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第85話 南沙諸島海戦 前編
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一九三八年十月二十三日。フィリピン、スービック湾。
この湾にはアジア最大のアメリカ海軍基地、スービック海軍基地がある。
アメリカ海軍省から命令が下り、この基地にいる戦艦一隻、重巡洋艦二隻、軽巡洋艦六隻、駆逐艦十隻が、第一〇六任務部隊として編成された。
「主力をパールハーバーに置いといたのが仇になったな。これではしばらく戦力が削がれてしまう」
そんなことを言うのは、第一〇六任務部隊の司令官となったサクソン少将である。
「日本との戦争は予想されていたこと。それなのに、ロクな対策を講じなかったホワイトハウスは非難されて然るべきだ」
「しかし少将、ホワイトハウスは最後まで交渉を続けていたと報道にありますが……」
「そんなのは実績作りの方便だ。実際には大統領がゴリ押しで対日開戦を想定していたのだろう」
パイプで煙草を吸いながら、ホワイトハウスの動向を推察するサクソン少将。
そんな少将のもとに、通信員が電文を持ってくる。
「本国からの通信です。『マレー沖リアウ諸島周辺に、日本海軍の艦艇がいるとの情報を得た。第一〇六任務部隊は直ちに出撃し、これを撃破せよ』とのことです」
「リアウ諸島というと……」
「イギリス領マレーの近くですね」
「イギリスか……」
何か思うところがありそうな少将。
「おい。通信では『情報を得た』と言ったが、出どころは書いてあるか?」
「イギリスからだと言っています」
「イギリス……」
サクソン少将はパイプを置き、指を額に置く。
「ちょっと妙じゃないか?」
「と、言いますと?」
「ついこの間、イギリスは日本と不可侵条約を結んだ。イギリスと日本が戦争することはなくなったが、だからといって相手が不利になるようなことをするか?」
「イギリスの仮想敵国が日本ならば、そういうことがあってもおかしくないのでは?」
「そうかもしれねぇな。だがイギリスは、不可侵条約の他に植民地を放棄する条約にもサインしている。イギリスが不利な状況が既に完成しているんだ」
「ごく自然な動きだと思いますが……」
「自然な動きなら問題はねぇ。だが、俺の勘が怪しいと言ってるんだ」
そこにいた部下たちは、お互いに肩をすくめる。
「それはそれとして、上からの命令が来たんじゃ、動かざるを得ない。直ちに出撃準備にかかれ!」
「はっ!」
こうして第一〇六任務部隊は、出撃のため準備に追われる。それでも今は戦時中。最低限の用意で出港できるように、準備は進められていた。
サクソン少将が出撃命令を下してから約十二時間。全艦がスービック湾から出る。
「目的のリアウ諸島までは千海里以上。巡航速度で約三日です」
「道中に潜水艦が潜んでいるかもしれない。十分に警戒せよ」
「了解」
警戒を厳重にして、第一〇六任務部隊は進んでいく。
それからさらに三五時間が経過する。日付は一九三八年十月二十五日になっていた。
少し曇り空で、波も風も少々強い天気だ。場所は南シナ海、南沙諸島周辺である。
この日当直であった伍長が、水平線の向こうに違和感を感じ取った。
「何かいる……?」
伍長の勘違いかもしれないが、彼はこの違和感を見過ごさなかった。すぐに艦橋に連絡し、様子を見てもらう。
サクソン少将はすぐに指示を出す。搭載していたレーダーによる索敵、さらに水上偵察機による偵察も行う。
「レーダー索敵ですが、確かに何かあります。船団のようです」
「船団か……。方向は?」
「二四五です」
「偵察機をそちらに向かわせよう」
射出機によって射出された偵察機に、その情報が渡される。艦の上でしばらく旋回した後、渡された情報の方向へと飛んでいく。
十分もすれば、無線で情報がもたらされる。
『船団の正体は日本の大艦隊です! 戦艦が四隻! 繰り返す、戦艦四隻!』
この情報に、サクソン少将は腰が抜けそうになった。
「ジーザス……」
船団の正体は、帝国海軍第三艦隊である。
編成は、旗艦比叡、霧島、扶桑、日向、高雄、愛宕、名取、吹雪型駆逐艦八隻である。
戦艦や重巡洋艦が持つ打撃力と、一個水雷戦隊による一撃必殺の戦闘力を合わせ持つ、まさに敵艦隊を殲滅するための編成である。
「畜生、イギリスの野郎騙しやがったな!」
だんだんと怒りに震えあがるサクソン少将。思わず持っていたパイプを床に叩きつける。サクソン少将らは、まんまと偽の情報を掴まされていたのである。
一方で第三艦隊側は、第一〇六任務部隊のことを把握していた。この情報は、第三艦隊に編入されている潜水隊の伊号潜水艦数隻によってもたらされていた。
「さて、ここからが正念場だ」
第三艦隊司令長官の近藤中将が、気合を入れるように呟く。
「大和魂を見せてやろう」
南沙諸島海戦の幕開けである。
この湾にはアジア最大のアメリカ海軍基地、スービック海軍基地がある。
アメリカ海軍省から命令が下り、この基地にいる戦艦一隻、重巡洋艦二隻、軽巡洋艦六隻、駆逐艦十隻が、第一〇六任務部隊として編成された。
「主力をパールハーバーに置いといたのが仇になったな。これではしばらく戦力が削がれてしまう」
そんなことを言うのは、第一〇六任務部隊の司令官となったサクソン少将である。
「日本との戦争は予想されていたこと。それなのに、ロクな対策を講じなかったホワイトハウスは非難されて然るべきだ」
「しかし少将、ホワイトハウスは最後まで交渉を続けていたと報道にありますが……」
「そんなのは実績作りの方便だ。実際には大統領がゴリ押しで対日開戦を想定していたのだろう」
パイプで煙草を吸いながら、ホワイトハウスの動向を推察するサクソン少将。
そんな少将のもとに、通信員が電文を持ってくる。
「本国からの通信です。『マレー沖リアウ諸島周辺に、日本海軍の艦艇がいるとの情報を得た。第一〇六任務部隊は直ちに出撃し、これを撃破せよ』とのことです」
「リアウ諸島というと……」
「イギリス領マレーの近くですね」
「イギリスか……」
何か思うところがありそうな少将。
「おい。通信では『情報を得た』と言ったが、出どころは書いてあるか?」
「イギリスからだと言っています」
「イギリス……」
サクソン少将はパイプを置き、指を額に置く。
「ちょっと妙じゃないか?」
「と、言いますと?」
「ついこの間、イギリスは日本と不可侵条約を結んだ。イギリスと日本が戦争することはなくなったが、だからといって相手が不利になるようなことをするか?」
「イギリスの仮想敵国が日本ならば、そういうことがあってもおかしくないのでは?」
「そうかもしれねぇな。だがイギリスは、不可侵条約の他に植民地を放棄する条約にもサインしている。イギリスが不利な状況が既に完成しているんだ」
「ごく自然な動きだと思いますが……」
「自然な動きなら問題はねぇ。だが、俺の勘が怪しいと言ってるんだ」
そこにいた部下たちは、お互いに肩をすくめる。
「それはそれとして、上からの命令が来たんじゃ、動かざるを得ない。直ちに出撃準備にかかれ!」
「はっ!」
こうして第一〇六任務部隊は、出撃のため準備に追われる。それでも今は戦時中。最低限の用意で出港できるように、準備は進められていた。
サクソン少将が出撃命令を下してから約十二時間。全艦がスービック湾から出る。
「目的のリアウ諸島までは千海里以上。巡航速度で約三日です」
「道中に潜水艦が潜んでいるかもしれない。十分に警戒せよ」
「了解」
警戒を厳重にして、第一〇六任務部隊は進んでいく。
それからさらに三五時間が経過する。日付は一九三八年十月二十五日になっていた。
少し曇り空で、波も風も少々強い天気だ。場所は南シナ海、南沙諸島周辺である。
この日当直であった伍長が、水平線の向こうに違和感を感じ取った。
「何かいる……?」
伍長の勘違いかもしれないが、彼はこの違和感を見過ごさなかった。すぐに艦橋に連絡し、様子を見てもらう。
サクソン少将はすぐに指示を出す。搭載していたレーダーによる索敵、さらに水上偵察機による偵察も行う。
「レーダー索敵ですが、確かに何かあります。船団のようです」
「船団か……。方向は?」
「二四五です」
「偵察機をそちらに向かわせよう」
射出機によって射出された偵察機に、その情報が渡される。艦の上でしばらく旋回した後、渡された情報の方向へと飛んでいく。
十分もすれば、無線で情報がもたらされる。
『船団の正体は日本の大艦隊です! 戦艦が四隻! 繰り返す、戦艦四隻!』
この情報に、サクソン少将は腰が抜けそうになった。
「ジーザス……」
船団の正体は、帝国海軍第三艦隊である。
編成は、旗艦比叡、霧島、扶桑、日向、高雄、愛宕、名取、吹雪型駆逐艦八隻である。
戦艦や重巡洋艦が持つ打撃力と、一個水雷戦隊による一撃必殺の戦闘力を合わせ持つ、まさに敵艦隊を殲滅するための編成である。
「畜生、イギリスの野郎騙しやがったな!」
だんだんと怒りに震えあがるサクソン少将。思わず持っていたパイプを床に叩きつける。サクソン少将らは、まんまと偽の情報を掴まされていたのである。
一方で第三艦隊側は、第一〇六任務部隊のことを把握していた。この情報は、第三艦隊に編入されている潜水隊の伊号潜水艦数隻によってもたらされていた。
「さて、ここからが正念場だ」
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南沙諸島海戦の幕開けである。
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