オカルト・アポカリプス~人類なき後の地球における心霊現象の発生について~

紫 和春

文字の大きさ
18 / 54

第18話 ちょっと喧嘩しました

しおりを挟む
 九王たちは数日ほど理研の敷地内で過ごした。次の遠征が待っているからだ。そのために九王とウッマは軽いメンテナンスを行い、小堀は脳の体調を万全にしていた。

「では新たな観測地を目指して、次の目的地へと向かいましょう」
「しばらく待機時間だったのはこれのためか」
「そうだね。今回のメンテナンスは軽いものだったから、こんなに休憩を取らなくてもよかったんだけどね」
「準備を万全にするのは大事じゃないですか。準備が良ければ、危険が差し迫っていても対処できますからね」

 九王はドヤ顔で言い切る。

「まぁ確かにその通りだ。それで、今回はどこに行くとか決まっているのか?」
「今回は静岡県の浜松市に向かいます」
「どのくらい離れている?」
「直線距離で200kmくらいですねぇ」
「200kmかぁ……。第4銀河艦隊うちの標準戦艦の全長と同じくらいだな」
「そんな巨大な建造物があるんですか?」
「銀河艦隊では普通に建造できるぞ。無重力だから資材をその辺に放置できるし。これでも第2銀河艦隊や第3銀河艦隊俺たちの仮想敵に比べれば圧倒的に数が足りていない」
「宇宙は広いですねぇ……」

 そんな話をしながら、九王たちはトラックに乗り込む。

「ところで、浜松とかいう場所に行ってどうするんだ? 何か目的でもあるのか?」
「もちろんです。今回は永爛院えいらんいん鍾皇寺しょうこうじというお寺に向かいます。ここには日本全国から集められた呪物が納められているとネット記事に書かれていました。もしかしたら、とんでもない心霊現象を観測できるかもしれませんよ」

 それを聞いた小堀は、エンジンをかけようとした手を止める。

「九王君、俺は行かないぞ」
「……はい?」
「結局心霊に関する環境測定を行うつもりじゃないか。俺は言ったはずだ、オカルトや心霊は苦手だと」
「それの何が悪いんですか? 嫌いではないのでしょう?」
「ぅ……」

 小堀は図星のような顔をするが、すぐにトラックから降りる。

「とにかく、今回は俺は運転しない。行くなら勝手に行ってくれ」

 そのままトラックから数メートル離れる。ウッマはそれを黙って見ていた。
 一方で九王は、人間的な感情が少しだけ出る。

「そんな……! そんなのないですよ小堀さん! 寝食を共にした仲間じゃないですか!? もういいです! そんなに行きたくないのなら、私とウッマだけで行きますよ!」

 そういって九王は運転席に移動し、エンジンをかける。しかしブレーキとクラッチを同時に踏んでいなかったために、いくらキーを回してもエンジンはかからない。

「みこね、ブレーキとクラッチを一緒に踏まないとエンジンはかからないよ」
「ぐっ……」

 九王は一瞬ウッマのことを睨んだが、すぐにキーと向き直ってエンジンを始動させる。
 今度はちゃんとブレーキとクラッチを踏んでいたため、エンジンが動き出した。

「本当に行っちゃいますからね!? いいですか!?」

 九王は最後の確認をするように、小堀に問いかける。

「あぁ、好きにしたらいいだろ」
「小堀さんの気持ち、十分に分かりました! では、ここでお別れです!」

 そういって九王はアクセルを踏む。しかしエンジンの回転数が上がるだけで何も起きない。

「みこね、アクセルを踏みながら半クラにしないと……」
「うぅ……」

 九王はウッマの助言通りに、クラッチから足を離す。しかし勢いよく離したことでトラックは前後に大きく揺れてエンストした。

「くっ……、まだ……!」

 再びエンジンを始動させて前進しようとするが、またもやエンスト。三度エンジンを始動させて、またまたエンスト。一向に進む気配がしない。

「えーん、トラックが言うこと聞いてくれませぇん……」
「みこねの運転が悪いだけだと思うよ」

 九王の泣き言に、ウッマが心無いツッコミを入れる。
 その様子を見ずに音だけ聞いていた小堀は、さすがに無視できなかった。

「あぁもう! 分かったから! 俺が運転するから変われ!」

 小堀は運転席のドアを開けて、九王を助手席へと追いやる。

「小堀さん……」

 九王が見ている横で、小堀はシフトノブを動かし、スムーズにトラックを前進させる。

「俺はこの列島の環境データが欲しい。九王君は環境測定を専門にデータを収集している。なら互いに利益がどこかにある。ウィンウィンの関係だ。俺が運転手になるから、その代わりとして俺は心霊観測に絶対に同行しない。これでいいだろ?」

 九王の表情が明るくなる。

「もちろんです!」

 トラックは理研の敷地を出て、大通りを走っていく。

「じゃあ取引成立……」

 そう言いかけた小堀は、次第に顔を青くする。

「どうかしました?」
「いや……。やっぱり心霊観測する時も同行する。うん、その方がいい」

 頭にクエスチョンマークを付けている九王。荷台から答えが飛んでくる。

「どうせ一人ぼっちで待機している時に心霊現象が起きたら、怖くていてもたってもいられないんでしょ?」
「ウッマてめぇ!」

 小堀が大声を出す。小堀とウッマが言い争いしている横で、九王はなぜか笑いだしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

処理中です...