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メルヘンなんてクソまみれ!

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ある朝のこと。
外には雪が積もり、太陽も心なしか寒そうです。

ココ「チト!」ばしばし

チト「痛い痛い!」

ココ「見てよ!」

チト「ふあ……朝っぱらから何よ」

ココ「僕、左手の指が五本あるよ!」どやぁ

チト「よかったね」さぶさぶ

ココ「それだけ!?」

チト「これで、薪がもっと持てるね!」にこっ!

ココ「う……うん」

チト「腹減ったな……飯は?」

ママ「あら、二人とも起きた?ご飯よ」

チト「しゃあ!」

二人が食卓に向かうと、しぼりたてのミルク、パンやサラダにチーズやフリカデレと、パセリを乗せた、あったか~いジャガイモのスープがありました。

チト、ココ「おはよう!」

パパ「二人とも、おはよう。まずは顔を洗ってきなさい」

チト「ちっ」

ココ「はーい!」

顔を洗って、いざ、いただきます。

チト「ハチミツハチミツ」るんるん

ココ「ぶんだばぶんだばよー!」うまちぃ

ママ「なにそれ」くすくす

パパ「チト」

チト「何?」もむもむ

パパ「ココを連れて、馬に乗って町まで行ってくれないか」

ココ「行く行く!」

チト「薪と、ママの彫ったへんちくりんな置物を売りに行けばいいのね」

ママ「ちょっとちょっと!へんちくりんとは何よ!」

チト「ムカつくことに、なぜか好評なのよねえ」ぼそっ

ママ「チト?」じー

チト「パパ!頼まれてあげるわ!」きゃぴ

パパ「よろしく頼むよ!」

チト「うん!」

食事を終えると、さっそく荷物を積んで、ココは荷車に乗りました。
チトは手袋をはめて馬に颯爽とまたがると、荷車を馬に引かせます。

そして二人は、深く暗い森へと出掛けました。

ココ「見て!家の屋根に猫がいるよ!」

チト「馬鹿ね。あれは、光の反射よ」

ココ「そっか……」

チト「猫なんて、もういらないわ」

ココ「どうしてそういうこと言うの!」

チト「散々な目にあったし」

ココ「でも」

チト「カフェ!もっと速く走りなさい!風のように!」

馬は森を走り抜け、太陽が真上に上がる頃、木々の向こうに一軒の家が見えました。

ココ「あ!」

チト「止まりなさい!」ぐいっ

馬「ひぎぃん!」ぴたあっ!

チトは、馬から軽やかに飛び降りて、近くの木に手綱を巻き付けました。
ココは、荷車から慎重に降りると、目の前にある家に駆けて行きました。

チト「カフェ、おとなしくしてなさいよ」ぽんぽん

ココ「美味しそう……」

二人の前には、美しく立派なお菓子の家があります。
チトはそれに近づくと、あらゆる菓子をむしり取り、用意した袋へ詰めました。

ココ「チト、怒られるよ!」

チト「腹も減ってきたし、ついでに頂きましょう」

ココ「ええ……」

チト「あなたはどうするの?」むしゃり!

ココ「…………」く~

チト「たまんねえよまったく……!」むしゃあ!

ココ「僕も食べる!」たたっ

こうして二人は、好き放題に食い散らかしました。

マーゴ「こら!あんた達!」

そこへ、家の主である老婆が、太陽よりも顔を真っ赤にして帰って来ました。

マーゴ「何をやっているんだい!」

チト「見てわからないわけ?腹減ってムシャムシャしてんのよ」

マーゴ「食べ過ぎでしょう!それに」

お菓子の家、突然の倒壊。

マーゴ「あー!」ががーん

チト「いっけね。壊しちゃった」

マーゴ「どうして帰って来るまで待たなかったの!ええ!」

ココ「僕は止めたんだよ」

マーゴ「口にチョコがついてるわよ」じとー

ココ「えへへ」ぺろり

マーゴ「まったく。仕様のない子達だねえ」ためいき

お菓子の家、修復。
中へ歓迎された二人は、焼きたてのパンケーキと、あったか~いカフェを頂きました。

ココ「美味しー!」

チト「砂糖とミルクを入れるなんて子供ね」

ココ「よく、何も入れずに飲めるね」

チト「私、こう見えて大人ですのよ」

マーゴ「生意気な小娘が、まあ背伸びしちゃって可愛いこと」

チト「かまどの前にひざまずけ」

マーゴ「やだし」

チト「それやめろ!」

マーゴ「ねえココ。この後、二人は町に行くんだね」

ココ「そうだよ!一緒に行こう!」

マーゴ「それは遠慮するわ」

ココ「どうして?」

マーゴ「あたしはここが、好きなのよ」

ココ「またそれー」

チト「地縛霊だから仕方ないね……」ぐすっ

マーゴ「まだ死んでないわよ!」

ココ「そうだ!これ見てよ!」

マーゴ「あら、ついに指が生えたのね!おめでとう!」ぱちぱち!

ココ「そうだよ!ハシバミの枝のおかげさ!」

マーゴ「まるで、メルヘンのようなことだねえ」にこにこ

チト「今なんて?」

マーゴ「メ、ル、ヘ、ン!」

チト「はんっ、メルヘンなんてクソまみれよ!」

これは個人の感想です。

マーゴ「あらどうして?」

チト「この世界の方が、うんと素敵で楽しいから」

マーゴ「ふーん」にやにや

チト「さ、ココ。そろそろ行くよ!」

ココ「はーい!」

マーゴ「チト」

チト「何よ」

マーゴ「また、カフェ粉をお願い」ちゃりん

チト「やだし」

マーゴ「これは、お小遣いね」すっ

チト「愛してるわ!お婆様!!」ぎゅ!

マーゴ「相も変わらず、現金な子」ぽんぽん

ココ「おばあちゃん!僕も愛してるよ!!」ぎゅ!

マーゴ「あらあら」にこにこ

それから二人は町に向かい。
そこで、かけがえのない人達と。

それはそれはもう楽しい一日を過ごしましたとさ。


おしまい。
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