超合金魔法少女セテラ

旭ガ丘ひつじ

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願いよ飛んでけ!巡り届け目眩く未来!

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「腕にまでロケットが付いてるなんて!ずっこい!」

セテラはお尻を上げた変な格好で目に見えないクッションに受け止められていた。
その格好のまま文句を叫んでやった。

「セテラ。次がくる」

イヌリンが冷静に注意する。
セテラは勢いよく足を振り下ろしてクッションを背に床に立ち、すぐさま杖の頭にある超合金に念を送った。
メクルメクアイは迫る敵の左拳を左手でしっかり受け止めると、右手で自身の頭を掴む敵の右手を引き剥がした。
そしてお得意の。

「イヌリンキック!」

で敵を向かいのビルに蹴り飛ばして体勢を立て直した。
敵もすぐに立ち上がる。
セテラは雨の降らぬ方へ退避した。
そして、迫る灼熱の魔法弾をイヌリンバリアで防いだ。
水蒸気で視界が遮られた一瞬の隙を逃さず、敵はメクルメアイに急接近し拳を突き出した。
それを手で払い、すかさず互いに拳を打ち合って後退する。

「ガンガンいくよ!」

セテラの念を受けたメクルメアイは拳を握りしめて駆ける。
二体の超合金ロボットは防御を捨てて殴り合う。
ただ、腕にマジカルロケットを搭載した敵の方が有利だ。
敵は徐々に押して雨のカーテンを抜けた。
それからメクルメアイの両手をしっかりと掴んだ。
胸部が回転して開く。
エネルギーの迸りをそこに見たセテラは逃れようとメクルメアイに伝える。
ところが、敵のパワーは想像以上に高い。
どんどん高まっているように感じる。

「セテラ!バリアを張って衝撃に備えて!」

セテラはハッとなってイヌリンの指示に従う。
瞬間、灼熱の高密度エネルギーが敵の胸部より放たれ、メクルメアイの体は簡単に浮いて一直線に吹き飛んだ。
間もなく魔法陣のバリアが限界を超えて砕け、エネルギーが炸裂して大爆発が起きた。
その衝撃を受けてビルや商業施設だけでなく、駅前の商店街が崩落、駅舎も砕けて、住宅は形も残さなかった。
天井も甚だしく崩落してメクルメアイを埋めた。
広範囲があっという間に火の海となった。

「セテラ、平気?」

セテラは目に見えないクッションで守られて無事だ。
しかし、宙に浮いた仰向けの格好で頭を垂らしたまま動かない。
ブレインルームの中、浅い呼吸の音が静かに響く。

「セテラ、しっかりして」

もう一度呼びかける。
セテラの指がピクリと動いたのを確認してイヌリンはホッとした。

「ねえ、避難している人達は無事?」

「うん。でも、ギリギリ。これ以上は一歩も退けないって感じ」

「そっか……んーやあ!!」

魔法で瓦礫を退けてメクルメアイは上体を起こした。
遠くをズームすると、敵は胸部から白煙を上げながらジッと佇んでいた。
次に下を向くとメクルメアイの前面が酷く焼けただれているのが分かった。

「ちょー強いね」

敵が右腕を上げた。
真紅の魔法陣から片刃の剣を取り出した。
そして、試し切りか傍らのビルを斜めに斬ってみせた。
刃は微かに発光していて、熱を帯びているらしい。

「あんな危ないものまで隠し持ってるし」

「メクルメアイのことを知り尽くして真似してるみたいね」

「ふんだ。ガッツで負けないもん」

ふと、天を仰ぐと澄んだ青空が広がっていた。
どこよりも穏やかな世界がすぐそこにある。
青い鳥が一羽、美しい羽を広げて軽やかに飛んでいった。

「不安なんてポイ!マジックアイテムサプライズ!」

メクルメアイは立ち上がると、上空に魔法陣を展開して超合金の針を取り出した。
直ちに腕を引き腰を低く構え、敵目掛けて、足裏のマジカルジェットを使って天井スレスレの高さまで跳躍する。

