貴っ!」
「ひゃいっ!!」
「俺に掴まれ!!」
「ひゃわっ!?」

 俺は有無を言わせず姉貴を抱き寄せると、そのまま体内の魔素を解放した。

「舌噛むから口閉じてろよ!」
「ふぇ? ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 俺は強化の魔術で地面を蹴り、さらにビルとビルの壁面を何度も蹴って高層マンションの屋上へ飛び降りた。
 眼下に広がる地上の星空。赤い点滅が集まる辺りが、さっきまで俺たちが居た場所だ。
 とりあえず、こんな短時間でここまで逃げた何て誰も思わないだろう。

「い、一瞬で、あわわわ……こ、こんな……」

 ジェットコースターに乗る以上の恐怖体験をした姉貴が、腰を抜かしたのかへたり込む。
 服は少し破られてるけど、下着をちゃんと履いているあたりそれ以上の酷い目には遭わされてなさそうだ。
 勿論、この時点での安堵が早計なのは分かっているけど、それでも無事で居てくれたとに安堵を覚えずにはいられない。

「怪我は無いか? 他に酷い目に遭わされなかったか?」
「あ、は、はい……だ、だいじょうぶ、です……引きずり込まれてすぐに、助けてくれたから」
「そうか、良かった……」

 まずは安心……かな?
 それはそうと、

「あ、あの……」

 少し怯えたみたいに震えている姉貴こいつだ。

「あ、あの、ね……」

 姉貴が無事だった、それは当然嬉しいのだが……
 だけど、だ……
 無事だと安心すると、やっぱり、こう、何て言えば良いのか、ふつふつと湧き上がってくる怒りというものがあるわけで。
 さっきもちょっと腹立ったが、このポヤンとした何の警戒感も無い小動物みたいな姿を見ると、ちょっと痛いのかまさんと・・・・・・・・腹の虫が治まらない。
 俺は無言のまま姉貴の額にチョップを一発入れる。

「あいた!」

 さすがに魔術強化はしちゃいないが、無言のまま何度も俺は姉貴の額にビッシビシとチョップを入れた。
 姉貴がオイタした時には俺が冷たい目をするか、もしくはこのチョップをするのが我が家の伝統である。

「酷いよ、良ちゃん……何度もお姉ちゃんの頭を叩いて……」
「うるさい! 今回の悪さは俺のパンツをかぶるのとは訳が違、ウボァッ!」

 説教する俺の喉元にまるでフライングクロスチョップのような勢いで姉貴が飛び付いた。

「何しやがっ!」
「良ちゃんだ! 良ちゃんが帰ってきたよ! お姉ちゃんの、お姉ちゃんだけの良ちゃんが帰ってきたよぉぉぉぉ」
「あ……」

 そうだった。
 何か今、微妙に自己主張の激しい言葉を聞いた気がするけど、そうだった。
 頭に血が上って忘れていたけど、あんなに会いたいと思っていた家族がここに居て、もう会えないと半分諦めかけていた温もりがここにあって……
 勝手に居なくなったのは俺で……

 そんな俺を心配して姉貴は探し歩いて、くれてたんだ……

 心配をかけたバカは……俺だ……

 姉貴の号泣。
 こんな涙を見たのは、昔、俺が木から落ちて大怪我して以来だった。
 考えてみたら、姉貴が俺にベタベタになったのはあの怪我が原因かも知れない。

 いつも心配と迷惑を掛けていたのは俺だったんだ。
 ……まぁ、弟のパンツの匂い嗅ぐとか若干変態的になったのは、俺に責任は無いと思いたいけど。

「ねぇ、良ちゃん……」
「ん? 何?」

 泣きじゃくっていた姉貴の声音に少しだけ冷静さが戻ったのは、ずいぶん経ってからだった。

「お姉ちゃん、そんなに信用無い?」
「へ? な、何が?」
「良ちゃんが女の子になりたかったなら、一言相談して欲しかった……お姉ちゃん、良ちゃんが妹になっても大好きなのは変わらないよ? ううん、世間がもし冷たくしても、お姉ちゃんだけは良ちゃんを守ってみせるよ?」
「えっと……や! ちゃいますけど!?」

 とんでもない爆弾をぶっ込んできやがった!
 ……ああ、でもそうね、突然居なくなった弟がしばらくぶりに再会して女になってればそう思うかもね!

「タイに行ってきたの? 体型とかYESな先生にお世話になった? 借金はしてない? あ、でも良ちゃん元々お母さんに似て可愛い顔だったから、顔にはお金あんまりかけずに済んだのかな? でも、ダメなんだよ女の子になったら身体を大切にしないと……ぐす……よ、世の中、わ、悪い人が一杯居るんだから……」

 何かえらく具体的な質問だなぁ、おい。
 それと、その悪い人にさっき酷い目に遭わされかけた当人が俺に忠告するとかどうよ!?
 まぁ、誤解されても仕方ないけど。
 それよりも姉貴、今見せた俺の身体能力ガン無視してません?
 そんな大手術を受けてたら、あんな動き出来ませんって。まあ、手術を受けても受けてなくてもあんな真似、こっちの人間には出来無いけどさ。

「あのな、姉貴……」
「良いの! 良ちゃんが無事なら。お姉ちゃんの夢は良ちゃんのお嫁さんだったけど……でも大丈夫! いま、世界は同性婚を容認する流れだから!」
「同性婚を容認する流れでも、血族婚を容認する流れは来ないと思うけど……って、そうじゃなくて!! 俺の話を聞け!! 俺は別に女になりたかった訳じゃないし! 手術も受けて無いし、イエスな先生にもお世話になってない!!」
「え、だって……」

 むにゅん♪

「ひゃん♥」
「良ちゃんお姉ちゃんよりもおっぱいこんなに大きくなって、それに気持ちよさそうな声まで上げてるし……あとあと、良ちゃんお母さん似で元々可愛い顔だったけど、こんなギャルみたいな金髪で青い瞳じゃ無かったし、耳だってとんがって……とんが……りょ、りょうちゃん、どうしたの!? ファンタジーなアニメみたいな見た目になってるんだけど!?」
「今更気付いたんかい!!」

 まるで三流漫才師みたいなボケをぶちかます姉貴。
 いや、これが姉貴の平常運転だった事を俺は今更ながらに思い出したのである。
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