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第22話
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キャンプで僕は二軍。これはあたりまえ。でも練習場は一軍と同じ総合運動公園内の球場だった。
朝、宿泊先のホテルから球場まで、僕はあえてみんなと一緒のバスには乗らず、一軍監督が走っていると記者の人からに聞いたこともあり、ランニングを兼ねてホテルから球場までの道を毎日せっせと走った。
ただし畏れ多いので、一軍監督には決して気づかれないように、ずいぶんと後ろの方を、それこそ忍者のようにこそこそと走ったのだけど。
とにかくこうやって、清々しい朝の空気の中を走ることで、バスに乗っている他の選手よりも、少しでも多く練習したい、鍛えたいって、そういう思いもあったし。
走ってひと汗かいて球場に着いたら、また全員でグラウンドを走って、ストレッチをして、柔軟トレーニングとかしてから、キャッチボールとか遠投とか、そしてペッパーとかサイドノックとか投内連携とか、それからいろんな器具を使ったちょこまかと動くような運動とか、それはもう鬼のようなメニューが目白押しの満載で、新人の僕はそれらを必死こいて何とかこなしていった。
あとはサブグラウンドでダッシュしたり、広い公園内をロードワークに出たり、とにかく走れ走れ! もう走れメロス状態! 本当にプロの練習はすさまじかった。
で、新しく就任した二軍のピッチングコーチがとてもいい人で、練習の合間なんかには気を回して、新人投手一人ひとりに気さくに、いろいろと話をして回っていたのだけど、僕のところへ来たときは、僕がスカウトの人に畏れ多くも「要望」していたことが耳に入っていたのか、
「うちの方針で、っていうか、今年から入った俺の考えでもあるが、まずは選手の自主性を尊重する。そして新人はとりあえず、投球フォームをいじったりとかは出来るだけせず、特に高卒の子は急いで筋トレとかの前に、まずは柔軟性を持たせるトレーニングとか、基礎体力を持たせるための走り込みなんかを重点的にやる。それから、ドラフトで指名されて、お祝いとかいろいろあっただろうから、少々体がなまっているかも知れない。だからまずは、昨年の君のベストの投球が出来る状態にまで持って行ってもらおうと思う。もちろんプロとしての基本的なことをいろいろと覚える必要はあるだろうが、それをクリアしたらファームの試合で投げてもらう。とにかくアマチュア時代の君のベストの投球を、プロの試合でやったらどうなるのか、まずは試してみろ。うまく抑えられたらもうけものだが、そうでなかったら課題が見つかることになる。それがプロとアマの差だな。それからその課題を、じっくりと直せばいい…」
そんなピッチングコーチの話に、僕はとても共感し、安心もした。
高卒ルーキーの投手が「教え魔」のピッチングコーチにフォームをごちゃごちゃといじくられ、フォームが迷子になり、そのまま鳴かず飛ばずで引退したっていう某球団の恐ろしい話を、僕は何かで読んだことがある。
そんなことになったら大変だから、指名のあいさつに来られたスカウトの人にも、僕は生意気にも、そのことはばっちり釘を刺しておいたつもりなんだ。
僕は偉そうにも、プロに入っても当分は自分の考え、つまり自主性を持ってやっていきたい、みたいなことを、偉そうにぬけぬけと言ったからね。
今思うと、もう恐ろしくて顔から火が出そうだし、高校の監督がひやひやしながら横で聞いていたのもよくわかる。
だけどピッチングコーチが言った話は、このチームの若手育成の方針でもあるらしい。それはキャンプ初日に、二軍監督がみんなの前でも、はっきりとそう言っていたし。だから僕はとても納得できたし、とても安心もしたんだ。
だけど一般的に、高校野球では必ずしもそんな感じではない。とにかく選手は、監督の考えには絶対服従であることが多い。僕の高校はぜ~~んぜん違うけどね。
そしてそれはプロでも往々にしてあること。高卒ルーキーなんかは、コーチの考えには反論できない人も多い。だけど幸い、このチームはそういう雰囲気ではなかったみたい。
アメリカ的? 進歩的? そんな感じかな。
そもそも僕もそうじゃないんだ。
あのテニスコートで、めちゃくちゃに投げていたのが僕の原点。野球に関して、今の僕の状態はおまけ、あるいはボーナスステージみたいなものだと思うことにしている。つまり野球選手として、僕が失うものなど何もない。
だから僕は誰にも絶対服従はしない。まずは自分が納得しないと。
たとえそれで球団のお偉いさんから目を付けられ、数年でクビになったとしても、そしたら地元で医療系の資格でも取って、僕の手首を診てくれたあの理学療法士の人にでも弟子入りし、その病院の野球部で投げようかななんて思っていたし、それはそれで楽しそうな人生だなとも思ったし。
だから、僕には恐い物なんか、なんにもないんだ。
だからと言って球団の指示にも従わない、なんてわけじゃ全然ないよ。ここで放牧してもらおうとも思わないし、ちゃんとみんなと一緒にやるつもりだよ。