「ソーイングビーニードル!」

セテラの渾身の叫びと同時にメクルメアイが超合金の針を突き出す。
敵はその一撃を難なく体を引いてかわした。
メクルメアイは敵の背後に着地すると同時に、素早く腕を背後まで振るった。
雨を割く一薙ぎも難なく受け止められてしまう。
敵は背中を向けたまま剣で攻撃を受け止めてみせた。
バチッと火花が散って、雨粒が当たる度にジュッと蒸気が上がる。
敵は針をカンッと軽く弾いて、振り向き様に頭上から剣を降り下ろした。
間一髪でかわし、メクルメアイは針を振り回して攻めに転じる。
敵は正確な動きでそれをいなす。
次第に攻め合い、激しい剣戟で火花を散らす。
メクルメアイは動きを洗練させて、ついに敵の体に傷を付けた。
子猫が引っ掻いたような浅い傷だが。
その時、針の半分ほどから先が折れ、傍らのビルに飛んで突き刺さった。

「ええ!折れた!」

「熱で斬られたのよ!すぐ離れて!」

マジカルジェットを利用して飛び退くも、敵は素早く接近して、逆手に柄を握った剣を降り下ろした。
メクルメアイは地面に背中から落ちて、咄嗟に防御した右腕を敵の刃は易々と貫通した。

「ショットプットディストラクション!」

敵の眼前に魔法陣が展開され、かわす暇を与えず超合金砲丸が敵の顔面を打った。
敵は左手で顔を押さえて、メクルメアイから剣を引き抜くと距離を取った。

「いいよセテラ!隙が出来た!」

針は魔法陣に収納、肩のマジカルロケットを噴射して跳ね起きる。

「イヌリンパンチ!」

そのまま、敵の胸部を思いっきり殴ってやった。
追撃に、仰向けに倒れた敵の体に超合金砲丸を落としてやる。

「これでもうビームは……あっ!」

敵は左手で超合金砲丸を掴んで止めた。
剣を道路に突き立てて、おもむろに立ち上がる。
敵の崩れた顔から露出するカメラアイの光が、憎しみの炎が燃えているように明滅している。
敵は左腕を引いて超合金砲丸を投げ返してきた。
魔法でコントロールしようにも速度があってうまくいかない。
超合金砲丸はメクルメアイの右肩を砕いて傍らのビルを潰した。
メクルメアイは右肩を押さえて敵を睨む。

「だめだ。どうやって倒したらいいのか分かんない」

イヌリンに助けを求めるも彼女は返答に窮する。
敵の力も装甲も性能も想像を遥かに上回っていた。
考える暇もない。敵が怒濤の勢いで攻めてくる。
メクルメアイは魔法陣を四つ展開してミラクルエネルギーを球状に集約し、限界まで敵を引き寄せる。

「マジカミラクル!イヌリンボンバー!!」

それを超至近距離で放ってやったが、それでも効果はない。
メクルメアイと同じに魔法障壁で完璧に防いで剣を降り下ろした。
剣は空を切断した。敵の頭がグルリと回る。

「とりゃ!」

爆風を目眩しに利用して回避したメクルメアイは、機敏に動いて敵の右腕を取った。
それを敵の胸部に押し当て、もう剣は降らせない。
額に額をぶつけて睨み合う。

「うりゃー!」

セテラが雄叫びを上げて、メクルメアイは力任せに敵を押した。
ビルを超えて、住宅街を破壊しながら敵を押し続ける。
やがて、瓦礫に足を取られたのか敵はバランスを崩して倒れた。
すぐさま剣を取って放り捨ててやる。
ガンッ!!
不意に激しい衝撃が後ろからきて、スクリーンにノイズが走った。
セテラは目に見えないクッションを突き破ってモニターに体を叩きつけられた。
視界が揺らぐ、少しずつ焦点が合ってくるとブレインルームの壁が内側に窪んでいた。

