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復讐は最高の動機さ!

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あれからチトは、カフェ・プリンセスで働くようになりました。
チトはそこで働きながらも、他に仕事を手に入れてはこなし、夜になって帰るという忙しい毎日を送っています。

チト「ただいま」

しーん。

チト「菓子屋からお菓子もらってきたよ!」

すーん。

カフェ「臭いがない」くんくん

チト「は?」

カフェ「あたし目は悪いけど、鼻は利くの」

チト「うん良かったね。おーいココやーい!」

カフェ「だから、ココはいないの」

チト「じゃどこよ」

カフェ「複数の臭いがするわ。きっと、泥棒でも入ったのね」

チト「あー。最近、多いって聞いたなー」

ココ「命は無事かしら」

チト「くだんねえことぬかすと焼くぞ」ぐいっ

カフェ「あたしに当たらないでもらえる?」ぷらーん

チト「ちっ。拐った奴等は焼く、絶対にかまどで焼いてやる」かふぇぽい

カフェ「こっちよ。急ぎましょう」たたっ

チト「焼き殺す!」だたっ!

家から勢いよく飛び出すと、前にフェルト人形をくれたおじさんとぶつかりました。

フェルトおじさん「どうした」

チト「あの時のおじさんか。弟がね、拐われたのよ」

フェルトおじさん「君もか!」

チト「君も?」

フェルトおじさん「私も、娘を拐われたところだ」

チト「で、私に相談に来たのね」

フェルトおじさん「チトちゃんは、この町で一番強いと有名だからね」

チト「わかってるじゃないの。よし、じゃあついておいで」

フェルトおじさん「え?」

チト「私は生憎、正義の味方を気取るつもりはないの。助けたきゃ自分で助けなさい。子供になんか頼らずに」

フェルトおじさん「そうだな……。では共に行こう」

臭いを辿り追跡を再開したものの、ある角を曲がったところで、また何者かにぶつかりました。

チト「っ邪魔だ!誰よ!」

そこにはプルプルと震える、ココと同じくらいの歳の男の子がいました。

チト「ちっ、気を付けろよ」

チトが駆け出そうとした時、待って、と男の子がチトを引き留めました。

チト「何よ!こっちは急いでるの!」

男の子「助けて下さい!妹が拐われたんです!」

チト「え?」

オコゲ「僕はオコゲと言います!あのそのえと……」あたふた

ぺちん!