それと監督に「絶対服従」しないという、僕の考え方のルーツがもう一つある。
それは、実際には僕はちっともそうとは思っていないのだけど、高校の監督はあの甲子園で、「僕に助けられた」とか「僕に借りがある」とか、勝手に思ってくれていて、そんな事情からか、僕に何かを強いたりはしなかったんだ。(二年の夏の予選の「投板禁止」は別として…)
そして監督は僕を放牧してくれた。しかも先輩のキャッチャーという、僕を大投手にするとかいう野望(妄想?)を持った「名参謀」まで用意してくれて。
今から考えると、監督はこの時点ですでに、僕のドラフト指名を視野に入れていたんじゃないのかな? あのスカウトの人は、僕の甲子園での好投を観て、僕に注目してくれていたのだから。(誤解して買いかぶって…)
それはともかく、僕は放牧されたおかげで、自分でいろいろ考えながら、先輩にも支えられながら、いろいろと練習ができた。それはとてもラッキーだったと思っている。
それに考えてみると、先輩は僕の練習法にああだのこうだの、決して口出ししなかった。先輩風吹かしたりもしなかった。ただただ僕をほめ続け、そしてそれに乗せられて、僕は練習に励むことが出来た。
そして先輩はおそらく本気で、僕が大投手になると思っていた気がする。そして僕はそんな先輩に洗脳されながら、いろんな課題を克服し、ここまで必死こいてやってこれた。
あのテニスコートでめちゃくちゃに投げていた僕が、ドラフト全球団最下位指名とはいえ、今やまがりなりにもプロ野球選手だぞ! 多分僕は、そんな先輩の手の平の上で踊らされながら、ここまでやってこれたんじゃないのかな?
今から考えると僕ら、不思議な関係だったんだね。
それはいいけれど、キャンプをやっているここの気候はとても温暖で、それも助かった。そしてそんな気候だから体が温まりやすく、僕はそのときすでに、前の年の地区予選の頃の状態までには、だいたい仕上がっていたんだ。
それに僕は、ドラフト全球団最下位指名という厳しい現実を自覚し、だから指名後も淡々と日々を過ごすことに徹し、走ったり投げたりもコンスタントにやっていたんだ。
だからピッチングコーチが言っていたような、「体がなまる」みたいなことは全然なかったつもりだ。
それで投げるときなんか、すでに実家の電気屋で働いていたあの先輩も随分相手をしてくれたし。
またまたお世話になり、あの人には感謝の気持ちでいっぱいだ。
それから数日後、僕はこのキャンプで初めてブルペンに入った。そしてそこで衝撃を受けた。プロの投手たちの球もさることながら、それ以外にも、考えもしなかったとんでもない理由で…
キャンプで僕は二軍。これはあたりまえ。でも練習場は一軍と同じ総合運動公園内の球場だった。
朝、宿泊先のホテルから球場まで、僕はあえてみんなと一緒のバスには乗らず、一軍監督が走っていると記者の人からに聞いたこともあり、ランニングを兼ねてホテルから球場までの道を毎日せっせと走った。
ただし畏れ多いので、一軍監督には決して気づかれないように、ずいぶんと後ろの方を、それこそ忍者のようにこそこそと走ったのだけど。
とにかくこうやって、清々しい朝の空気の中を走ることで、バスに乗っている他の選手よりも、少しでも多く練習したい、鍛えたいって、そういう思いもあったし。
走ってひと汗かいて球場に着いたら、また全員でグラウンドを走って、ストレッチをして、柔軟トレーニングとかしてから、キャッチボールとか遠投とか、そしてペッパーとかサイドノックとか投内連携とか、それからいろんな器具を使ったちょこまかと動くような運動とか、それはもう鬼のようなメニューが目白押しの満載で、新人の僕はそれらを必死こいて何とかこなしていった。
あとはサブグラウンドでダッシュしたり、広い公園内をロードワークに出たり、とにかく走れ走れ! もう走れメロス状態! 本当にプロの練習はすさまじかった。
で、新しく就任した二軍のピッチングコーチがとてもいい人で、練習の合間なんかには気を回して、新人投手一人ひとりに気さくに、いろいろと話をして回っていたのだけど、僕のところへ来たときは、僕がスカウトの人に畏れ多くも「要望」していたことが耳に入っていたのか、
「うちの方針で、っていうか、今年から入った俺の考えでもあるが、まずは選手の自主性を尊重する。そして新人はとりあえず、投球フォームをいじったりとかは出来るだけせず、特に高卒の子は急いで筋トレとかの前に、まずは柔軟性を持たせるトレーニングとか、基礎体力を持たせるための走り込みなんかを重点的にやる。それから、ドラフトで指名されて、お祝いとかいろいろあっただろうから、少々体がなまっているかも知れない。だからまずは、昨年の君のベストの投球が出来る状態にまで持って行ってもらおうと思う。もちろんプロとしての基本的なことをいろいろと覚える必要はあるだろうが、それをクリアしたらファームの試合で投げてもらう。とにかくアマチュア時代の君のベストの投球を、プロの試合でやったらどうなるのか、まずは試してみろ。うまく抑えられたらもうけものだが、そうでなかったら課題が見つかることになる。それがプロとアマの差だな。それからその課題を、じっくりと直せばいい…」