「セテラ!」

「大丈夫だよ。イヌリンちゃんが着せてくれた、この超合金の衣装のおかげでね」

力なく立ち上がってモニターを振り返る。
メクルメアイは後頭部に重い一撃を受けたらしい。
視線を上げると、悠々と立ち上がった敵が掌の上で超合金砲丸を浮かせていた。

「人のものは取っちゃ駄目なんだよ」

超合金砲丸が撃たれた。
セテラは杖を握ってメクルメアイを横方向に跳躍させた。
超合金砲丸を見事に回避して、さっき投げ捨ててやった敵の剣を拾う。

「超合金砲丸は仕舞って……そおれっ!」

飛んでくる超合金砲丸を魔法陣で受け止め、そのまま中へ収納しながら瞬時に敵との距離を詰めて、風を切る速さで剣を振るい敵の体を三度と斬り裂いた。
特殊な仕組みのせいか刃に熱はない。
それでも敵の体に深い傷を追わせるには十分だった。
敵は住宅街を跳び越えて、背後にある自然公園へと着地した。
メクルメアイを真似て真紅の魔法陣から一回り大きな超合金円盤を取り出すと腕を頭の後ろまで引き、突として、狙い定めたメクルメアイに向けて撃ち放つ。

「ぐぬぬ……!」

それを真っ直ぐに剣で受け止める。
道路を削りながらグッと踏ん張ってこらえて、イヌリンもびっくり、縦に真っ二つに切断した。
二つに別れた超合金円盤は住宅街を滅茶苦茶にしながらメクルメクアイの背後へ転がっていった。

「セテラってば無茶するね」

「……ふう……ふう」

セテラは肩を大きく上下して呼吸を繰り返している。
気力を振り絞って集中している。
いつよりも真剣な顔つきで敵を睨んでいた。

「でも、ここらが限界ね。これ以上は無理しないで」

セテラはガクッと片膝を落として杖にしがみついた。

「私のことなら大丈夫だから」

ベロを出しておちゃらけ、気丈に立ち振舞う。
イヌリンの胸を罪悪感がチクリと突いた。

「私のせいで、君をこんな目に」

「誰のせいでもない。自分で決めたことだから。私と、イヌリンちゃんと、二人で守るんだ」

メクルメアイが走り出すと、敵は足裏のマジカルジェットを利用して跳び上がり肩のマジカルロケットを噴射して、天井を突き破り高く高く上昇した。
メクルメアイは吹き荒ぶ土煙を剣で払うとそれを投げ捨てた。

「痛いの痛いの飛んでけ!」

応急手当と負傷した右肩のマジカルロケットだけを急ぎ自己修復して、すぐさま敵を追って飛翔する。
敵はそれを待っていたという風に急降下して、メクルメアイに強烈な蹴りを食らわせ返り討ちにした。
メクルメアイは勢いのままに落下して地下深くまで埋没した。
敵はその様子を悠々と上空から見下ろす。
舞い上がった土煙が箱庭の外まで立ち上る。
不意にそれを破ってメクルメアイが飛び出し、仕返しとイヌリンキックを敵の腹に食らわせた。
二人は空中で距離を置いて対峙する。
メクルメアイの胸部が斜め四方向に開いた。
エネルギーはとうにラブバーストに達している。
一方で敵の胸部は深い傷によって開かなくなっていた。

「必萌技!イヌリンビーム!!」

敵は展開した魔法障壁で必萌技を防ぎながら突撃してくる。
セテラは構わずミラクルエネルギーを集中させた。
ジリジリと間近に迫り、ついに爆ぜる。
メクルメアイは箱庭の中へ緩やかに降下して、足裏のマジカルジェットを使ってふわっと着地した。
そこへ息つく間もなく敵のロケットパンチが二つ降ってきた。
付属するマジカルロケットに魔法を駆使して縦横無尽の攻撃を執拗に仕掛けてくる。

