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第87話 南沙諸島海戦 後編
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「魚雷が命中しました!」
「艦尾より浸水発生!」
「か、舵が効きません!」
艦内各所━━特に艦尾の方から被弾の報告が上がる。
サクソン少将はすぐに指示を出す。
「ダメコン急げ! 舵が効かないのは本当か!?」
「先ほどから舵の応答がありません!」
サクソン少将が艦橋の横の窓から外を見る。航跡を見ると、確かに進行方向から見て右に旋回しているようだ。
「操舵室はどうしてる!?」
「先ほどから呼びかけているのですが、応答がありません!」
「クソ……」
舵が固まってしまっては、格好の餌食だ。特に戦艦のため、大きな的になるだろう。
「……そうだ、機関室は生きてるか?」
「確認します」
士官が艦内電話の受話器を取り、機関室に問い合わせる。
「……負傷者あれど、問題なし!」
「ならばよし! 当て舵を行う!」
「当て舵ですか!? それは舵が効いていないと不可能です!」
「機関の出力調整で行う。右舷のスクリューを正回転、左舷のスクリューを逆回転させるんだ。潜水艦対策で、左右の回転数をわざとずらすだろう?」
「それはそうですが……。機関の出力で舵の代わりになるのでしょうか?」
「やってみないと分からん! とにかくやれ! でないと俺たちはジャップに殺されるぞ!」
「い、イエッサー!」
そういって機関科の下士官は、エンジン・テレグラフを操作する。右舷を前進に、左舷を後進に設定。それが機関室に伝わり、機関室で操作が行われる。
一分もしないうちにスクリューの回転操作が反映され、進路が少しずつ変化していく。
しかし、水に浮く乗り物というのはそう簡単に操縦が効くわけではない。地上にある車ならハンドルを切ればすぐに曲がることが可能だが、艦はそれよりも何十倍もの時間をかけてゆっくりと動く。摩擦で動く乗り物と、流体で動く乗り物の違いだろう。
つまり、出力変更の効果が出るまでは、戦艦はその場で旋回を続けるのだ。
その一部始終を、遠くから見ていた第三艦隊。
「どうやら、敵の戦艦に何かあったようだな」
「おおよそ舵の故障でしょう。艦尾に命中していたのを、水雷戦隊の見張り員が見ていたようです」
「そうか。敵艦隊までの距離は?」
「およそ一万です」
「よし。敵艦隊の前方五千まで接近する。第二戦速」
「第二戦速、舵中央、ヨーソロー」
第三艦隊の戦艦と重巡洋艦は、第一〇六任務部隊の真正面に進む。
一方で第一〇六任務部隊から見れば、自分たちのほうに第三艦隊がやってくるように見えるだろう。
「日本艦隊がこっちに来ます!」
「砲撃だ! 何としてでも砲弾を命中させろ!」
サクソン少将のいる戦艦は、第三艦隊に対して側面を向いていた。つまり、最大効率で攻撃をすることが可能である。各砲塔も、第三艦隊のほうを向いており、攻撃可能な状態だった。
『方位盤より艦橋! 目標の指示を乞う!』
「少将、目標はどれにしますか?」
「そんなのどうでもいい! 各砲塔、個別照準で各個撃破せよ!」
この時サクソン少将は、明らかに正気を失っていた。ただでさえ自分の乗る艦が操舵不能の状態に、冷静でいられなかったのだ。間違った命令を受け取った水兵たちは、それぞれの照準で第三艦隊に砲撃する。
その結果、砲塔ごとにバラツキが生じ、見当違いな場所に着弾してしまう。
「なんだ? あの砲撃は。まるでやる気が感じられんな」
「発砲炎から見るに、指揮系統がやられているようにも見えます。今が好機かと」
「そうだな」
そのようなことを言っている時だ。
「敵駆逐艦接近! 回頭しています!」
「魚雷攻撃か? 見張り員は目を凝らして航跡を探せ!」
数分後、見張り員の一人が叫ぶ!
