癒され怪談。SS集

coco

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温める

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 Jさんから聞いた話です。
 
 Jさんの日課にっかは、朝早く起きて仏壇ぶつだんにお経をあげることです。

 仏壇の前には一枚の座布団ざぶとんがひいてあり、Jさんはいつもそこに座ってお経をあげます。 

 この座布団、夏場は特に何も感じないのですが、冬場は座るとひんやりと冷たく感じ、Jさんは座るたびに震えていました。

※※※

 ある日のことです。
 
 いつものようにJさんがお経をあげに仏間に行くと、座布団の上に飼い猫が座っていました。
 Jさんは猫に一声かけどいてもらい、そこに座りました。
 
 するといつもはひんやりと冷たい座布団が、猫の体温で温まっていました。

「ああ、お前が座っていてくれたから、温かいな。ありがとう。」

 Jさんは嬉しくて、猫にそうお礼を言いました。

 それを聞いた猫は一声鳴くと、仏間を後にしました。

 それ以降冬になると、飼い猫はJさんよりも早く起き、座布団に座り温めてくれるようになったそうです。

※※※

 今年も、冬がやってきました。

 Jさんはいつものように朝早く起き、お経を上げる為に仏間へとやってきました。

 そして、あの座布団に座りました。

「あれ、温かい…?」
 
 Jさんは、座布団がほんのりと温かいことに驚きました。

 どうして、温かいんだ…冬の朝の座布団は、ひんやり冷たいのに、なぜ?
 あの子はもう、居ないというのに…。

 そう…Jさんの飼い猫は、この冬が来る前に、事故で亡くなっていたのです。

※※※

 お前が居ないから、今年の冬は座布団が冷たくなる、そう思っていたのに…。
 お前はまだここに居て、変らず座布団を温めてくれているんだね。

 Jさんは、飼い猫の自分を想う気持ちに感謝し、涙を流したそうです-。
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