「もう、すばしっこい」

「セテラ、拳よりも本体に気を付けて」

腕でガードを固めて上空を見据える。
何かが落ちてきてメクルメアイのすぐ側に落ちた。
土煙の中に薄らと見えるそれは、セテラが傷を負わせた敵胸部のパーツだった。

「強引ね。もう一度あれがくるみたい」

「まずは、この悪い手を何とかしなきゃ」

魔法陣から折れた超合金の針を取り出し、その尾に魔法の糸を括って投げる。
巧みに操り、手早く上手に二つとも縛って捕らえることに成功した。
一仕事終えて再度見上げると、敵の高密度エネルギーがまさに放たれたところだった。
直撃する。
度を越す熱波により、小規模の爆発と火災が次々と波状に発生。
天井の消化装置から直ちに雨が降らされた。
閃光が走る。
隕石でも落ちたようなインパクトが起きた。
近くにあった山を削り、山裾の村をのみ、麓の町が一つ消失するほどの衝撃が広がった。
当然に天井も耐えきれず脆く崩壊し、雨粒は途絶えて代わりに火の玉がポツポツと落下した。
ほんの一瞬の間に箱庭の片隅は儚く、さながら地獄へと変貌した。
地獄の業火は命寄せ合う区域にまで火の手を伸ばそうと暴れ狂っている。

「イヌリンパンチ!」

転移して忽然と背後に現れたメクルメクアイの一撃を敵が回避することは不可能だった。
が、次の一撃は転移してかわされた。
敵は完全に姿を消した。

「守れなかった」

セテラは唇を震わせて呟き、燃える箱庭を悔しそうに見下ろす。
不意を打って頭上に現れた敵の踵落としを、しかしメクルメクアイは難なく左手で受け止めた。
続けて、両手で掴んで離さず、敵をグルグルと振り回して眼下の高原に力いっぱい投げてやった。
敵は受け身も取れず地面に叩きつけられて沈黙した。

「セテラ、新しいマジックアイテムの設計図が出来たよ」

「ありがとう!」

セテラは元気に答えた。
負の感情にのまれてはならない。
セテラは大きく深呼吸してメクルメクアイを静かに地に下ろした。
対してイヌリンは弱々しい口調で案ずる。

「あのパラドクスロボットを倒すには私達がもっと強くなるしかない。でも、この後にはさらに強敵が控えてる」

「大丈夫だって。あのパラドクスロボットをやっつけて、次もちゃんとやっつけてみせるよ」

メクルメクアイはセテラから送られる気力を増大させて戦っている。
ラブバーストは魔法少女の負担を軽減する制限を一時的に解く。
つまり、さきほどの必萌技でセテラには今までにない大きな負担がかかっている。
これまでの戦いによる疲労とは比べようもない。
いつもいつでも……イヌリンは大切な人にこれ以上の無理はさせたくなかった。
だが、やはり敵は起き上がった。
幸いなことに動きが鈍い。
ガクッと両膝を落とした。
恐らく向こうも限界が近いのだろう。

「マジックアイテムサプライズ」

セテラが強かに呪文を唱えると、敵の頭上に新たなマジックアイテムが召喚された。

「カレイドスコープイルミネイト!」

現出した万華鏡みたいに煌めく超合金の糸で編まれた巨大なフラワーオブライフの魔方陣は鮮やかな光彩を増していく。
敵はその輝きに目を奪われているかのようだ。
見上げて動かない。

「セレン!」

「テルル!」

二人の叫びに呼応してメクルメクアイが奮い起つ。
全身のヒビからヴァーミリオンカラーのミラクルエネルギーが迸る。
まさしく全身にミラクルエネルギーが充ちた。
スクリーンに表示されるラブバーストの文字は限界突破してエラーの表示に変わった。
何が起こるか分からない。
しかし、もう後には引けない。

「ラブレター!」

重なる声と想いは一線描いて青空の遥か彼方にある慈し月へ届くと反響して魔方陣に降り注いだ。
魔方陣は受けたミラクルエネルギーを繊細に拡散させて敵を温かな光で包んだ。
夜明けのような優しい明かりが満ちていく。
ほどなく、魔方陣が砕けて虹の泡が舞う。
そこにパラドクスロボットの存在はなかった。

「勝ったよ!イヌリンちゃん!」

「うん、お疲れ様」

戦い終えたメクルメクアイは脱力して握っていた拳をおもむろに開いた。
その時だった。
天高くから音もなく何かが降臨して、メクルメクアイの開いた胸部を背後から何かが貫いた。
見下ろすと鋭い爪があって獣の手のようだ。
イヌリンはそれに見覚えがあった。
刹那に絶望が奔流する。