「一時方向より魚雷接近! 距離三千!」
「機関両舷黒一〇。面舵五度」
比叡の艦長が冷静に指示を出す。これにより、容易に魚雷を回避できた。
「敵戦艦までの距離は?」
「およそ五千五百!」
「よし。全艦取り舵。全砲門を敵艦隊に向けろ」
複縦陣から、各艦が狙いやすいように左に回頭する。
そして敵戦艦に照準が定まった。
「諸元入力良し! 各砲塔射撃準備完了!」
「撃て」
「撃ち方始め!」
主砲から発砲炎が噴き出す。ほぼ水平に射撃された砲弾は、敵戦艦の周辺に着弾した。
すると、見張り員から新しい情報がもたらされる。
「敵駆逐艦と巡洋艦から砲撃来ます!」
比叡や霧島の周りに、小規模な水柱が発生する。しかし、仮に命中したところで、大したダメージは与えられないだろう。
その第一〇六任務部隊の駆逐艦や軽巡洋艦に、第三艦隊の水雷戦隊が砲撃戦を仕掛ける。
ついでに、比叡や霧島、扶桑、日向の副砲が駆逐艦たちを付け狙う。
ものの二時間程度で、第一〇六任務部隊は軽巡洋艦一隻と駆逐艦三隻以外が航行不能になっていた。
今回の海戦では、第三艦隊の圧倒的勝利と言っても過言ではないだろう。
しかし、近藤中将は険しい表情をしていた。
「勝って兜の緒を締めよ。これからの米海軍との戦闘も、我々が勝利せねばならん。油断は禁物だ」
こうして、第三艦隊はイギリス領マレーの防衛戦とも言える海戦に勝利した。
「艦尾より浸水発生!」
「か、舵が効きません!」
艦内各所━━特に艦尾の方から被弾の報告が上がる。
サクソン少将はすぐに指示を出す。
「ダメコン急げ! 舵が効かないのは本当か!?」
「先ほどから舵の応答がありません!」
サクソン少将が艦橋の横の窓から外を見る。航跡を見ると、確かに進行方向から見て右に旋回しているようだ。
「操舵室はどうしてる!?」
「先ほどから呼びかけているのですが、応答がありません!」
「クソ……」
舵が固まってしまっては、格好の餌食だ。特に戦艦のため、大きな的になるだろう。
「……そうだ、機関室は生きてるか?」
「確認します」
士官が艦内電話の受話器を取り、機関室に問い合わせる。
「……負傷者あれど、問題なし!」
「ならばよし! 当て舵を行う!」
「当て舵ですか!? それは舵が効いていないと不可能です!」
「機関の出力調整で行う。右舷のスクリューを正回転、左舷のスクリューを逆回転させるんだ。潜水艦対策で、左右の回転数をわざとずらすだろう?」
「それはそうですが……。機関の出力で舵の代わりになるのでしょうか?」
「やってみないと分からん! とにかくやれ! でないと俺たちはジャップに殺されるぞ!」
「い、イエッサー!」
そういって機関科の下士官は、エンジン・テレグラフを操作する。右舷を前進に、左舷を後進に設定。それが機関室に伝わり、機関室で操作が行われる。
一分もしないうちにスクリューの回転操作が反映され、進路が少しずつ変化していく。
しかし、水に浮く乗り物というのはそう簡単に操縦が効くわけではない。地上にある車ならハンドルを切ればすぐに曲がることが可能だが、艦はそれよりも何十倍もの時間をかけてゆっくりと動く。摩擦で動く乗り物と、流体で動く乗り物の違いだろう。
つまり、出力変更の効果が出るまでは、戦艦はその場で旋回を続けるのだ。
その一部始終を、遠くから見ていた第三艦隊。
「どうやら、敵の戦艦に何かあったようだな」
「おおよそ舵の故障でしょう。艦尾に命中していたのを、水雷戦隊の見張り員が見ていたようです」
「そうか。敵艦隊までの距離は?」
「およそ一万です」
「よし。敵艦隊の前方五千まで接近する。第二戦速」
「第二戦速、舵中央、ヨーソロー」
第三艦隊の戦艦と重巡洋艦は、第一〇六任務部隊の真正面に進む。
一方で第一〇六任務部隊から見れば、自分たちのほうに第三艦隊がやってくるように見えるだろう。
「日本艦隊がこっちに来ます!」
「砲撃だ! 何としてでも砲弾を命中させろ!」
サクソン少将のいる戦艦は、第三艦隊に対して側面を向いていた。つまり、最大効率で攻撃をすることが可能である。各砲塔も、第三艦隊のほうを向いており、攻撃可能な状態だった。
『方位盤より艦橋! 目標の指示を乞う!』
「少将、目標はどれにしますか?」
「そんなのどうでもいい! 各砲塔、個別照準で各個撃破せよ!」
この時サクソン少将は、明らかに正気を失っていた。ただでさえ自分の乗る艦が操舵不能の状態に、冷静でいられなかったのだ。間違った命令を受け取った水兵たちは、それぞれの照準で第三艦隊に砲撃する。
その結果、砲塔ごとにバラツキが生じ、見当違いな場所に着弾してしまう。
「なんだ? あの砲撃は。まるでやる気が感じられんな」
「発砲炎から見るに、指揮系統がやられているようにも見えます。今が好機かと」
「そうだな」
そのようなことを言っている時だ。
「敵駆逐艦接近! 回頭しています!」
「魚雷攻撃か? 見張り員は目を凝らして航跡を探せ!」
数分後、見張り員の一人が叫ぶ!
「一時方向より魚雷接近! 距離三千!」
「機関両舷黒一〇。面舵五度」
比叡の艦長が冷静に指示を出す。これにより、容易に魚雷を回避できた。
「敵戦艦までの距離は?」
「およそ五千五百!」
「よし。全艦取り舵。全砲門を敵艦隊に向けろ」
複縦陣から、各艦が狙いやすいように左に回頭する。
そして敵戦艦に照準が定まった。
「諸元入力良し! 各砲塔射撃準備完了!」
「撃て」
「撃ち方始め!」
主砲から発砲炎が噴き出す。ほぼ水平に射撃された砲弾は、敵戦艦の周辺に着弾した。
すると、見張り員から新しい情報がもたらされる。
「敵駆逐艦と巡洋艦から砲撃来ます!」
比叡や霧島の周りに、小規模な水柱が発生する。しかし、仮に命中したところで、大したダメージは与えられないだろう。
その第一〇六任務部隊の駆逐艦や軽巡洋艦に、第三艦隊の水雷戦隊が砲撃戦を仕掛ける。
ついでに、比叡や霧島、扶桑、日向の副砲が駆逐艦たちを付け狙う。
ものの二時間程度で、第一〇六任務部隊は軽巡洋艦一隻と駆逐艦三隻以外が航行不能になっていた。
今回の海戦では、第三艦隊の圧倒的勝利と言っても過言ではないだろう。
しかし、近藤中将は険しい表情をしていた。
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