31 / 149
第31話 呼び出し
しおりを挟む
一九三六年四月三十日。
宍戸が書類整理を行っているところに、一つの連絡が入る。
「宍戸所長、スペインの第九師団から連絡が入りました」
「内容は?」
「『我、対象を確保す。これより帰還す』とのこと」
「良かった。一安心ですね」
宍戸は安堵したような表情を見せるが、ガルシアからの連絡で既に作戦が成功していることを把握していた。
(あまりスマホのことを知られると、後で大変なことになりそうだからな……)
情報戦が物を言う時代に突入しつつある今だからこそ、気を引き締めなければならない。
その時、十六時の鐘が鳴る。
「おっと。もう時間か」
そういって宍戸は、自分の荷物をまとめる。
「申し訳ないですが、今日は米内総理に呼び出されているので、これにて失礼します」
宍戸は立川研究所を出て、通勤に使っている自動車に乗り込む。運転手は宍戸が乗り込んだことを確認して、自動車を発進させた。
自動車は赤坂へと向かう。そしてとある料亭の前で止まる。
店の前では、女将が待っていた。
「宍戸和一様ですね?」
「えぇ、はい」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
そういって料亭の中を案内される。
料亭の中を進み、とある部屋の前に通された。
「どうぞ」
女将が戸を開けると、そこには米内総理が座っていた。
「ようやく来たか、宍戸君」
「お待たせしました、米内総理」
「総理と呼ぶのは止めたまえ。とはいっても、それが事実なんだがな」
そういって米内総理は頭をかく。
「ま、立ち話もなんだ。座ってくれ」
「失礼します」
宍戸は、米内総理の前に用意された座布団に座る。目の前にはお膳があり、高級そうな料理が並んでいた。
「まずは一杯どうだ?」
そういって米内総理が徳利を宍戸に差し出す。
「あ、いや、自分まだ未成年なんで……」
「未成年? その歳でか?」
「あー、未来の日本では、二十歳からが成人ってことになってるんです。自分まだ十九なので」
「そうなのか。ならなおさら飲んだ方がいい。違法なことをやっている背徳感は最高だ」
「……それ、総理自身もやったことあるような言い方ですけど」
「バレなければさして問題ではないからな」
悪い顔をする米内総理。宍戸は折れて、少し早い成人を迎えることにした。
米内総理からお酌させてもらい、宍戸もお酌し返す。
「宍戸君はなかなか頑固な所もあるのだな。その頑固さは将来武器になるだろう」
「そうですかね……?」
「首を容易に縦に振らないというのも、技術の一つだからな」
そういってお猪口を掲げる。
「では、乾杯するか」
米内総理はお猪口を、宍戸は湯呑を持つ。
「乾杯」
そういってそれらを軽くぶつけるのだった。
しばらくはたわいもない話が続いた。特に、米内総理はすず江のことを気にかけているようだった。
「嫁は可愛いものだろう?」
「いやぁ、まだ実感はないですけどね」
「人生はそういうものだ。常に分からないことに支配され、いつの間にか実感を抱くものだよ」
そんな話をしていると、米内総理は急に真面目な顔になる。
「宍戸君、少し政治の話をしよう」
「どうしたんですか急に」
「今、帝国は窮地に追いやられているといっても過言ではない。太平洋は米国に支配されており、大陸はソ連と中華民国、引いては植民地を持ったイギリスとも対立している。私は海軍の人間だが、大陸から手を引くのはいかがなものかと思うぞ」
「そうかもしれませんが、いずれ大陸の脅威は迫ってきます」
「ならば、なおさら大陸から手を引くのは問題だぞ。実際してしまっているのだから余計に面倒になっているのだが」
「だからこそ、今は朝鮮半島で防衛線を引き、しかるべき時が来たら、反攻作戦を行うのです」
「それではソ連の脅威を完全に排除しきれん。だからこそ満州に陸軍を配置して、大陸の安定を図るのだよ」
宍戸と米内総理の主張は平行線を辿る。このままでは決着がつかないだろう。
「まぁ、やってしまったことは仕方ない。ここまで総理職が面倒とは思わなかったぞ」
そういって米内は、空になったお猪口をお膳に置く。宍戸はすかさずお酌した。
「おそらく総理になるだろうだからと言われ、わざわざ予備役に入ったのだがなぁ」
宍戸も内心は同情している。しかし今は、日本の未来を左右する大事な局面でもあるのだ。妥協は許されない。
「今は、朝鮮半島から本土までの領域を絶対防衛線として守り切ることが重要です。それと、シーレーンの絶対死守。これを徹底することが、今後の日本を存続させることに必要なんです」
「うーむ……」
米内総理は少し考える。シーレーンの話が刺さったのだろう。
「まぁ、君の話も一考の余地はある。少し検討しよう」
こうして米内総理との時間が過ぎていく。
料亭の正面玄関。米内総理と一緒に料亭を出る。
「今日はいい話ができた。今後ともよろしく」
「よろしくお願いします」
米内総理は自動車に乗り込み、帰路についた。
「俺も帰るか……」
そういって自分の自動車に乗り込もうとするが、少し視界がグラグラする。
「ぅおっ……。これが酔いか……」
宍戸は何とか車に乗り込み、家へと帰るのだった。
宍戸が書類整理を行っているところに、一つの連絡が入る。
「宍戸所長、スペインの第九師団から連絡が入りました」
「内容は?」
「『我、対象を確保す。これより帰還す』とのこと」
「良かった。一安心ですね」
宍戸は安堵したような表情を見せるが、ガルシアからの連絡で既に作戦が成功していることを把握していた。
(あまりスマホのことを知られると、後で大変なことになりそうだからな……)