「ウェザリングドラゴン……!」

故郷を滅ぼした最初のパラドクスロボットの手がメクルメクアイの心臓部である、今は剥き出しになっていた魔法粒子加速器を容赦なく引き抜いた。
直後、メクルメクアイは機能停止してスクリーンはブラックアウトした。

「何!何が起きたのイヌリンちゃん!」

「もうダメ……」

「どうして?」

「もうメクルメクアイは戦えない!私たちは負けたのよ!!」

「どうして!私も、メクルメクアイもまだ頑張れるよ!」

衝撃があって、ギリギリと嫌な音がした。
ブレインルームに陽光が差して凍える息吹が押し寄せる。
セテラは手をかざして目を細めた。
目が陽光に慣れると、超合金のドラゴンがこちらを見下ろしていた。

「え?」

メクルメクアイの頭蓋をもぎ取ったドラゴンは続けて、声も上げられず何が起きたのか理解も出来ずただ立ち尽くすばかりのセテラへ向けて、白銀の鋭い爪を振り下ろした。

「セテラ!!」

咄嗟にイヌリンが飛び出して庇った。
心よりも先に体が衝動的に動いていた。
魔法障壁は簡単に負けてイヌリンの超合金の体に爪が突き刺さろうとする。
その瞬間。
彼女の弱かった心は、もう一度、今度こそ。

負けない諦めない守りたい救いたい

熱い意思で一気に燃え上がった。
胸を焦がすほどの情熱で殻を破り魔法少女が甦る。
その予想外の出来事に、敵は思わず翼を羽ばたかせて飛び退いた。
キラキラした煌めきが現実となった。
毅然として杖を構える魔法少女の姿はあまりに美しく、セテラは幻ではと一瞬疑った。

「イヌリンちゃん?」

「私の本当の名前は、ピアよ」

振り向いた魔法少女の顔はセテラによく似ていた。
セテラは戸惑いながらも彼女の名を呼ぶ。

「ピアヨちゃん」

「違う違う。あーもう、セテラってば。今までみたいにイヌリンちゃんでいいよ」

「イヌリンちゃん!」

セテラは無邪気に飛びついて、イヌリンと肩を並べた。
イヌリンが手に持つ杖を、台座に突き立てられたセテラの杖に軽く当てると二つの魔法の杖は一つになって、頭にランタナを模した七色七重の花を咲かせた新たな魔法の杖ロマンスティックへと生まれ変わった。

「わあ、きれい」

セテラには、それがイヌリンの心を象徴しているように見えた。

「私、もう一度がんばりたい。君のことを、君にとって大切な全てを守りたい」

杖の頭にある超合金の花に手をかざすイヌリンの手に、セテラはそっと手を重ねた。
よく知る温もりが心まで伝わる。

「二人で叶えよう」

セテラの柔らかな笑みに、イヌリンも微笑まずにはいられなかった。
こんな大変な時だってのに笑顔になる。
イヌリンは目を閉じて願いを込める。

「もう一度。もう一度わたしと一緒に。願いを乗せて輝いて、メクルメクアイ!」

超合金の花が淡く輝き、メクルメクアイが応えて緑の目を光らせる。
スクリーンには大自然が映し出された。
メクルメクアイよりも一回り大きなドラゴンは距離を置いて、こちらの様子を静かに窺っている。

「メクルメクアイも、そして君も。私たちの願いのために何度も戦って傷ついて、今まで頑張ってくれて本当にありがとう」

イヌリンは親愛の眼差しでウェザリングドラゴンを見遣る。
白銀の体のあちこちに、あの日にはなかった錆がみえる。
超願望合金ラストウェザリングドラゴンは手に持つ魔法粒子加速器を投げ捨てると、強く咆哮して翼を大きく広げた。
ひしひしと感じる恐怖や絶望はあの日と変わりない。
でも、怖じ気づくことは決してない。

