50 / 149
第50話 新年
しおりを挟む
一九三七年一月一日。新年の始まりである。
年も明けたため、宍戸は心機一転、日本の未来のためにより一層奮起しようと考えていた。
(それが、こうなるのか……)
午前十一時。宍戸は華族会館にいた。華族による新年会が開催されているのだ。当然華族である宍戸は、ここに召集された。
そして容量の少ないグラスを片手に、様々な華族の方と挨拶を交わしていた。
「宍戸伯爵、新年明けましておめでとうございます」
「おめでとうございます……」
宍戸は、貼り付けたような笑顔で挨拶する。しかし、相手が誰だか全く分からない。
そこですず江の出番である。
「金田侯爵、新年明けましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願いします」
男爵とはいえ、華族出身のすず江。宍戸と対応力が違う。
正月なので、和装での参加である。
「さすが、すずはちゃんとしてるなぁ……」
ある程度挨拶の波が引いたところで、宍戸はすず江に声をかける。
「和一様もこのようにならないといけないのですよ?」
「それは分かってるんだが……、いかんせん平民出身なもので……」
「言い訳は駄目ですよ。今日から練習していきましょうね」
「とほほ……」
そんなことを話していると、どこからともなく鋭い視線を宍戸は感じる。
「……なんかさっきからチラチラ見られてるような気がするんだけど?」
「それは君が転生者であるからだろう」
いつの間にか宍戸の後ろに、男性が立っていた。
「うぉっ……! あ、あなたは確か、三笠宮崇仁殿下……」
「お久しゅうございます、殿下」
「うむ。して、宍戸よ。君が視線を浴びるのは、君の出自が特殊であるからだ」
「特殊……。まぁ、確かに特殊ではありますね……」
「その特殊性と様々な感情が混ざりあって、君に降り注がれているのだよ」
「なるほど……。そういえば日本人って異質な人間を排除したがる傾向にあったような……」
「我が臣民たる大和民族がそのような傾向にあるのかね?」
「あ、いや、個人的な感想です……」
「ん、まぁいい。未来の子孫がそのように言うのなら、そうなのだろうな」
そういって崇仁親王は、宍戸の前から移動する。
「君の活躍を祈っているよ、宍戸君」
去り際にそのようなことを言い、崇仁親王は別の華族の元へ去っていった。
「ふぅ、アレは本心なのか嫌味なのか……」
「嫌味だとしても、和一様のことを案じているのだと思いますよ」
「ホントかなぁ……」
こうして新年会は終了した。
その翌日、一月二日。
宍戸邸に林がやってきていた。
「三が日のお休み中失礼します。仕事の話です」
「とにかく上がってください」
そういってリビングへと案内し、お茶を出す。
「それで、仕事の話というのは?」
「はい。大晦日にナチス・ドイツにいる諜報員から連絡がありました」
「どうして大本営の下部組織が、諜報員の情報を掴んでいるんですか?」
「それによりますと、コンドル軍団の爆撃隊が今まさに爆撃をしようとしているそうです」
「無視か……」
「場所はスペイン北部とのことです」
「スペイン北部かぁ……。コンドル軍団って北アフリカに駐留しているんでしたっけ? よくそんな所まで飛んでいけますね」
そんな呑気なことを言っていると、宍戸はあることを思い出す。
「スペイン北部にコンドル軍団の爆撃……。ゲルニカ爆撃……?」
ゲルニカ爆撃。それはコンドル軍団による本格的な対都市無差別爆撃である。
これによって、ゲルニカの街は完全に崩壊するに至った。さらにこの爆撃により、かの有名な画家ピカソが、絵画の「ゲルニカ」を描いたというのは有名な話だ。
「ゲルニカ爆撃が現在行われるんですか?」
「おそらくそうです」
宍戸はスマホを取り出し、ゲルニカ爆撃について調べる。
「本来の発生日時は今年の四月二十六日……。だいぶ史実より早くなってるな……」
「仮にゲルニカが爆撃地点だとすると、そこは政府軍が保持している地域になりますので、戦略的には矛盾しませんね……」
「さて、世界情勢はどっちに転ぶか……」
宍戸の言う通り、コンドル軍団の爆撃ポイントはゲルニカであった。
わずか二十四機の爆撃機が飛来し、ゲルニカに計画的な空爆を行ったのである。
これによりゲルニカの街は大規模な火災に見舞われ、多数の死傷者を出す結果となった。
史実と異なるのは日時以外に、バスク地方の自治の象徴であるゲルニカの木が失われたことである。
この地方の象徴であった木が失われた事実は、スペインのみならず世界中で取り沙汰されることになった。
特にアメリカやイギリスの報道各社は、この事実を誇張気味に新聞やラジオで市民に伝える。市民は反戦感情が大きくなり、やがてそれは政府を動かす結果となった。
アメリカ、イギリス、フランスの三ヶ国は、ドイツに対し非難声明を発表。北アフリカから撤退するように要請した。
当然、ドイツはこれを聞き入れず、まるで日常のようにスペイン内戦に干渉していくのだった。
年も明けたため、宍戸は心機一転、日本の未来のためにより一層奮起しようと考えていた。
(それが、こうなるのか……)