情報戦が物を言う時代に突入しつつある今だからこそ、気を引き締めなければならない。
その時、十六時の鐘が鳴る。
「おっと。もう時間か」
そういって宍戸は、自分の荷物をまとめる。
「申し訳ないですが、今日は米内総理に呼び出されているので、これにて失礼します」
宍戸は立川研究所を出て、通勤に使っている自動車に乗り込む。運転手は宍戸が乗り込んだことを確認して、自動車を発進させた。
自動車は赤坂へと向かう。そしてとある料亭の前で止まる。
店の前では、女将が待っていた。
「宍戸和一様ですね?」
「えぇ、はい」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
そういって料亭の中を案内される。
料亭の中を進み、とある部屋の前に通された。
「どうぞ」
女将が戸を開けると、そこには米内総理が座っていた。
「ようやく来たか、宍戸君」
「お待たせしました、米内総理」
「総理と呼ぶのは止めたまえ。とはいっても、それが事実なんだがな」
そういって米内総理は頭をかく。
「ま、立ち話もなんだ。座ってくれ」
「失礼します」
宍戸は、米内総理の前に用意された座布団に座る。目の前にはお膳があり、高級そうな料理が並んでいた。
「まずは一杯どうだ?」
そういって米内総理が徳利を宍戸に差し出す。
「あ、いや、自分まだ未成年なんで……」
「未成年? その歳でか?」
「あー、未来の日本では、二十歳からが成人ってことになってるんです。自分まだ十九なので」
「そうなのか。ならなおさら飲んだ方がいい。違法なことをやっている背徳感は最高だ」
「……それ、総理自身もやったことあるような言い方ですけど」
「バレなければさして問題ではないからな」
悪い顔をする米内総理。宍戸は折れて、少し早い成人を迎えることにした。
米内総理からお酌させてもらい、宍戸もお酌し返す。
「宍戸君はなかなか頑固な所もあるのだな。その頑固さは将来武器になるだろう」
「そうですかね……?」
「首を容易に縦に振らないというのも、技術の一つだからな」
そういってお猪口を掲げる。
「では、乾杯するか」
米内総理はお猪口を、宍戸は湯呑を持つ。
「乾杯」
そういってそれらを軽くぶつけるのだった。
しばらくはたわいもない話が続いた。特に、米内総理はすず江のことを気にかけているようだった。
「嫁は可愛いものだろう?」
「いやぁ、まだ実感はないですけどね」
「人生はそういうものだ。常に分からないことに支配され、いつの間にか実感を抱くものだよ」
そんな話をしていると、米内総理は急に真面目な顔になる。
「宍戸君、少し政治の話をしよう」
「どうしたんですか急に」
「今、帝国は窮地に追いやられているといっても過言ではない。太平洋は米国に支配されており、大陸はソ連と中華民国、引いては植民地を持ったイギリスとも対立している。私は海軍の人間だが、大陸から手を引くのはいかがなものかと思うぞ」
「そうかもしれませんが、いずれ大陸の脅威は迫ってきます」
「ならば、なおさら大陸から手を引くのは問題だぞ。実際してしまっているのだから余計に面倒になっているのだが」
「だからこそ、今は朝鮮半島で防衛線を引き、しかるべき時が来たら、反攻作戦を行うのです」
「それではソ連の脅威を完全に排除しきれん。だからこそ満州に陸軍を配置して、大陸の安定を図るのだよ」
宍戸と米内総理の主張は平行線を辿る。このままでは決着がつかないだろう。
「まぁ、やってしまったことは仕方ない。ここまで総理職が面倒とは思わなかったぞ」
そういって米内は、空になったお猪口をお膳に置く。宍戸はすかさずお酌した。
「おそらく総理になるだろうだからと言われ、わざわざ予備役に入ったのだがなぁ」
宍戸も内心は同情している。しかし今は、日本の未来を左右する大事な局面でもあるのだ。妥協は許されない。
「今は、朝鮮半島から本土までの領域を絶対防衛線として守り切ることが重要です。それと、シーレーンの絶対死守。これを徹底することが、今後の日本を存続させることに必要なんです」
「うーむ……」
米内総理は少し考える。シーレーンの話が刺さったのだろう。
「まぁ、君の話も一考の余地はある。少し検討しよう」
こうして米内総理との時間が過ぎていく。
料亭の正面玄関。米内総理と一緒に料亭を出る。
「今日はいい話ができた。今後ともよろしく」
「よろしくお願いします」
米内総理は自動車に乗り込み、帰路についた。
「俺も帰るか……」
そういって自分の自動車に乗り込もうとするが、少し視界がグラグラする。
「ぅおっ……。これが酔いか……」
宍戸は何とか車に乗り込み、家へと帰るのだった。
6
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
名もなき民の戦国時代
のらしろ
ファンタジー
徹夜で作った卒論を持って大学に向かう途中で、定番の異世界転生。
異世界特急便のトラックにはねられて戦国時代に飛ばされた。
しかも、よくある有名人の代わりや、戦国武将とは全く縁もゆかりもない庶民、しかも子供の姿で桑名傍の浜に打ち上げられる。
幸いなことに通りかかった修行僧の玄奘様に助けられて異世界生活が始まる。
でも、庶民、それも孤児の身分からの出発で、大学生までの生活で培った現代知識だけを持ってどこまで戦国の世でやっていけるか。
とにかく、主人公の孫空は生き残ることだけ考えて、周りを巻き込み無双していくお話です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる