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妹を傷付けた悪女の私は、罪滅ぼしの為に生きていましたが…それも漸く終わりを迎えました。

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『痛い…!お姉様のせいで…!』

『お前は、何て事を─!』

『ごめんなさい…許して─!』

 私は、そこで目を覚ました。

 またあの時の夢…。

 魔物に襲われた妹、それを助けられなかった私。

 私があんなもの召喚しなければ…檻の鍵を開けなければ、今頃こんな事には─。

※※※

「お姉様、早く食事の支度をして!」

「妹を殺そうとした悪女を婚約者にしてやってるんだ、ちゃんと働け!」

「そうよ、私から美しさを奪った悪女が!」

 妹を殺そうとして失敗し、美しさを奪った悪女。

 私はそう呼ばれ、ここまで生きて来た。

 だから…その妹や、自身の婚約者にすら、こんな扱いを受けても仕方ない。
 
 これが私が妹に出来る、せめてもの償いだ─。

※※※

 その日私は、妹の顔の傷痕に効く薬草を採りに、森へ出ていた。

「私のせいで、あんな傷を残してしまって…。もういっそ、この命をもって償おうか─。」

 その時だ─。

「君の妹があんな事になったのは…君のせいではない。」

 振り返ると、そこにはローブを纏った男が立っていた。

 そのローブ…もしかして─。

「…一体、どういう事でしょう?」

「君の記憶は書き換えられたもの…。もう、苦しむ必要は無い─。」

 そして彼の持つ杖が、私の額に当てられた時…私は、全てを思い出した─。

※※※

「あの女、今頃はせっせと薬草を摘んでるわね。」
 
「やってもいない罪に、心を痛めてな。」

 そう…お姉様は、何の罪も犯していない。

 そもそも、あれを召喚したのは彼。
 
 あの日彼がいたずらに召喚呪文を唱えたら、偶然にも魔物が召喚されてしまった。
 
 その時は、何とか捕え檻に入れる事に成功したけど…でも私、どうしても魔物を近くで見たくなって…それで、檻の鍵を開けてしまったのだ。

 近くに居たお姉様は必死で止めたけど、彼がお姉様を取り押さえている隙にね。

 そしたら、魔物は私に襲い掛かって来て…騒ぎを聞き駆けつけた両親が私を助け…お姉様が鍵を開けたと思ってしまった。

 すると私と彼は、それを良い事に…放心状態のお姉様に対し、魔法で記憶を書き換えた。

 魔物を召喚したのも、檻の鍵を開けたのも全部あなた…あなたのせいで、私は傷を負ったんだって。
 それからあの人は、ずっとそれを信じ…私の奴隷のような存在になったのだ。
 
 でもあの後…その魔物ってどうなったのかしら?
 お姉様の事で手一杯で、あの時逃げ出した魔物は─。

「でもそのおかげで、私はこうしてあなたと居られるのよね。私はあなたの事が大好きなのに…家同士の約束で婚約者になれなくて、凄く悲しかったのよ?」

「そう言うな、俺が好きなのはお前だけだから。俺たちは、愛以上のもので結ばれた二人…どこまでも一緒だ。」

「そうね。だから…罪を償う時も一緒よ。」

※※※

「お、お姉様…帰ってたの!?」

「よくも、私に罪を着せてくれたわね。」

「な、何言ってるの、お姉様!」

「そうだ、この悪人が!」

「それは、お前たちじゃないか。俺は城に仕える魔術師。そしてあの時、逃げ出した魔物を捕えた者だ。あんなものをいたずらに呼び出し、国を荒した犯罪者に裁きを与えよと、王より命を受けた。漸く、その犯人を見つける事が出来たよ。」

「だから、それはお姉様が─」

「あなたたちがかけた魔法は、彼に解いて貰ったわ。言ったでしょう?全てを、思い出したって。」

 私が話し終わると、彼が呪文を唱え始めた。

「お前たちのような悪人は、魔界へ送ってやる。そこには、恐ろしい魔物が何匹でも居る。お前たちは、格好の獲物だ。」

「…そこで、自分たちのした事を悔い改めるのね。」

「そんなの嫌…許して!」

「た、助けてくれ─!」

 叫び声と共に、二人の姿は光に包まれ消えて行った─。

※※※

 あれから幾日か過ぎ…私の心も、次第に落ち着いてきた。

 そして、私はある事を決心した。

 私は、今日をもって自分の家を出る事にする。

 あの出来事から、両親との仲もギクシャクしてたし…あの二人の事もあったしね─。

「俺が、もっと早くこの地に来ていればな…。」

 彼は口は少々悪いが、中々に優しい人だ。
 少しの付き合いだけど、それはもう分かっている。

「…いいえ。あなたのおかげで私の無実が明らかとなり、名誉は守られたのです。だから…もういいんです。」

「…これから、君はどうするんだ?」

「分かりません。でも…自分の人生を、一からスタートさせたいと思ってます。」

「俺は…この先、君を一人にはしたくない。だから…一緒に来てくれないか?」

「あなたと…?」

 彼が差し出した手を、私はじっと見た。

 この手は、間違いなく私を救ってくれた方の手だ。

 今までの私には、こんなふうに手を差し伸べてくれる人は、誰一人として居なかった。
 実の、両親でさえも─。

 私の心は決まった。

 私は彼の手を握ると、一歩足を踏み出し…そして、もう振り返る事は無かった─。
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