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C.1 ANEW

第一話 白色と黒色

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  (かぁ)
     (かぁ)


気づくと耳元で、大きな音が聞こえてきた。
それは甲高い何かの声にも感じられるのであった。
私はその声で、目を覚ました。

そして私は、生まれて初めて現を見ることとなった。

見えてきたのは、すべてが白い部屋。
私が横になっているベットやカーテン、壁やソファーに、花瓶も花も
すべてが白色で統一されていた。

私は、ゆっくりと体を起こした。
すると誰かが私の手元に触れた。

その触れる何かを見つめると、この部屋には似つかわしくない肌色である私の手とそれに乗る、真っ黒な生き物であった。

(あったかい)
その生き物はこちらを見つめ返していた。
もふもふの毛が手のひらを撫でている。
私も名で返そうと、もう片方の手を近づけると、その生き物は羽ばたき、窓の外へと逃げて行った。
「あっ!」
そんな声をあげながら飛び去るその生き物を追いかけようと、体を前へと乗り出した。

私は、ベットの上に両手を突いて黒い生き物を掴もうと前へ前へと進んでいく。
すると腕から肩にかけて、ガクッと力が抜ける。
その瞬間に、体は床へ落ち、上半身を強く叩きつけられた。
「うっ」
反射的に声を出すと、周りを見渡す。
何が起こったのかわからないし、どこに落ちたのかを理解したかった。

先ほど見ていた景色より低い場所から見た、部屋の風景。
先ほどまで横になっていたベットが私の頭より上にあった。

ベットから落ちたのだ。
私は四つん這いになりながら、この部屋のものを見つめていく。

白いソファ
ひんやり、ふわふわ


かたい冷たい。

ライト
まぶしい


そうやって、周りのものに触れて、感触を確かめる。

そこで疑問が生まれた。私はどうして初めて見たものの名前や使い方がわかるのだろうか?
私は、いったい誰なのだろうか?
さっき目覚めるまで、私の記憶も存在も知らない。
目覚めた瞬間、すべてを理解したかのように……


私は一体?

そう疑問に思いながら、自分の両手で体中を触れる。

やわらかい
温かい
形は女性

髪の毛は短い
私は、この体に見覚えはなかった。
(がちゃ)
背後から物音がした。
次に、コツコツと何かが歩いてこちらに向かう音がした。


急に寒気がした。
さっきの生き物でもここにある家具でもなんでもない音。

怖い
振り向くのが怖い
私は、近くにあったテーブルを伝って、二本足で立とうとした。
二足歩行のほうが早いとわかっていたからだ。
両腕と両足、腹筋やらなんやらを使って。
地面に立とうと必死になる。

なかなかうまくいかない。
私は、近づいてくる何かに恐怖しながらも確実に立てる方法を考え、行動していく。

そんな時、背後から近づいた何かは、私の両脇に腕を通して持ち上げた。
「すぐには立てないさ……地道に立ち上がる……それが自然なんだ」
何かがそう言ってきた。
私は、恐怖の対象だったその何かがそこまで怖くないものだと、理解した。

振り返り、その何かを見ようとした。
そこにいたのは、緑色の眼をした私と同じ姿の……
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