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12.弔事
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「泣き止んだ?」
ミリアさんの問いに、僕はこくりと頷いた。
ひとしきり泣いたら、陰鬱とした気分が少し晴れた気がした。
「目の下、少し腫れちゃったわね。待ってて。今氷をもらってくるわ。」
「…いえ、いいです。…それより、レオンさんって、まだ起きてますかね」
ミリアさんは「寝てたら叩き起こしていいわよ」と、僕の言いたいことを理解したかのように笑って、部屋の扉を開けた。
***
「レオンさん、起きてますか?」
軽く扉をノックして反応を伺うと、すぐに扉が開いた。
「アル……!」
「中で、話がしたいです。」
僕の言葉にレオンさんは戸惑いながらも頷いてくれた。
部屋に入って、テーブルを挟んで向かい合う。
緊張しているのか、レオンさんの瞳が不安そうに左右を彷徨っていた。
「…まず。さっきはおかしな態度をとってしまい、すみませんでした。」
「いや、俺こそ、その…、酷いことを言って、すまなかった。謝罪する」
申し訳なさそうな表情で頭を下げるレオンさんに僕は首を横に振って、口を開いた。
「………僕の『嘘』を見抜いたのは、レオンさん。貴方が初めてでした。」
「!」
ボソリと放った言葉に、レオンさんは目を見開いて固まってしまった。
彼は今まで誰も気付かなかった僕の作り笑いを、すぐに見抜いてしまった。
初めて見せたはずなのに。
「正直……、あんな状況でも笑みを浮かべる僕を見て、嫌われたんじゃないかって、おかしい奴だって思われたんじゃないかって、…怖く、なりました。」
いつか、自分が居場所を失ったときのように。
また繰り返してしまうのではないか、と。
そう考え出したら震えが止まらなくなって、自分の中の何かが壊れそうになった。
だから、この場に居てはいけないと、そう思って、僕は逃げ出した。
「…おかしいなんて、思わない。そして、…俺は絶対、アルを嫌わない。」
唇が震えて、声が出せない。
「俺はアルがどれだけ優しくて、強くて、少し意地っ張りだけど、それ以上に頑張り屋だってこと全部。…ちゃんと知ってる。
……だから俺は、アルをおかしいとは思はない。」
「うそ、言わないで下さい。」
「嘘じゃない。本当だ。」
レオンさんがテーブルを避けて、僕の方へと寄って来る。
「ぼく、は…」
違う。
僕はあなたが言うような綺麗な人間じゃない。むしろ穢れている方なんだ。
だから、ダメなんだ。
強くて、どこまでも真っ直ぐなレオンさんのような人に縋ってはいけないんだ。
頭ではそうわかっているのに、心はどうしても優しさを求める。
いつも剣を握っているだけあって、少しごつごつした暖かい手が僕の頭を撫でて、先程泣き止んだばかりというのに、その動作が、脆い涙腺を刺激する。
「俺はお前の、あの笑顔を見た時、おかしいとは思わなかった。
ただ無理をするなと、そう言いたかっただけだ。言葉足らずで、アルを傷付けて、悪かった。」
僕の目線の高さに合うようにレオンさんがしゃがむ。
彼の手が僕の頭を肩に引き寄せてそのまま逞しい腕に抱き締められた。
大きなレオンさんの体に、すっぽりと収まってしまうくらい小さい僕の体は、小刻みに震えていた。
「――…ありが、っ、と……――」
***
昨日、地下の部屋で巾着袋の中に集めた死体を持って宿を出る。
まだ夜が明けたばかりの空で照る太陽は、昨晩一睡もできなかった俺の目には少し痛く感じた。
「レオンさん!待って下さい。」
後ろから男にしては少し高めの声で、俺の名を呼びながら追いかけてくる足音に、歩みを止めて振り返る。
「僕も、手伝います。」
まるで俺が何をするかを知っていたかのようにその青年は、長い白銀の髪を風になびかせながら、柔らかく微笑んで俺の隣に立った。
