癒され怪談。SS集

coco

文字の大きさ
上 下
8 / 24

舞姫

しおりを挟む
 Bさんが体験したお話です。

 Bさんはある晩、桜並木の中を一人で歩いていました。
 この通りは昼間は桜を見物する通行人で賑わいますが、夜は住宅地から離れているためか、あまり人の往来はありません。
 しかもその日は風が冷たく肌寒い日だったので、Bさんはほとんど人と出会うことなく、その通りを進んで行きました。

 桜の花びらが風でひらひらと舞い落ち、それが月の光に照らせれて薄く光を放っています。
 Bさんは途中にあったベンチに座り、その光景を一人ぼんやりと眺めました。
 するとどこからふいに、音楽が聞こえてきました。
 
 こんな時間にお祭り何てやっているのか? 
 でもお囃子というのとは、ちょっと違うものだな。
 もっとルビかで、しょう琵琶びわや縦笛を用いた…雅楽がらくのようだ。
 
 Fさんが周りを見回すと、ある桜の木の下にぼんやりと光を放つ一団が見えました。
 それは楽器を弾いている何人かの男の人たちと、その中心で踊る一人の女の人でした。
 女の人は烏帽子をかぶり、白装束に袴をはき、手には扇のようなものを持ちひらひらと舞っています。
 それは不思議というよりは、神々しく美しいものだったとFさんは言います。
 Fさんはしばらくそれをうっとりと見ていましたが、月が雲に隠れたと同時にその一団の姿は消えてしまったそうです。
 
 月光が見せた幻か、あるいは桜が見せた幻か、どちらかは分からないが、素敵なものが見れたとFさんは喜んでいました。
 
  
しおりを挟む

処理中です...