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婚約破棄され幽閉となった私の祈りは…やがて自身にも、幸せを運んで来てくれたようです。
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ある日私の婚約者が、一人の美女を家に連れて来た。
「彼女が、俺の本命の女だ。お前と婚約する前から、ずっと付き合ってる。だから…俺と婚約破棄してくれ。」
「私は、この屋敷に必要だと言われやって来たんです…出て行く事は─」
「いや…お前には、ここに残って貰う。」
「え…?」
私は彼に連れられ、地下室へとやって来た。
「今日からお前は、ここで暮らすんだ。必要な物は揃っているから…お前はただそこで、静かに祈っていればいい。」
「祈る…?」
「この領地の平和をだ。お前は、その為にこの家に来たんじゃないか。ここに居る以上はこれまでと変わらず、やる事をやって貰うぞ。」
そして、扉は閉められた─。
※※※
確かに彼の言った通り、ここには必要な物は全て揃っている。
だから、暮らす上で特に不自由は無かった。
食事だって、毎日使用人が届けてくれるし…。
でも…やるせなさは募る一方だった。
本当なら、今頃は彼と結婚式を挙げていたのに…。
婚約破棄された上に、こんな地下室に幽閉されてしまうとは─。
でも私はここで、ひたすら祈りを捧げていた。
私の家は代々、この地を守る巫女だった。
あの家に生まれた娘は領主に嫁ぎ、こうして祈りを捧げる役目を負う。
だから…いくら辛くても、勝手に祈るのを辞める訳にはいかない─。
その時…突然扉が開き、誰かが入って来た。
「君が、この地の巫女だな?」
「は、はい…。」
彼は、一体誰だろう…?
地下は薄暗く、男の正体は分からない。
「俺と、ここを出よう。」
「そ、それは無理です!私が勝手に祈るのを辞めここを出たら、この地は滅茶苦茶に─」
「それは大丈夫だ。というより…君がここで祈っていても、この地に平和は訪れない。そこを出て、これを見てくれないか?」
私は迷った末に、彼の言う通り地下室を出て…扉の外側を見た。
「…これは!」
※※※
「地下室の鍵を知らないか?」
「いつもそこに置いて…あれ、無いわね。」
心配になった俺は、急いで地下に向かった。
やはり、鍵が開いている。
中を覗けば、案の定そこには誰も居なかった。
あいつ…逃げたな!
「早く来て、あの女が見つかったわ!それから…新しく雇った男が、あなたを呼んでいて…あなたは、もう領主じゃないって言うのよ─!」
「な、何!?」
俺は、すぐさま地下室を後にした─。
するとそこには、逃げたあの女と…最近雇った使用人の男が、揃って俺を待ち構えていた。
「王の命で、この地の異変と領主であるお前の身辺を探らせて貰ったよ。お前は巫女を地下に閉じ込め、祈りを捧げるよう命じた。でも、それはこの地の平和の為でなく…自分の愛人の為だったんだ。」
「ち、違う…この女が、勝手に地下に引きこもっていただけだ!」
「そうよ、私たちの仲に嫉妬して…それで地下室に─」
「嘘を言わないで!あの地下室に掛けられた術を、私はこの目で確認しましたから。」
「だ、黙っていろ!」
「いいえ、黙りません!あそこで私が祈る事で得た力は、全てこの女に作用するよう扉に転送の術がかけられていた。そのせいで、あなたの恋人の美に磨きがかかる一方…この地は、どんどん貧しくなってしまっていた。」
「そんな事をする者が領主では、領民が憐れでならない。王の命により、新しい領主は俺が務める事になった。お前はもう領主失格だ…大人しくその座を退き、罰を受けるんだ。それから…恋人である君も一緒にね。」
「…何もかも、上手く行ってたと思ったのに─!」
「私まで罰を受けなきゃいけないの!?そんなの嫌よ─!」
※※※
あれから二人は牢へと入れられ…厳しい拷問を受けた末に、この地から永久追放となった。
そして彼が新しい領主になると同時に、私の地下室での暮らしは終わり…あの地下室への入り口は、永久に閉ざされる事となった。
あんな術がかけられた忌々しい場所、もう二度と足を踏み入れる事の無いよう、封印の術を施したのだ。
「助けて下さって、本当にありがとうございました。私の祈りは、全てこの地の為のもの…誰か一人だけに与えられるものではありませんから。」
彼は頷き…そして私を見て、こう言った。
「確かに、君の巫女としての力はこの地の…そして民のものだ。でも…一人の女性としての心は、俺に向けてくれないだろうか?」
「…!勿論です、愛しい領主様─。」
巫女は、領主様と結婚するのは昔からの決まり事だ。
だけど私はあの地下暮らしの中で、自分自身を必要とされ…愛されたいと思うようになって居た。
それが、漸く叶うのね…。
私はこれからの幸せな暮らしを思い、期待に胸を膨らませた─。
「彼女が、俺の本命の女だ。お前と婚約する前から、ずっと付き合ってる。だから…俺と婚約破棄してくれ。」
「私は、この屋敷に必要だと言われやって来たんです…出て行く事は─」
「いや…お前には、ここに残って貰う。」
「え…?」
私は彼に連れられ、地下室へとやって来た。
「今日からお前は、ここで暮らすんだ。必要な物は揃っているから…お前はただそこで、静かに祈っていればいい。」
「祈る…?」
「この領地の平和をだ。お前は、その為にこの家に来たんじゃないか。ここに居る以上はこれまでと変わらず、やる事をやって貰うぞ。」
そして、扉は閉められた─。
※※※
確かに彼の言った通り、ここには必要な物は全て揃っている。
だから、暮らす上で特に不自由は無かった。
食事だって、毎日使用人が届けてくれるし…。
でも…やるせなさは募る一方だった。
本当なら、今頃は彼と結婚式を挙げていたのに…。
婚約破棄された上に、こんな地下室に幽閉されてしまうとは─。
でも私はここで、ひたすら祈りを捧げていた。
私の家は代々、この地を守る巫女だった。
あの家に生まれた娘は領主に嫁ぎ、こうして祈りを捧げる役目を負う。
だから…いくら辛くても、勝手に祈るのを辞める訳にはいかない─。
その時…突然扉が開き、誰かが入って来た。
「君が、この地の巫女だな?」
「は、はい…。」
彼は、一体誰だろう…?
地下は薄暗く、男の正体は分からない。
「俺と、ここを出よう。」
「そ、それは無理です!私が勝手に祈るのを辞めここを出たら、この地は滅茶苦茶に─」
「それは大丈夫だ。というより…君がここで祈っていても、この地に平和は訪れない。そこを出て、これを見てくれないか?」
私は迷った末に、彼の言う通り地下室を出て…扉の外側を見た。
「…これは!」
※※※
「地下室の鍵を知らないか?」
「いつもそこに置いて…あれ、無いわね。」
心配になった俺は、急いで地下に向かった。
やはり、鍵が開いている。
中を覗けば、案の定そこには誰も居なかった。
あいつ…逃げたな!
「早く来て、あの女が見つかったわ!それから…新しく雇った男が、あなたを呼んでいて…あなたは、もう領主じゃないって言うのよ─!」
「な、何!?」
俺は、すぐさま地下室を後にした─。
するとそこには、逃げたあの女と…最近雇った使用人の男が、揃って俺を待ち構えていた。
「王の命で、この地の異変と領主であるお前の身辺を探らせて貰ったよ。お前は巫女を地下に閉じ込め、祈りを捧げるよう命じた。でも、それはこの地の平和の為でなく…自分の愛人の為だったんだ。」
「ち、違う…この女が、勝手に地下に引きこもっていただけだ!」
「そうよ、私たちの仲に嫉妬して…それで地下室に─」
「嘘を言わないで!あの地下室に掛けられた術を、私はこの目で確認しましたから。」
「だ、黙っていろ!」
「いいえ、黙りません!あそこで私が祈る事で得た力は、全てこの女に作用するよう扉に転送の術がかけられていた。そのせいで、あなたの恋人の美に磨きがかかる一方…この地は、どんどん貧しくなってしまっていた。」
「そんな事をする者が領主では、領民が憐れでならない。王の命により、新しい領主は俺が務める事になった。お前はもう領主失格だ…大人しくその座を退き、罰を受けるんだ。それから…恋人である君も一緒にね。」
「…何もかも、上手く行ってたと思ったのに─!」
「私まで罰を受けなきゃいけないの!?そんなの嫌よ─!」
※※※
あれから二人は牢へと入れられ…厳しい拷問を受けた末に、この地から永久追放となった。
そして彼が新しい領主になると同時に、私の地下室での暮らしは終わり…あの地下室への入り口は、永久に閉ざされる事となった。
あんな術がかけられた忌々しい場所、もう二度と足を踏み入れる事の無いよう、封印の術を施したのだ。
「助けて下さって、本当にありがとうございました。私の祈りは、全てこの地の為のもの…誰か一人だけに与えられるものではありませんから。」
彼は頷き…そして私を見て、こう言った。
「確かに、君の巫女としての力はこの地の…そして民のものだ。でも…一人の女性としての心は、俺に向けてくれないだろうか?」
「…!勿論です、愛しい領主様─。」
巫女は、領主様と結婚するのは昔からの決まり事だ。
だけど私はあの地下暮らしの中で、自分自身を必要とされ…愛されたいと思うようになって居た。
それが、漸く叶うのね…。
私はこれからの幸せな暮らしを思い、期待に胸を膨らませた─。
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