ミリアさんの問いに、僕はこくりと頷いた。
ひとしきり泣いたら、陰鬱とした気分が少し晴れた気がした。
「目の下、少し腫れちゃったわね。待ってて。今氷をもらってくるわ。」
「…いえ、いいです。…それより、レオンさんって、まだ起きてますかね」
ミリアさんは「寝てたら叩き起こしていいわよ」と、僕の言いたいことを理解したかのように笑って、部屋の扉を開けた。
***
「レオンさん、起きてますか?」
軽く扉をノックして反応を伺うと、すぐに扉が開いた。
「アル……!」
「中で、話がしたいです。」
僕の言葉にレオンさんは戸惑いながらも頷いてくれた。
部屋に入って、テーブルを挟んで向かい合う。
緊張しているのか、レオンさんの瞳が不安そうに左右を彷徨っていた。
「…まず。さっきはおかしな態度をとってしまい、すみませんでした。」
「いや、俺こそ、その…、酷いことを言って、すまなかった。謝罪する」
申し訳なさそうな表情で頭を下げるレオンさんに僕は首を横に振って、口を開いた。
「………僕の『嘘』を見抜いたのは、レオンさん。貴方が初めてでした。」
「!」
ボソリと放った言葉に、レオンさんは目を見開いて固まってしまった。
彼は今まで誰も気付かなかった僕の作り笑いを、すぐに見抜いてしまった。
初めて見せたはずなのに。
「正直……、あんな状況でも笑みを浮かべる僕を見て、嫌われたんじゃないかって、おかしい奴だって思われたんじゃないかって、…怖く、なりました。」
いつか、自分が居場所を失ったときのように。
また繰り返してしまうのではないか、と。
そう考え出したら震えが止まらなくなって、自分の中の何かが壊れそうになった。
だから、この場に居てはいけないと、そう思って、僕は逃げ出した。
「…おかしいなんて、思わない。そして、…俺は絶対、アルを嫌わない。」
唇が震えて、声が出せない。
「俺はアルがどれだけ優しくて、強くて、少し意地っ張りだけど、それ以上に頑張り屋だってこと全部。…ちゃんと知ってる。
……だから俺は、アルをおかしいとは思はない。」
「うそ、言わないで下さい。」
「嘘じゃない。本当だ。」
レオンさんがテーブルを避けて、僕の方へと寄って来る。
「ぼく、は…」
違う。
僕はあなたが言うような綺麗な人間じゃない。むしろ穢れている方なんだ。
だから、ダメなんだ。
強くて、どこまでも真っ直ぐなレオンさんのような人に縋ってはいけないんだ。
頭ではそうわかっているのに、心はどうしても優しさを求める。
いつも剣を握っているだけあって、少しごつごつした暖かい手が僕の頭を撫でて、先程泣き止んだばかりというのに、その動作が、脆い涙腺を刺激する。
「俺はお前の、あの笑顔を見た時、おかしいとは思わなかった。
ただ無理をするなと、そう言いたかっただけだ。言葉足らずで、アルを傷付けて、悪かった。」
僕の目線の高さに合うようにレオンさんがしゃがむ。
彼の手が僕の頭を肩に引き寄せてそのまま逞しい腕に抱き締められた。
大きなレオンさんの体に、すっぽりと収まってしまうくらい小さい僕の体は、小刻みに震えていた。
「――…ありが、っ、と……――」
***
昨日、地下の部屋で巾着袋の中に集めた死体を持って宿を出る。
まだ夜が明けたばかりの空で照る太陽は、昨晩一睡もできなかった俺の目には少し痛く感じた。
「レオンさん!待って下さい。」
後ろから男にしては少し高めの声で、俺の名を呼びながら追いかけてくる足音に、歩みを止めて振り返る。
「僕も、手伝います。」
まるで俺が何をするかを知っていたかのようにその青年は、長い白銀の髪を風になびかせながら、柔らかく微笑んで俺の隣に立った。
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―――
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