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<前編>

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 身体があまり丈夫でない、家にこもりがちな私。
 
 そんな私も年ごろになり、婚約者ができた。
 亡き両親と仲の良かった親戚からの勧めで断る事もできず、そのまま話が進み今にいたるのだが…。

「お前みたいな貧弱ひんじゃくな女より、姉の方が良かった…今からでも相手を変える事は出来ないのか!?」

 婚約者自身は私の事を気に入っておらず、姉の居ない所でこうして私を責めてくる。
 いつものように一通り文句を言うと、婚約者は部屋を出て行った。

 うなだれる私を、従者はなぐさめてくれた。

「いつか彼も、あなたの良い所に気付いてくれます。」

「…えぇ。」

「どうしたの、体が苦しいの!?」

 彼と入れ替わりに部屋に入って来た姉が、落ち込む私に駆け寄って来た。

「…もしかして、あの人に何か言われてるの?やぱりこんな婚約は破棄しましょう。叔父様たちには悪いけど、私が上手く言ってあげるから。」

 …いつも優しいお姉様、私の自慢じまんのお姉様─。

「大丈夫、彼と上手くやってみせるから…早く元気になって、彼とここ出て行くわ。私、お姉様の負担ふたんになるのはもう嫌なの。」

「出て行く…?駄目よ、そんなの絶対駄目!…心配なのよ、あなたが。私の事はいいからここに居なさい!」

 お姉様、何だか必死だけど…そんなに姉妹が離れる事が嫌なのね─。

※※※

 ある夜目が覚めた私は、のどの渇きを感じ部屋を出た。

 すると姉の部屋から灯りがうっすられ、何やら話し声が聞こえる。

「俺と婚約してくれ、俺のものになってくれ!」

「そんなの困るわ…!」

「いいのか、そんな事を言って。」

「あ、あなた、どうしてこれを!?」

「この家に来てからずっと君を見ていた…そしたら、これを見つけてしまってね。もしかして、あいつの身体が悪いのは─」

「それを返して!」

「…分かったよ。でも、俺との事をよく考えてくれよ?また来るから。」

 ドアの隙間から中を見ていた私は、咄嗟とっさに物陰にかくれた。

 あの白い粉…お姉様が持って来てくれる、気分を落ち着かせる薬に似ていた。
 でも彼の言い方からして、実はそうじゃない…?
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