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ある悲劇に見舞われた私は婚約破棄され捨てられましたが…おかげで、大きな幸せを掴みました。

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「あなたは、もうお終いよ。」

 すれ違いざまに、そう声をかけられた私。
 その直後、私は顔に何かを噴きかけられた。

「あなた、私に何を…!?」

「すぐに分かるわ。」

 そう言って、その人物は去って行った─。

 家に帰り慌てて顔を鏡に映せば、そこにはいつもの自分とはかけ離れた、醜い顔が映っていた。

 それを見た私の婚約者は言葉を失い…そして、漸く口を開いた。

「お前…そんな醜い顔で、これまで通り俺の婚約者で居られると思うなよ?」

「え…?」

「醜くなったお前とは、もう婚約破棄だ。」

 そして私は、この顔のせいで彼に別れを告げられた─。

※※※

「…お前の魔法薬が、ここまで凄いとは。」

「あなたと一緒になる為に、必死に勉強したのよ。」

「俺の父も周りも、あんな顔になった女とは婚約破棄しても仕方ないと…そして、お前との関係を認めてくれた。」

「そう…それは嬉しいわ。」

 私に無いのはお金だけ。
 でもあの女は、お金持ちの令嬢で美しい顔も持ってた。
 
 両方持ってるなんてズルいわ。
 だから、顔の方は私が奪ってやった。

 あなたは、ずっとあの醜い顔で居なさいよ─!

「あなたがあの女と別れて半年…そろそろ私たちは、一緒になってもいいと思うの。」

「そうだな…近く正式に婚約し、パーティーでも─」

「そういう訳にはいかないわ。」

「あ、あなた、どうしてここに!?」

「いや、それより、その顔は─!?」

※※※

 私に魔法薬を浴びせた、元婚約者の愛人…彼女は、大きな勘違いをしている。

 この魔法薬の効果は、永遠に続くものではないという事だ。

「私の顔、そろそろ元に戻る頃なのよ。顔を代える魔法は中々に高度な魔法でね…それを維持する魔法薬を作るには、あなたの魔力では不十分だったのよ。」

「そ、そんな…せっかく醜くしたのに!」

「そんな薬に頼らずとも…私が、本物の魔法というものを見せてあげる。」

 私がある呪文を唱えると…愛人の顔が次第に変化していった。

「何するの…辞めて、見ないで!」

「お前、その顔は…!?」

「これが、彼女の本来の顔よ。彼女はあなたに釣り合う女で居たくて、魔法で美しく変えていた。自分の顔を美しくする事だけに集中してれば良かったのに…私を陥れようとするから、どっちも中途半端で上手くいかなくなるのよ。だから私に、いとも簡単に変化魔法を解かれてしまった。あなた…彼女の本当の顔がこんなのでも愛せるの?婚約者にしてあげられる?」

「む、無理だ!俺は美しい女じゃないと…!」

「ですって。ちなみに私の魔力はかなり強いから、顔を戻すのはもう無理よ。あの魔法薬を使った後のあなたの残りの魔力じゃ、それは出来ない。」

「お願い、あの美しい顔を返してよぉ…!」

 泣きじゃくる愛人を無視し、彼が私に声をかけてきた。

「おい…元の顔に戻ったなら、もう一度俺と─」

「馬鹿な事を…その女の企みを知った上で止めなかったあなたを、私が許すと思う?あなたは、所詮は私の家の財産が目当てて婚約したんでしょう?私の顔に魔法薬を浴びせた人物を探るついでに、あなたの身辺も探らせて貰ったから、もう分かってるの。」

「探ったって…そんな事して、お前どうする気だ!?」

「あなたへの資金援助を取りやめるわ。そうなったら、あなたの事業はもうお終いね。」

「何だと!?」

「でも、それだけじゃ済まないわよ…。この国では、魔法を違法な事に使うのは禁止されてる。本来美しいものを、醜く変えて価値を損ねる事は立派な犯罪…顔だって、それに該当するのよ─?」

※※※

 その後二人は捕らえられ、牢に入れられた。

 そして、共に国外追放される事が決まった。
 これは、二度と私に近づく事ができないようにとの計らいだった。

 今度の事件が明るみになり、私は悲劇の美女として一躍有名になった。

 すると、何とそれがこの国の王子の耳に入り…私は、彼にお目通りする事になった。
 
 そして王子は私を見ると…噂以上に美しいと私を褒め、いずれ妃に迎えたいと仰って下さった。

 あの二人の処罰がより厳しいものになったのも、こういう背景があったからのようだ。

 こうして私は、一度は大きな悲劇に見舞われたものの…思わぬ形で、大きな幸せを掴む事が出来たのだった─。
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