「私が支えるから、やっちゃえイヌリンちゃん!」

セテラは言って、イヌリンの体を片手でぎゅっと抱き締めた。
一方で杖を握る手に力を込めて足はしっかり踏ん張る。

「いくよセテラ!」

セテラに体も心も支えられたイヌリンは、堂々と、メクルメクアイは、一歩、力強く踏み出す。
ウェザリングドラゴンが反応して、鋭い凶器の並ぶ顎を最大限に開いた。
その奥、喉に見える針のないラグナクロックから凍える白い吐息が漏れ出す。
あの日に世界を風化させた白い炎が吐かれようとしている。
だが、イヌリンは臆することなく念を送った。
メクルメクアイはそれに応えてひた走り、剣のように手刀を突き出して、滅びを刻む時計ラグナクロックを砕いた。
相手は反射的にその手に噛みつき翼を羽ばたかせた。
メクルメクアイは、あっという間に上空高く運ばれた。
セテラはブレインルームに開いた穴から吹き込む突風も圧迫する重力も必死に堪えて杖を握り、さらに力を込めてイヌリンを支える。
イヌリンもまた踏みしめて諦めない。
メクルメクアイが反撃の魔法を相手の口腔内で放ってやる。
光が漏れた直後、相手の頭蓋は爆裂して砕け散った。
口腔内で魔法を撃ったメクルメクアイの右手もまた同じく砕け散った。
相手は山に墜落して土煙がその姿を隠す。
メクルメクアイは、その麓へ緩やかに降下して着地した。

「ジェットコースターみたいでドキドキしたー」

力の抜けたセテラはイヌリンに寄りかかった。
イヌリンの体は少し震えていた。

「高いところって怖いね」

「でしょう!やっと分かってくれた?」

「分かった分かった。分かったってば」

イヌリンはクスクス笑って、グイグイ迫るセテラの頬に人差し指を当てて押し返す。
その和やかな雰囲気を、軋むような金属音が引き裂いた。
一気に緊張が戻って、二人は体をグッと強張らせる。
土煙の中から飛翔してメクルメクアイの目前に降り立った敵は、まるで壊れた玩具みたいだった。
頭がないだけでなく、さっきの衝撃であちこち壊れて、目に見えて無惨な姿になっていた。
それを見たセテラは、イヌリンの衣装を引っ張って思わず嘆きをこぼした。

「ねえ、かわいそう」

「そうだね。私が、ちゃんと決着をつけるよ」

あるはずない心から空虚な悲鳴が聞こえてくる。
辛い気持ちを噛み締めて、イヌリンはメクルメクアイを動かした。
乱暴に振るわれる攻撃を受け止めると、敵の爪はボロボロと崩れて、腕はもげて地に落ちた。
腕の無くなった敵は次に尾を振り払う。
メクルメクアイがそれも受け止めると、それもまたもげて地に落ちた。
膝を震わせ翼を軋ませる相手をメクルメクアイは片手でぐんと抱き寄せて、悲劇を繰り返す時空超越装置をその体から一息に抜き取った。
間もなく、ラストウェザリングドラゴンの全身が突然に錆びて、跡形もなく塵となって消え去った。
セテラは静かに息を吐いてイヌリンの手を取る。

「イヌリンちゃん。今度は、あなたの願いを叶える番だよ」

イヌリンは頷いて、魔法の杖を台座から引き抜いた。
そしてセテラと共に、メクルメクアイの手の平の上へとジャンプした。
冷たいけれど気持ちの良い風が慰めるように二人を迎えて、セテラは大きく伸びをして深く息を吸った。
イヌリンはセテラの前に立って、目の前にある大きな時空超越装置をジッと見上げている。
すると、ずっと我慢していた気持ちが頬を伝ってポタポタと落ちた。