チト「甘えんじゃないよ!」

オコゲ「え」

チト「助けたきゃ、自分で助けなさい。あなたお兄ちゃんでしょう」

オコゲ「でも……」

チト「でもじゃねえ!」

フェルトおじさん「チトちゃん」

チト「おじさんは黙ってて!」

フェルトおじさん「…………」しゅん…

チト「よく聞きなさい。たった一人の妹を、お兄ちゃんであるあなたが守らなくて、誰が守るの?今日もこれから先もずっと、誰かに守らせるつもり?」

オコゲ「ち、ちが……!」くびふりふり

チト「あなたは今、どうしてここにいるの?」

オコゲ「それは……オカユを、助けたい……から」ぼそっ

チト「聞こえないねえ!」

オコゲ「っ僕が!僕がオカユを助けるんだあ!!」

チト「よし。それでいい」なでなで

オコゲ「お姉さん……」

チト「親は?」

オコゲ「今は隣町にいます」

チト「なら仕方ない。背中ぐらい守ってやるわ」

オコゲ「ありがとう!」

チト「しゃあ!みんな、行くよ!」

町から離れた森の中。
カフェが木の上に登り、辺りを見渡します。

カフェ「よかった、なんとか見えそう」

すると。
遠くに、ぼんやりと明かりが見えました。

カフェ「見つけたわよ。奴らの隠れ家」ひそ

チト「今さらだけど、自警団はなにしてんのよ。仕事しなさいよムカつく!」

フェルトおじさん「あの町に、自警団はもういないんだ」

チト「何でよ」

フェルトおじさん「昔、大きな事件があってね。その時に、みんなして逃げだしたんだ。ついでに夜警もなくなって、この有り様だ」

チト「クソったれ!でも、好都合ね」

オコゲ「好都合?」

チト「復讐しても、説教を言う奴がいないってわけ」にやり

フェルトおじさん「復讐?君は」

チト「綺麗言はよして」

フェルトおじさん「…………」

チト「さてと。とりあえず正面突破する前に」

カフェ「おまじないは無しよ」ひそ

チト「約束したよね?就業規則に反するつもりですか?」いらいら

オコゲ「猫とお話ししてるの?お姉さん」

カフェ「あたしが魔女と知れたらどうなる。おまじないを求める人が増えたらどうなる」ひそ

チト「ちっ!」

カフェ「人前じゃ無理。それぐらいわかって、納得してちょうだい」ひそ

チト「あーもう!やっぱり役立たずじゃないの!」

オコゲ「?」

フェルトおじさん「チトちゃん。ひとつ、提案があるんだ」

チト「何よ」

フェルトおじさん「こしょこしょ」

チト「こしょこしょ?はしょらずきちんと話しなさい」

きちんとおじさんが話した後、一行はチトを先頭に、隠れ家までいそいそと移動しました。

オコゲ「美味しそうなご馳走……」

窓からこっそり覗いて見たけれど、子供達の姿は見当たりません。

フェルトおじさん「子供達が見当たらない」

チト「必ず見つけ出す。その為にやるよ」

フェルトおじさんの背中にチトが乗り、その背中にオコゲが乗り、その背中にカフェが乗る。

手下「ん?」

そうして大きな影をつくり。

フェルトおじさん「めえええええ!!」
チト「きえええええ!!」
オコゲ「ひょおおおおお!!」
カフェ「ふにゃあああああ!!」

みんなで一斉に奇声を上げました。
そのあまりに突然のことに。

手下「魔女だあ!!」

と、一人の臆病者が叫ぶやいなや、泥棒達は魔女がオバケを連れて現れたと、てんやわんやの大騒ぎ。
テーブルの上に立っていたロウソクが倒れ、またその火が消えたことで、室内は暖炉の明かりだけが頼りの薄暗く不気味な雰囲気に一変しました。

手下「ボスまってよー!」ぴゅーい

それがさらに恐怖を煽ったことで、泥棒達は風のように隠れ家から飛び出して行きました。

フェルトおじさん「リート!良かった無事で」ぎゅ!

リート「パパ!かっこよくてもう、ぶんだばぶんだばよー!」ぎゅ!

オカユ「おにさん!」

オコゲ「オカユ!ケガはない?」

オカユ「うん!助けに来てくれてあーと!」うるうる

オコゲ「へへっ、当然だよ!」

子供達はみんな無事でした。
めでたしめでたしだけど、まだ話は終わりません。

ココ「おねえぢゃあああん!」しくしく

チト「ココ。あなた、本当に運がないね」なでなで

カフェ「食べられなくて良かったわね」ぺろり

ココ「カフェなんか嫌い!あっちいけ!」

カフェ「!?」

チト「ざまあみやがれっての」にやり

一方。

ボス「オバケってさ。正直怖がりすぎじゃね?」

手下「てか魔女もいなくね?」

ボス「よし、そこまで言うなら見てこい」

手下「ん!?」

ボス「様子見てこい!」

手下「はははい!」たたっ

勇敢なつもりで手下がひとり隠れ家に戻ると、
中から歓喜の声が聞こえてきました。

手下「やっぱり人か。そうだよな、メルヘンじゃあるまいし」

今なんて?

手下「ん!?」びくっ

大きな揺らめく影が、手下に問います。

手下「なにも……」びくびく

チト「メルヘンなんてクソくらえ!!」ぐわっ!

ぎいやあああああ!!

ボス「!」

手下「ひいん……ひいん……」しくしく

ボス「どうした!何があった!」

手下「炎を操る魔女に背中を焼かれましたあ!もうやだあ!」しくしく

ボス「そうか……。みんな、故郷へ帰ろう」

こうして。
この泥棒達が町に現れることは二度とありませんでした。
そしてあの隠れ家は、盗まれた品を持ち帰った後、丁寧に焼き払いました。
最後に持ち主のいない金銀財宝は、全て、チトが丁寧に売り捌きましたとさ。

続け!
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