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15.冥冥
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シクリーの街を出てから海の上を船で移動した僕等は、三日かけて次の街へと辿り着いた。
‘カヴァルツ王国王都『ヨルネ』‘
港を出てすぐのところにあった街の看板に書かれていた地名に、リヒトがあっ、と声を上げた。
「ここ、シーク兄ちゃんの故郷だよ。兄ちゃんが言ってた。」
「吸血鬼の故郷って、……案外普通なもんだな。」
ファルコンさんは昼間の賑わう街を見て肩をすくめて笑った。
「兄ちゃんは、随分前に住んでたって言ってたぜ。なくなっちゃった本当の家族と一緒に、って。」
リヒトの言葉にふとシークさんの言っていたことを思い出した。
『…数百年前は人間として生きてたんだ。家族もいた。
でも、ある日突然、家に国の『魔導士』が来て、家族全員殺された。』
この国の魔導士が、どうしてシークさんの家族や、彼自身をも殺したのだろう…。
「アルー、なんか難しそうな顔してるけど、考え事?」
「あ、いえ。なんでもないです。」
「そう?
じゃあさじゃあさ、あそこの店覗いてみようぜ?
オレさっきからずっと気になってたんだよ。」
「え、ちょっ、リヒト!?」
言うや否やリヒトは僕の手をぎゅっと握り、そのままほぼ強引に街の賑わう人混みの中を走り抜け、ある一つの店の前で立ち止まった。
他の店とは違い、人は集まっておらず看板も何もない。
ただあるのは異様な存在感と紫色の幕のようなものだけ。
いかにも怪しげな雰囲気が漂う店の前で、さすがに入るのはやめておいた方がいいとリヒトを止める。
「えぇー、いいじゃん。少しだけ、な?覗くだけでいいからさ。」
「ダメです。皆さんも心配しているでしょうし、ほら、早く戻りますよ。」
なおも食い下がるリヒトに僕は断固としてダメだ、と言い続ける。
次第にそれはヒートアップしていき、ぞろぞろと人の目が集まってきた。
「何あれ、姉弟?」「え、ウソ」「エルフの姉ちゃんかー、俺も欲しいー」
「うわ、あの怒ってる姉さん超美人じゃん。可愛いー」
誰が姉弟だ、誰が。それに可愛いってなんだ。
なんだか男としての自分全部が否定された気がする…。
「ほら、リヒト。いつまでもぐずっていないで、戻りますよ。…代わりに何か美味しい物を買いに行きましょう。今日の夕飯は、リヒトの好きなものでいいですよ。」
「!…わかった。アルがそんなに言うなら、我慢するよ。じゃ、はやく帰ろーぜ?」
「よし、いい子ですねリヒト。」
アルに褒められたー!と言って嬉しそうに笑うリヒトに、僕は笑いかけてその頭を撫でやった。
「アルってさ、ホントに姉ちゃんみたい。」
「あなたまで僕を女性扱いする気ですか?…さすがに怒りますよ。」
「そういう意味じゃなくてさ。褒めてくれたり、飯作ってくれたり、…オレ、家族のことはあんま覚えてないけど、なんかアルと居ると"あったかい"っていう気持ちが分かるっていうか、感じられるんだよ。」
「あったかい、ですか?」
「おう。あったかい。」
「…ありがとう、ございます。」
「っ、かわ、尊い……!」
本当に嬉しくて満面の笑みを浮かべると、カチっ、と音がするようにリヒトが固まってブツブツとよくわからないことを呟き、周りにいた数人の人々もなぜかバタバタと倒れてしまった。
なぜだろう。
‘カヴァルツ王国王都『ヨルネ』‘
港を出てすぐのところにあった街の看板に書かれていた地名に、リヒトがあっ、と声を上げた。
「ここ、シーク兄ちゃんの故郷だよ。兄ちゃんが言ってた。」
「吸血鬼の故郷って、……案外普通なもんだな。」
ファルコンさんは昼間の賑わう街を見て肩をすくめて笑った。
「兄ちゃんは、随分前に住んでたって言ってたぜ。なくなっちゃった本当の家族と一緒に、って。」
リヒトの言葉にふとシークさんの言っていたことを思い出した。
『…数百年前は人間として生きてたんだ。家族もいた。
でも、ある日突然、家に国の『魔導士』が来て、家族全員殺された。』
この国の魔導士が、どうしてシークさんの家族や、彼自身をも殺したのだろう…。
「アルー、なんか難しそうな顔してるけど、考え事?」
「あ、いえ。なんでもないです。」
「そう?
じゃあさじゃあさ、あそこの店覗いてみようぜ?
オレさっきからずっと気になってたんだよ。」
「え、ちょっ、リヒト!?」
言うや否やリヒトは僕の手をぎゅっと握り、そのままほぼ強引に街の賑わう人混みの中を走り抜け、ある一つの店の前で立ち止まった。
他の店とは違い、人は集まっておらず看板も何もない。
ただあるのは異様な存在感と紫色の幕のようなものだけ。
いかにも怪しげな雰囲気が漂う店の前で、さすがに入るのはやめておいた方がいいとリヒトを止める。
「えぇー、いいじゃん。少しだけ、な?覗くだけでいいからさ。」
「ダメです。皆さんも心配しているでしょうし、ほら、早く戻りますよ。」
なおも食い下がるリヒトに僕は断固としてダメだ、と言い続ける。
次第にそれはヒートアップしていき、ぞろぞろと人の目が集まってきた。
「何あれ、姉弟?」「え、ウソ」「エルフの姉ちゃんかー、俺も欲しいー」
「うわ、あの怒ってる姉さん超美人じゃん。可愛いー」
誰が姉弟だ、誰が。それに可愛いってなんだ。
なんだか男としての自分全部が否定された気がする…。
「ほら、リヒト。いつまでもぐずっていないで、戻りますよ。…代わりに何か美味しい物を買いに行きましょう。今日の夕飯は、リヒトの好きなものでいいですよ。」
「!…わかった。アルがそんなに言うなら、我慢するよ。じゃ、はやく帰ろーぜ?」
「よし、いい子ですねリヒト。」
アルに褒められたー!と言って嬉しそうに笑うリヒトに、僕は笑いかけてその頭を撫でやった。
「アルってさ、ホントに姉ちゃんみたい。」
「あなたまで僕を女性扱いする気ですか?…さすがに怒りますよ。」
「そういう意味じゃなくてさ。褒めてくれたり、飯作ってくれたり、…オレ、家族のことはあんま覚えてないけど、なんかアルと居ると"あったかい"っていう気持ちが分かるっていうか、感じられるんだよ。」
「あったかい、ですか?」
「おう。あったかい。」
「…ありがとう、ございます。」
「っ、かわ、尊い……!」
本当に嬉しくて満面の笑みを浮かべると、カチっ、と音がするようにリヒトが固まってブツブツとよくわからないことを呟き、周りにいた数人の人々もなぜかバタバタと倒れてしまった。
なぜだろう。
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