「君の前では泣きたくなかったのに」

言って顔を伏せた。
セテラは顔を見ないよう後ろから抱き締めて、そっと涙を拭ってやる。

「じゃあ、泣き止むまで待つよ」

「ううん!もう泣かない!」

イヌリンはやっぱりイヌリンらしかった。
セテラは彼女の肩の震えが落ち着くまで、彼女の背中を優しく擦ってあげた。

「ふう、もう大丈夫。ありがとう」

セテラが横に並んで顔を覗き込むと、イヌリンの目は真っ赤になっていた。
でも、その顔は決意の色で満ちていた。

「セテラの言うように、もう一度お願いしてみるよ」

イヌリンは言って、ぎゅっと杖を握り直した。

「必ず叶うよ。だって、今度は魔法少女が二人だもん」

セテラがそっと手を重ねると、いつもみたいに心が一つになってイヌリンの自信は揺るぎないものになった。

「ぜったいぜったい。叶うよね」

「うん!絶対だよ!」

ロマンスティックの頭にある超合金の花に淡い虹色の光が浮かぶ。
それに呼応して、時空超越装置が音を上げて起動した。
イヌリンは目を閉じて、希望を願い想いを込めて、呪文を唱える。

「巡り届け。目眩く未来」

超合金の花から一条の光が昇り、澄みきった青空を貫いた。
それは遥か彼方に浮かぶ北極星を一際輝かせた。
呼応して、青空いっぱいに次々と星が瞬く。

「ポラリスノクターナル」

イヌリンが静かに呪文を唱え終えると、星々の輝きは北極星を中心に左へ周りはじめた。
回転は徐々に速くなって、果てなく幾重の輪を描いた。
少女の願いを叶えるために星時計が運命を巻き戻す。
目も心も奪われてうっとり見上げていたばかりのセテラは、ふと我に返って隣に立つイヌリンを見た。
彼女も、メクルメクアイの手の平も時空超越装置も、まるでディスオーダーの時みたいに半透明になっていた。

「お別れじゃないよ!」

セテラは重ねていた手を握った。
感覚はなくても温もりはまだあった。

「まだまだ話したいことがあるから!一緒に行きたいところがあるから!一緒にやりたいことがあるから!」

セテラも泣かなかった。言葉を途切れさせない。
きちんと、私のすべてを伝えるために。 

「あなたのことが大好きだから!またね!!」

最後に「またね」と聞こえた気がした。
最後っていつだろう。
セテラはこの夢から覚める度に思う。
夢、だったのだろうか。
相手の顔は朧気で優しく綻びる口もとを微かに覚えているくらい。
けれど、この忘れてはいけないほど大切に思う一瞬を、今まで何度と夢で確かめた。

「やっば寝坊した!」

中等生になったばかりでも、セテラのことをママはもう起こしてくれなかった。
ただ、ドタバタと着替えて顔を洗ってリビングへ駆け込むと、テーブルの上に愛情たっぷりのお弁当があって、淹れたての紅茶と焼きたてのトーストが用意されていた。
セテラはまず愛おしい幼い妹の頬に、続けてママの頬にもキスをしてテーブルの前に立った。
ふーふーして紅茶を飲み干したら、半分食べたトーストをくわえて慌ただしく外へ飛び出す。

「遅刻だ遅刻ー!」

自転車をいつもよりちょっとばかし速度を上げて走らせ、友達と待ち合わせている駅前の噴水広場までやって来た。

「優等生さん、今日は珍しく寝坊したね」

絵音が悪戯な顔でからかった。
待っていた友達は彼女一人だった。

「あれ?二人は?」

「ミヤと真理亜なら楽しそうに先に走ってったよ」

「そっかあ」

「さ、次は私の番」

絵音は言いながら、自転車の前カゴに載せてあるセテラのカバンの上に自身のカバンを重ねた。

「ごめんね。置いてってくれて良かったのに」

「今日は朝の運動がしたかったところだから付き合うよ。レリゴー!」

「わっ!待って!」

二人は仲睦まじく桜並木の下を春風のように爽やかに走り抜けて、何とか遅刻を免れた。
それから午前の授業をのんびり受けて、待ちに待ったお昼休み。
四人はせっかくだからと校庭に出て桜の下に腰を下ろした。