午前十一時。宍戸は華族会館にいた。華族による新年会が開催されているのだ。当然華族である宍戸は、ここに召集された。
そして容量の少ないグラスを片手に、様々な華族の方と挨拶を交わしていた。
「宍戸伯爵、新年明けましておめでとうございます」
「おめでとうございます……」
宍戸は、貼り付けたような笑顔で挨拶する。しかし、相手が誰だか全く分からない。
そこですず江の出番である。
「金田侯爵、新年明けましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願いします」
男爵とはいえ、華族出身のすず江。宍戸と対応力が違う。
正月なので、和装での参加である。
「さすが、すずはちゃんとしてるなぁ……」
ある程度挨拶の波が引いたところで、宍戸はすず江に声をかける。
「和一様もこのようにならないといけないのですよ?」
「それは分かってるんだが……、いかんせん平民出身なもので……」
「言い訳は駄目ですよ。今日から練習していきましょうね」
「とほほ……」
そんなことを話していると、どこからともなく鋭い視線を宍戸は感じる。
「……なんかさっきからチラチラ見られてるような気がするんだけど?」
「それは君が転生者であるからだろう」
いつの間にか宍戸の後ろに、男性が立っていた。
「うぉっ……! あ、あなたは確か、三笠宮崇仁殿下……」
「お久しゅうございます、殿下」
「うむ。して、宍戸よ。君が視線を浴びるのは、君の出自が特殊であるからだ」
「特殊……。まぁ、確かに特殊ではありますね……」
「その特殊性と様々な感情が混ざりあって、君に降り注がれているのだよ」
「なるほど……。そういえば日本人って異質な人間を排除したがる傾向にあったような……」
「我が臣民たる大和民族がそのような傾向にあるのかね?」
「あ、いや、個人的な感想です……」
「ん、まぁいい。未来の子孫がそのように言うのなら、そうなのだろうな」
そういって崇仁親王は、宍戸の前から移動する。
「君の活躍を祈っているよ、宍戸君」
去り際にそのようなことを言い、崇仁親王は別の華族の元へ去っていった。
「ふぅ、アレは本心なのか嫌味なのか……」
「嫌味だとしても、和一様のことを案じているのだと思いますよ」
「ホントかなぁ……」
こうして新年会は終了した。
その翌日、一月二日。
宍戸邸に林がやってきていた。
「三が日のお休み中失礼します。仕事の話です」
「とにかく上がってください」
そういってリビングへと案内し、お茶を出す。
「それで、仕事の話というのは?」
「はい。大晦日にナチス・ドイツにいる諜報員から連絡がありました」
「どうして大本営の下部組織が、諜報員の情報を掴んでいるんですか?」
「それによりますと、コンドル軍団の爆撃隊が今まさに爆撃をしようとしているそうです」
「無視か……」
「場所はスペイン北部とのことです」
「スペイン北部かぁ……。コンドル軍団って北アフリカに駐留しているんでしたっけ? よくそんな所まで飛んでいけますね」
そんな呑気なことを言っていると、宍戸はあることを思い出す。
「スペイン北部にコンドル軍団の爆撃……。ゲルニカ爆撃……?」
ゲルニカ爆撃。それはコンドル軍団による本格的な対都市無差別爆撃である。
これによって、ゲルニカの街は完全に崩壊するに至った。さらにこの爆撃により、かの有名な画家ピカソが、絵画の「ゲルニカ」を描いたというのは有名な話だ。
「ゲルニカ爆撃が現在行われるんですか?」
「おそらくそうです」
宍戸はスマホを取り出し、ゲルニカ爆撃について調べる。
「本来の発生日時は今年の四月二十六日……。だいぶ史実より早くなってるな……」
「仮にゲルニカが爆撃地点だとすると、そこは政府軍が保持している地域になりますので、戦略的には矛盾しませんね……」
「さて、世界情勢はどっちに転ぶか……」
宍戸の言う通り、コンドル軍団の爆撃ポイントはゲルニカであった。
わずか二十四機の爆撃機が飛来し、ゲルニカに計画的な空爆を行ったのである。
これによりゲルニカの街は大規模な火災に見舞われ、多数の死傷者を出す結果となった。
史実と異なるのは日時以外に、バスク地方の自治の象徴であるゲルニカの木が失われたことである。
この地方の象徴であった木が失われた事実は、スペインのみならず世界中で取り沙汰されることになった。
特にアメリカやイギリスの報道各社は、この事実を誇張気味に新聞やラジオで市民に伝える。市民は反戦感情が大きくなり、やがてそれは政府を動かす結果となった。
アメリカ、イギリス、フランスの三ヶ国は、ドイツに対し非難声明を発表。北アフリカから撤退するように要請した。
当然、ドイツはこれを聞き入れず、まるで日常のようにスペイン内戦に干渉していくのだった。
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界で農業を -異世界編-
半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。
そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる