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あなたの偽物の愛など、もう要りません…そんなに妹を愛しているのなら、離縁しましょう。

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 夫が手にしているのは、私の為にと買って来た一輪のバラだった。

「花が好きと言うから、買ってきたよ。」

「まぁ…ありがとうございます。いい香り─。」

 私の夫は、時々こうして私に贈り物をしてくれる。

 その優しさに、私は自分が愛されて居るのだと思い、幸せを感じていた。

 真実を、知るまでは─。

※※※

 彼と結婚したきっかけは、私の父だった。
 彼は名家のご子息だが、覇気があり良い男だと、父は褒めていた。
 私も、彼の明るい性格に惹かれ、この結婚を嬉しく思ったものだ。

 でも…彼にとっては、望まないものだったと事を、つい最近知ってしまった。
 
 そしてそれを教えてくれたのは、私の妹だった。

『あの人…本当は、まだ結婚したくなかったそうよ?もっと色んな女と遊びたかったって嘆いてたもの。でも、世間体もあって断れなかった。だから…お姉様は、彼に愛されてないの。彼があなたに買って来る贈り物、あれは夫として形式的にやってるだけで…本当は─。』

 それからだ、私が夫からの贈り物に何の喜びも感じなくなったのは─。
 
 私は…物など欲しくない。
 ただ…あなたの愛が欲しいの─。

※※※

「この前のバラは良かったよ。また捨てる物があれば、俺に残しておいてくれ。」

「はい、喜んで。私…またあなたがお店に来て下さるのを、楽しみにしてます!」

 花屋の娘は、うっとりとした表情でこう言った。

 この女は、愛嬌があって実に可愛い。

 さて…今度はどの店に行こうか。
 
 菓子屋の娘とは先週会ったばかりだし…そうだ、今度は宝石店の娘にしよう。
 確か彼女、新しい指輪が欲しいと言っていたし。
 
 あの女には…安物の指輪を贈っておけばいいか─。

「今度は指輪だ。いつも地味にしているから…これでも付けて、お洒落をするといい。」

 そう言って、俺は妻に指輪を差し出した。

「…これは要りません。」

「な、何でだ!?夫からの贈り物を拒否するなんて…妻として失格だ!お前がその気なら…もう別れてもいいんだぞ!?」

 ここまで言ってやったら、すぐにこの指輪を受け取るだろう。

 全く…夫の俺に恥をかかせるとは、出来損ないの妻だ。

「私は…それで構いませんよ。」

「え…?」

「ですから…あなたと別れてもいいと言ったんです。」

※※※

「お、お前…急にどうしてしまったと言うんだ?」

 夫は、信じられないと言った目で私を見て来た。

 そこで私は、妹から聞いた話を彼に伝えた。

「…あなたが、町の娘達と浮気していると、妹から聞かされました。しかも…私への贈り物は、売れ残りや廃棄処分の品をタダで譲って貰い、そして私に与えていただけだって…!」

「そ、それは、何かの誤解で─」

「その上、私への贈り物はただのおまけで…本当に贈り物をしたかったのは、妹の方だって…!あなた…本当は私でなく妹を愛してるんでしょう!?あの子が、私に自慢げに話して来て…もう、あなたと離縁しろと言って来たのです!」

「お、俺達の事は、まだ内緒にしておけと言ったのに…あッ!?」
 
 夫は、慌てて口を手で押さえたが…もう遅いわよ。

「あなた…いずれ私と離縁し、妹を妻に迎える気で居たのでしょう?その為に、日頃から私に優しくし、あぁして贈り物をしてご機嫌を取って居た…。別れる時に、少しでも良い夫だったと思わせようとして─。私、そんな偽物の愛など要りません…!そんなに妹が好きなら、もう離縁して下さい!」

「そんな事…この結婚を勧めたお前の父が許すはず─」

「あなたと別れる事は、既に父に報告済みです。父は激怒し、妹は罰として修道院送りに…更には、あなたへの送金を辞める、もう事業にも協力しないそうです。」

「そ、そんな…資金援助がないなら、もう俺の事業はお終いだ─!」

 夫は、その場で泣き崩れたが…私はそれを見ても、彼が憐れだとは思わなかった─。

※※※

 そして彼は、私に対し慰謝料を払う事となった。
 財産のほとんどは、妹や町の女に使い込み…更には資金援助がない状態で私にそれを支払うと、彼の財力はあっという間に尽き…ついに、事業もやっていけなくなってしまった。

 その後彼は、私の父に、何とかもう一度援助を…そして、私と復縁させて欲しいと頭を下げに来たが…すぐに追い返されていた。
 彼ったら、町の女達とは縁を切ったから、安心して戻って来いなどと偉そうに言っていたけど…破産寸前の男の元に、誰がもう一度と嫁ぎたいと思うのよ…。
 
 あなたとの復縁など、絶対にあり得ない。
 
 あなたは、私の愛ではなく、私が持つ財力が欲しいだけ─。
 あなたの元に戻っても、あなたは絶対に私の一番欲しい物…愛をくれない事は分かっているわ。

 それに…今の私は、もうあなたから愛を貰う必要はないの。
 
 だって…毎日愛を囁き、私の心を愛で一杯にしてくれる、素敵な恋人が居るのだから。
 そしてその彼と、もうすぐ結婚する事が決まったから…あなたの偽物の愛など、私はもう要らないのです─。
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