転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第33話 机上演習

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 一九三六年五月十一日。
 この日から、大事な行事が執り行われる。
「それではこれより、白国大規模机上演習を開始します」
 大日本帝国を白国として配置し、これからの日本の情勢を確認する机上演習を行うのだ。それにあたり、白国の模擬内閣の組閣、アメリカ役とソ連役、中華民国役が選抜され、錚々たるメンバーで演習を行うのだ。
 机上演習とは言っても、それぞれの事務机で方針や政策を決定し、それを総裁班に通達。総裁班がサイコロと客観的な判断で状況を進めていくというものだ。
 今回の机上演習は、米内総理や各閣僚、その他軍政関係者も注目している大事な演習だ。
「それでは一九三七年一月より……。状況開始!」
 こうして見た目は地味な演習が始まった。
 状況が動いたのは、一九三七年六月になったときだ。ソ連が満州国に対して宣戦布告、陸軍の兵士を大量に派兵したのだ。
 白国軍が手を引いた満洲国は、サイコロの出目によりものの数日で陥落。ここで中華民国との共同戦線を引いた。これにより白国は、朝鮮半島の根元でソ連と中華民国と睨み合う格好になった。
 この状況を好機と見たのか、アメリカがすかさず白国に対して戦争の正当化を始め、経済的な制裁を強化しだした。
 これにより、白国の経済力、物資生産力、民需軍需関係なく、どんどん国力が低下していく。
 これを危機的状況と判断した白国模擬内閣は、アメリカ、ソ連、中華民国に対して宣戦布告するというとんでもない奇策に打って出ようとした。
 しかも宣戦布告と同時に、中華民国の首都である重慶を爆撃しつつ、ハワイにある真珠湾攻撃を平行して行うという、トンデモ作戦を実行しようとしたのだ。
(おいおい、さすがにそれはやり過ぎじゃねぇか?)
 宍戸は内心そんなことを思うのだが、残念ながら史実でも似たようなことをやっているのを思い出す。宍戸は口を閉じることにした。
 結局白国は、一九三七年十一月に三ヶ国に対して宣戦布告を実施。事実上の世界大戦が勃発した。
 戦争勃発直後。ほぼ成り行きでの開戦だったのにも関わらず、白国は重慶爆撃と真珠湾攻撃の両方を成功させた。もっとも、重慶爆撃は陸軍が、真珠湾攻撃は海軍が担当したため、同時攻撃が成立したと言っても過言ではない。
 その後半年にわたり、陸軍は重慶爆撃と朝鮮半島で戦闘、海軍はハワイに陸戦隊を送り込み拠点化という状況を作った。
 結果だけ見れば、かなり良い状況に落ち着いているだろう。
 だが、ここからが問題だった。
 アメリカは元々あった国力を最大限まで引き出し、物量で押し込もうとしていた。それに続けと言わんばかりに、ソ連が赤い鉄の絨毯とも呼べるような戦車軍団を送り込んできた。
 米ソの圧倒的な物量によって、白国の国力は次第に圧迫・疲弊していく。
 やがて白国は、以前から重要物資があると見ている南方に向けて進出しようとしていた。これ以上国力を減らされる前に、物資を確保したいと睨んだようだ。
 しかし、そこは連合国が支配する領域。一筋縄ではいかないだろう。
 そこで、陸海軍は協力してマレー半島北部に戦力を上陸させる。それと同時にフィリピンに海軍を派遣し、周辺海域の制海権を確保しようとする。
 しかしここで、運命なのか宿命なのか、マレー半島にはイギリス軍が、フィリピンにはアメリカ海軍が進出してきたのである。
 ダイスロールにより、陸軍はイギリス軍の包囲を突破することはできたものの、海軍連合艦隊はアメリカ海軍から手痛い一撃をもらってしまった。
 これにより、大陸には新しい橋頭堡を確保できたが物資を入手できなかったという、本末転倒な結果となってしまった。
 それに追い打ちをかけんばかりに物資不足が続き、最終的には白国は本土全体が飢餓状態となり、にっちもさっちもいかなくなる。
 ここで総裁班が一つの判断を下す。
「白国、国体維持困難と判定。国家崩壊とみなし敗北相当とする」
 ここで決着がつく。
 最終的には、海軍壊滅により本土を包囲され、陸軍部隊には物資が行き渡らず、国民の死者推定三千万人という大損害を受けたことになった。
 机上演習開始から三週間後のことである。
 今回の演習の総括として、宍戸が一言コメントすることになった。
「今回の机上演習を行い、我が国の緊迫した状況が把握できたと思います。机上演習は一種の未来予知です。今回の演習の結果を受けて、各人がより一層我が国の存続に貢献してくれることを願っています」
 こうして、長い机上演習は終了した。
 翌日。宍戸は、今回の机上演習の結果がまとめられた書類の速報を読む。特段脚色や改竄された部分は存在しないようだ。
「しかし、この後が怖いんだよなぁ……」
 この後の予定として、この机上演習の結果を関係者に発表しなければならない。
「あの人が出てこないことを祈るしかないか……」
 そういって宍戸は、速報の原紙に承認のハンコを押すのだった。
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