「ずっこー。あたしにもおごってくれよなー」

愚痴るミヤの口を絵音が素早くストローで塞いだ。
セテラは労いに絵音へイチゴミルクを買ってあげていた。

「ミヤちゃんも真理亜ちゃんも、ギリギリまで待たせて本当にごめんね」

真理亜は頭を振って、和やかに微笑みセテラのことを許してくれた。

「誰にだってあることだよ」

「真理亜ちゃん……女神みたい!」

「ふふ、それは大げさかな」

「真理亜が許すなら、あたしも許してやるか」

そう言うミヤの隣で、絵音がクシクシャになったイチゴミルクの紙パックをセテラに掲げて見せた。

「ミヤちゃんは悪魔みたい」

「なんでだ!あたしだって許したのに!」

ミヤは怪獣みたいにセテラにじゃれる。
セテラはケラケラ笑いながら抱えるお弁当を庇う。

「ごめんごめん。お弁当がこぼれちゃうからやめてー」

友達と過ごす日常は楽しいでいっぱいだ。
今日みたいにちょっとしたトラブルがあっても、何気ないことで笑い合えば楽しい一日になる。
でも時折、心に小さな穴が空いてそこから何かがこぼれ落ちてしまう寂しさを感じることがあった。
今日もそんな日だった。
友達と別れての帰り道、きっと一人ぼっちで歩くから寂しいのだ。
いつものように前向きに考えてセテラは顔を上げる。

引いていた自転車に股がってペダルを漕ぐと、甘い香りを含んだ柔らかい風にふんわりと包まれた。
そうして体も心もぽかぽか温まってきた頃に、ふと、心が何かに引かれた。
小川に架かる緑の鉄橋まで来て、セテラは何気なく自転車を降りた。
ゆっくり歩いて、はたと立ち止まる。
胸に空いた小さな穴がキラキラした超合金で塞がった。
あるはずない記憶が脳裏を駆け巡り、瞬きの間に、セテラはかけがえのない夢を思い出した。
胸の中を幸せいっぱいにして駆け出す。
も、ペダルに脛をぶつけて立ち止まった。

「いったーい!」

「もう、セテラってば何やってるのよ」

セテラによく似た可愛らしい女の子がこちらへ歩み寄る。

「君は変わらないね」

彼女は嬉しいはずなのに目に涙を浮かべていた。
でも、絶対に泣いたりしない。

「久しぶり。て、私のこと、まず覚えてるかな?」

「もちろんだよ!イヌリンちゃーん!!」

セテラは自転車を橋の欄干に投げてイヌリンへ飛びついた。
向こうから歩いてきた女性が微笑ましそうに二人を一瞥して横を通り過ぎて行った。
イヌリンは急に恥ずかしくなってセテラから身を離した。
セテラは幼児みたいな人懐っこい顔で無邪気に笑う。

「また会えたね!元気してた?」

「うん、元気だよ!セテラのおかげで幸せになれました」

「よかったー」

セテラは、ほっと一息。
その傍らで、イヌリンが欄干に腕を置いて絵に描いたような空を見上げて言う。

「この世界は変わらないね」

「うん。でも、これから良くなっていくと思うよ。ほら、向こうを見て」

セテラが指す方へ向き直ると、天井が途中からなくなって絵に描けない青空が覗いていた。

「あの日に、この世界にも変化が起こったってことね」

「きっとあの日、みんなが平和を願ってたからだよ」

イヌリンはクスッと笑みをこぼす。

「あんな恐ろしい出来事があったら、みんなそう願うよね」

「何はともあれ、終わり良ければ全て良し。ハッピーエンドだよ」

「うん、そうね。まだまだ終わりじゃないけど」

「じゃ、話は歩きながらして家に帰ろう」

「え?私も?」

「え?そうだよ」

「君の両親は私のこと思い出せないだろうし、というかこの姿で一度も会ってないし、何より君にそっくりな女の子が急に現れたらひっくり返っちゃうかもよ」

セテラは腕を組んで、うーん、と唸るも直ぐに自転車を起こした。

「ま、なんとかなるよ」

「なるかな……」

「まさか、もう帰っちゃうつもり?」

「ううん。まだまだ帰りたくない」

「じゃあ、どうする?」

「行くよ、いくいく」

「決まりね!一緒に帰ろう!」

二人は歩き始める。
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