転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

文字の大きさ
14 / 149

第14話 急な話

しおりを挟む
「ちょっと待ってください! なぜ急にそんな話が!?」
「事前に宍戸様にお伝えすれば良かったのですが、なにぶん華族の方を説得するのが難しくて。それに宍戸様は華族になることを認めていたでしょう」
「それはそうですが、もうちょっと順番というか、順序というものがあるのでは……?」
「しかし、政治に関与した上に、陛下と関わり合いを持つのであれば、今すぐ華族の身分になったほうが都合がいいのです」
(それはそうなんだが……)
 宍戸は一度納得した上で、別のことを尋ねる。
「ではなぜ、男爵のご令嬢が来られたのですか? 爵位を与えて相応の暮らしをしろと言うのなら、使用人と住まいを用意すればよかったのでは?」
「簡単に言えば、お家のためです」
「家?」
「すず江様のお家である森家は、残念ながらあと十年以内に没落すると見込まれています。その前に、末っ子であるすず江様の身を案じて、ご両親が宍戸様に嫁がせたです」
「嫁がせたって……」
 宍戸の中で色々と思うことが出てきたが、一旦それは置いておくことにする。
「詰まるところ、彼女を嫁として迎え入れてから政治の話をしろと?」
「そのような感じです」
「いや、華族になれればそれで良かったんですが……」
「華族になるのは大変なことなんですよ!」
 そう口を開いたのは、すず江であった。
「やらないといけない仕事も沢山ありますし、何より人付き合いが大変なんですよ?」
「あ、はい。すみません……」
 宍戸は何故だか分からないが、謝る必要があると思い謝罪した。
「では、お住まいのほうへ移動しましょう。運転は私が行います」
 そういって亮元が出てくる。
「何かありましたら、ご自宅まで伺います」
 職員から見送られ、宍戸は浅草方面へと向かった。
 車で移動すること数十分。目的地に到着したようだ。
「ここが今日から宍戸和一伯爵のお住まいになります」
 離れとは言っていたが、パッと見ではただの煌びやかな一軒家にしか見えない。
 亮元が正面の扉の鍵を開ける。中に入ってみたが、内装もそれなりに光り輝いているように見えた。
「掃除が行き届いているようで何よりです」
 トミがそのように言う。
「それでは、お住まいの中を見ていきましょうか」
 この家は、現代日本の一軒家のような感じだった。リビングキッチン、和室、風呂、トイレ。二階に上がれば、三個の部屋が存在していた。
「我々で住むには十分な大きさですね」
「生活に必要な道具も、それなりに揃っていることを確認できました」
「和一様とすず様は二階正面のお部屋をお使いください」
 こんな感じで、どんどん生活基盤が出来上がっていく。
「それでは、私たちは夕食の買い出しに行ってまいります。和一様とすず様はおくつろぎになってくださいませ」
 そういって使用人の二人が出かける。宍戸とすず江の二人きりになったものの、宍戸は現状の受け入れを半分拒否していた。
(えっと……、女の子と一緒にいた経験ないのに、こういうことさせる?)
 リビングで一緒にいる宍戸とすず江。お互い沈黙し、気まずい空気が流れる。
(うん、限界だ。ベッドに入って寝たふりでもしよう)
 そう考え、立ち上がろうとした瞬間である。
「あのっ……」
 すず江が宍戸に声をかける。
「な、なんです……?」
「やっぱり私のこと、避けてますよね……?」
「いやぁ……、そんなことはないんじゃないですかね……?」
「その言葉遣いも、その態度も、少しぎこちないといいますか……。やっぱり、転生者の考えてることって人と違うんですね」
 すず江の頬を、涙が流れる。
「私、家がなくなるって聞いたときから不安でっ……。でも、お父様もお母様も私の身を案じてくれてっ……。そんな時に和一様の話を聞いたとき、藁にもすがる思いで私のことを見送ってくれたんです……っ」
 それは女性と呼ぶには早く、まだ少女である彼女の思いの丈だった。自分の置かれた環境を理解し、そして精一杯順応しようとする姿だった。
 思い返せばこの世界に来てからは、宍戸は自分の主張を通すために自分以外を動かしてきた。悪い出来事をひっくり返し、最初からなかったことにするために。しかし、それにも限界が来た。それがこの結果ではないか?
「……そういや自分にも、大切な人がいたな」
 宍戸はすず江に答えるように、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「自分の両親や兄弟、大学や小中からの友達、ネットの向こうのアイドル……。みんな大切だったけど、それも転生のせいで全部無くした。境遇は似ているのかもな」
「和一様にも、大切な人がいたのですか?」
「もちろん。大切な人がいない人間なんていないさ。今の自分は、その例外になるかもしれないけど」
「ならっ! 私が和一様の大切な人になってもいいですかっ……?」
 すず江からの突然の告白のような言葉。
 宍戸は思わず吹き出してしまった。
「なっ、何笑ってるんですか!?」
「いや、それもいいかなって思ってさ。……まぁぶっちゃけると、今の自分の大切な人って、日本に住む人々全員だと思ってる。日本を戦争の惨禍から救う。先の大戦……欧州大戦? も多くの一般市民が犠牲になったからね」
「和一様は崇高な願いを持っているんですね……」
 すず江が少し考え、宍戸の方を見る。
「私も、和一様の大切な人を守るお手伝いをしてもいいですか?」
「もちろん。そうなれば、この爵位を持った意味も出てくるね」
 宍戸はすず江に微笑むと、あることを思い出す。
「そういえば、ちゃんとした自己紹介はまだだったね。宍戸和一、十九歳。転生者だ」
「では改めて。森すず江です。十五になります。和一様の婚約者です」
「それじゃあ、これからよろしく。すず」
「……はい!」
 そんなことを話していると、使用人の二人が帰ってきた。
 これから新しい人生が始まる。新しい歴史を踏み出すために。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

腐れ外道の城

詠野ごりら
歴史・時代
戦国時代初期、険しい山脈に囲まれた国。樋野(ひの)でも狭い土地をめぐって争いがはじまっていた。 黒田三郎兵衛は反乱者、井藤十兵衛の鎮圧に向かっていた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

処理中です...