転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第146話 事実上

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 一九三九年五月二十五日。
 ポーランドへ脱出することに成功したスサノオ連隊により、日本の大本営経由でヒトラーの死が報じられた。
 このニュースは瞬く間に世界中で報じられる。
 日本の宮城前の二重橋やその周辺、特に東京駅から宮城に繋がる通りは万歳を行う大勢の人々で溢れかえっていた。
 アメリカ、ニューヨークのタイムズスクエアでは紙吹雪の舞う中、軍人や民間人問わず、色んな人々が勝利に沸いた。
 イギリス、ロンドンでは、首相官邸前で多くの人々が歓声を上げる中、チャーチル首相が国民と喜びを分かち合っていた。
 そしてこの情報を使うため、最初に動いたのはイギリスだった。国内にある印刷所をフル稼働させて、とあるビラを量産した。
 それらを爆撃機に積み、すぐにドイツ上空へと運ぶ。当然、ドイツが占領しているフランス各地にもだ。
 爆撃隊が各都市に到着すると、爆弾倉からビラの入った筒を投下する。そして筒が開き、中に入っていたビラが宙を舞う。
 そこには、『ドイツ総統アドルフ・ヒトラー暗殺される! ドイツ兵よ、投降せよ』と書かれていた。
 もちろん、西部戦線にいた連合国軍は、この情報を拡散する作戦に切り替える。
『ドイツ兵諸君! 諸君らの総統であるアドルフ・ヒトラーは暗殺された! これ以上の戦争は無意味であるから、直ちに降伏せよ! もし降伏するならば、ハーグ陸戦条約に則り、丁重に保護する!』
 イギリスにあった拡声器をわざわざ持ってきて、ドイツ兵に降伏するように通達する。
 しかし、それで降伏する兵士はほとんどいない。いたとしても、戦車の犠牲にしかならないであろう一兵卒が中心であった。
 そんな兵士たちの降伏を許さないのは、前線の指揮監督を務めていた親衛隊である。
「貴様ら! 偽の情報に踊らされるな! 総統閣下はご存命で、今もベルリンの官邸から命令を下されていらっしゃる! もし降伏するならば、機関銃で貴様らの背中を撃つぞ!」
 親衛隊の幹部がそのような発言をするも、兵士たちは続々と降伏するか、前線から離れようとする。
「クソッ! 貴様らにはアーリア人としての誇りはないのかっ!?」
「てめぇらの方が人間としての尊厳を失ってんじゃねーよ! バーカ!」
 そういって親衛隊に向かって、反乱を起こす者も現れた。それを見た下士官や士官が、少しずつではあるが前線から逃亡していく。
 そしてそれは、前線全体に波及していった。
「どいつもこいつも、揃いも揃って馬鹿しかおらんのかっ!」
 そういって、親衛隊の下士官が機関銃をドイツ兵に向けようとした時だった。
 上空からレシプロ機のエンジン音が響き渡る。特徴的な複葉機が、横隊で飛行していた。
「ソードフィッシュ……」
 その直後には、投下された爆弾によって親衛隊の陣地が爆撃された。
『こちらアーク・ロイヤル第七飛行隊、奥地まで爆弾を届けた。燃料も心もとないため、今から帰投する』
『了解、アーク・ロイヤル第七飛行隊。これより先は我々の出番だ』
 そういって、ソードフィッシュと入れ替わってやってきたのは、八発のロケット弾を搭載出来るようにした戦時特殊改造型のスピットファイアである。
『降伏した敵兵は狙うな。我々の目標は、あくまで交戦意志のあるドイツ兵だけだ』
 そういって、こちらに弾丸を撃ってくるドイツ兵に対してロケット弾を発射する。ロケット弾は、ほぼ直線機動で敵の陣地へと吸い込まれていった。
『ヒュー! ただの爆弾投下はコツがあって難しかったが、こっちは機銃のように狙えていいぜ!』
『ギリギリまで狙っているのはいいが、そろそろ上からプレゼントが届く頃だ。回避するぞ』
 スピットファイアのさらに上。上空八千フィートには、爆弾を満載したイギリス空軍爆撃隊とアメリカ海軍爆撃隊がいた。
 彼らは狙いすましたように、次々と爆弾を投下していく。お届け先はもちろん、最後まで抵抗を続けるドイツ軍陣地である。
 ヒトラーの暗殺が公表されてから約三十時間。ベルリンから西に約六十キロメートルの所にあるブランデンブルクでは、政府関係者や高官が集結していた。
 そして一つの決定を下す。
「総統閣下の後任として、ドイツ国大統領にカール・デーニッツ元帥を任命する」
 戦時中という特殊な環境下であり、国家元首であるヒトラーがいなくなった今、政府関係者は特例としてカール・デーニッツ元帥をナチス・ドイツの大統領として任命した。
 任命されたカール・デーニッツ元帥が立ち上がる。
「挨拶は省略する。ドイツ国大統領として、ヴェルナー・ナウマン君をドイツ国首相に指名する。これより我々は、連合国に対して降伏する」
 こうして、ブライデンブルクにナウマン臨時内閣を組閣。同時にドイツ国臨時政府を樹立させた。
 この行動により、一九三九年五月二十七日をもって事実上ドイツは連合国に敗北したのである。
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