二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン

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~山着~ 第一章 「闇喪」 全十三話

第二話 本能・遺伝子

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 森や林の先を気になった一番最初、始まりはあなたが祖母のお葬式に行った時です。式場のすぐ近くに山へと駆け上がる様な木々が生い茂っている、深い森がありました。夕刻から夜になると、あなたはその木々のしじまが気になり、そして不気味に感じました。

 その際、あなたはじっ・・・と、その闇の黙と隙間を見つめていましたが、同時に『モノ』もあなたをじぃ・・・っと見ていたのです。その視線を感じたからこそ、あなたも気になってしまいました。

 キャンプに行こうとした時とのように。

 あなたからはその時も、真っ暗で何も見えなかったでしょう。でも『モノ』からあなたはしっかりと見えていて、なんなら数秒間、のです。

 しかし当時のあなたはまだ幼く、恐怖まではしていませんでした。
 興味、好奇心、もしくは警戒心、違和感。その程度でした。すぐに家族か親族の傍まで駆けつけて、安心と安堵感からこの事をすっかり忘れています。


 でも、今はもう子供ではありません。

 だからと言って、怖がったり不安に苛まれたりすることはけっして恥ずかしいことでも、情けないことなんかではありません。山や森の中、その『恐怖』を感じるのはあなただけではないのです。

 誰もが、昼ですら木々の紫幹翠葉しかんすいようが光源である日差しを奪い、薄暗く、夜なら視覚が完全に失われる。その反面、聴覚や嗅覚などが研ぎ澄まされ漆黒の闇夜の中で風がこそめく、音。


 カサカサッ・・・ザザザー・・・・・・


 という、木々と葉々が擦れるさざめき。そして頬や二の腕を撫でるように過ぎ去る風の吐息。


 リンリンリン・・・キチキチキチ・・・キイキイ・・・・・・


 と、様々な虫の囀りが鳴り響く。まるで化け物の歯軋りや爪で何かを掻くかのような虫の声。

 そんな境遇に恐怖しない人の方が稀だと思います。

 しかし、あなたはずっと恐怖と共に不思議だと思っていました。なぜが、そしてあなた自身もこんなにに恐怖するのだろうか・・・・・・




 可能性の話ですが、『一目惚れ』とは遺伝子が『呼ぶ』んだそうです。近い遺伝子との交配だと生物としての淘汰がされない為に、多様性が失われます。出来るだけ『自分に無い要素』を含んだ遺伝子と子孫を残そうとする。それが『』の一種だそうです。
 そしてその逆説かのように、近親婚を避けるために思春期へと成長した女の子は実の父親や高齢男性の加齢臭に嫌悪するようになったという話、説もありますね。

 しかし例えば万が一、人類のみんなが全くの同じ遺伝子だと、ある特定のウイルスや天敵、その一種類の存在が原因で種族が絶滅してしまいます。



 もう少し難しい話をすると、遺伝情報が似すぎているとどっちをチョイスすべきか『エラー』が起きるのでしょう。同じ様な遺伝子の同じ『短所』を選ぶようにはインプットされていないか、もしくは遺伝子が独自で変異させてエラーこそが重要だと認識しているのかもしれません。
 それが
 突然変異、イレギュラー、変異体、染色体変異・・・・・・



 このように、なぜか『惹かれる』ものや、なぜか『畏怖いふ嫌厭けんえん』するもの。

 なにか本能が謳えかけるような、共通する『モノ』があるのではないでしょうか・・・・・・



 そう言えばあなたはその頃から、自分がじぶんでは無くなるような感覚を感じることがたまにありました。特に、夢から目覚めた直後など・・・・・・
 毎朝、目覚める度に「ああ、自分か」とまるで毎回、自分という存在を再認識している様に。


 その”非現実感”も、もしかすると『モノ』の仕業かもしれません。
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