そんなピッチングコーチの話に、僕はとても共感し、安心もした。
高卒ルーキーの投手が「教え魔」のピッチングコーチにフォームをごちゃごちゃといじくられ、フォームが迷子になり、そのまま鳴かず飛ばずで引退したっていう某球団の恐ろしい話を、僕は何かで読んだことがある。
そんなことになったら大変だから、指名のあいさつに来られたスカウトの人にも、僕は生意気にも、そのことはばっちり釘を刺しておいたつもりなんだ。
僕は偉そうにも、プロに入っても当分は自分の考え、つまり自主性を持ってやっていきたい、みたいなことを、偉そうにぬけぬけと言ったからね。
今思うと、もう恐ろしくて顔から火が出そうだし、高校の監督がひやひやしながら横で聞いていたのもよくわかる。
だけどピッチングコーチが言った話は、このチームの若手育成の方針でもあるらしい。それはキャンプ初日に、二軍監督がみんなの前でも、はっきりとそう言っていたし。だから僕はとても納得できたし、とても安心もしたんだ。
だけど一般的に、高校野球では必ずしもそんな感じではない。とにかく選手は、監督の考えには絶対服従であることが多い。僕の高校はぜ~~んぜん違うけどね。
そしてそれはプロでも往々にしてあること。高卒ルーキーなんかは、コーチの考えには反論できない人も多い。だけど幸い、このチームはそういう雰囲気ではなかったみたい。
アメリカ的? 進歩的? そんな感じかな。
そもそも僕もそうじゃないんだ。
あのテニスコートで、めちゃくちゃに投げていたのが僕の原点。野球に関して、今の僕の状態はおまけ、あるいはボーナスステージみたいなものだと思うことにしている。つまり野球選手として、僕が失うものなど何もない。
だから僕は誰にも絶対服従はしない。まずは自分が納得しないと。
たとえそれで球団のお偉いさんから目を付けられ、数年でクビになったとしても、そしたら地元で医療系の資格でも取って、僕の手首を診てくれたあの理学療法士の人にでも弟子入りし、その病院の野球部で投げようかななんて思っていたし、それはそれで楽しそうな人生だなとも思ったし。
だから、僕には恐い物なんか、なんにもないんだ。
だからと言って球団の指示にも従わない、なんてわけじゃ全然ないよ。ここで放牧してもらおうとも思わないし、ちゃんとみんなと一緒にやるつもりだよ。
それと監督に「絶対服従」しないという、僕の考え方のルーツがもう一つある。
それは、実際には僕はちっともそうとは思っていないのだけど、高校の監督はあの甲子園で、「僕に助けられた」とか「僕に借りがある」とか、勝手に思ってくれていて、そんな事情からか、僕に何かを強いたりはしなかったんだ。(二年の夏の予選の「投板禁止」は別として…)
そして監督は僕を放牧してくれた。しかも先輩のキャッチャーという、僕を大投手にするとかいう野望(妄想?)を持った「名参謀」まで用意してくれて。
今から考えると、監督はこの時点ですでに、僕のドラフト指名を視野に入れていたんじゃないのかな? あのスカウトの人は、僕の甲子園での好投を観て、僕に注目してくれていたのだから。(誤解して買いかぶって…)
それはともかく、僕は放牧されたおかげで、自分でいろいろ考えながら、先輩にも支えられながら、いろいろと練習ができた。それはとてもラッキーだったと思っている。
それに考えてみると、先輩は僕の練習法にああだのこうだの、決して口出ししなかった。先輩風吹かしたりもしなかった。ただただ僕をほめ続け、そしてそれに乗せられて、僕は練習に励むことが出来た。
そして先輩はおそらく本気で、僕が大投手になると思っていた気がする。そして僕はそんな先輩に洗脳されながら、いろんな課題を克服し、ここまで必死こいてやってこれた。
あのテニスコートでめちゃくちゃに投げていた僕が、ドラフト全球団最下位指名とはいえ、今やまがりなりにもプロ野球選手だぞ! 多分僕は、そんな先輩の手の平の上で踊らされながら、ここまでやってこれたんじゃないのかな?
今から考えると僕ら、不思議な関係だったんだね。
それはいいけれど、キャンプをやっているここの気候はとても温暖で、それも助かった。そしてそんな気候だから体が温まりやすく、僕はそのときすでに、前の年の地区予選の頃の状態までには、だいたい仕上がっていたんだ。
それに僕は、ドラフト全球団最下位指名という厳しい現実を自覚し、だから指名後も淡々と日々を過ごすことに徹し、走ったり投げたりもコンスタントにやっていたんだ。
だからピッチングコーチが言っていたような、「体がなまる」みたいなことは全然なかったつもりだ。
それで投げるときなんか、すでに実家の電気屋で働いていたあの先輩も随分相手をしてくれたし。
またまたお世話になり、あの人には感謝の気持ちでいっぱいだ。
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