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04.街へ向かって
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ガルビートの村から見て、北東に位置するディーシャの街。
普通に歩けば、村から街へはおよそ半日かかる距離だ。余程の急ぎでもなければ、シェフレラは歩いて行き来していた。
馬を持つだけの手持ちがない、というのもある。しかし、今ばかりは馬がほしい、と心から思った。
まだ召喚術はほとんどできないからなぁ。まして、あたしを乗せて移動してくれるような魔獣なんて、呼び出せないよぉ。
自分の実力がないことを、こんなに「悔しい」と思ったことはなかった。
今までにも、もっとうまくできるようになりたい、と思うことはいくらでもあったが、悔しいとまではいかなかったのだ。
でも、こうして人が困っている時にすぐ動ける力がない、というのは何と情けないことか。
三年でようやく一通りの魔法がこなせるようになった程度だから仕方がない、とは言うものの、それは言い訳だ。もっと短い期間で高い実力を身に着けた魔法使いなど、世間にはいくらでもいる。
とにかく、文句を言っている場合ではない。
馬がないなら。乗せてくれるような魔獣を呼び出せないのなら。少しでも早く、目的地へ行きたいなら。
自分で走るだけだ。
そういう訳で、シェフレラは自分の足で街へ向かって走っていた。今はガルビートの村とディーシャの街の間にある、カーミンの森の中だ。
森を通らず、迂回する形で街へ向かうルートもあるが、それだと遠回りになってしまう。そんな時間の余裕はない。
ちゃんとした舗装はされていないが、森には人や馬車が長年踏み固めた道がしっかりと伸びている。それをたどれば、森を抜けられるのだ。一本道だから、迷うことはまずない。
ただし、それは昼間に限った話。
森や山では、どこかしらに妖精や精霊、そして魔物がいるのだ。昼間はあまり人間の前に現れない彼らも、夜になるとどこからともなく現れる。
シェフレラが今走っているカーミンの森も、例外ではない。軽いいたずら心、もしくは悪意を持った存在が、森を抜けようとする人間を惑わせようとしてくることがある。
シェフレラが走るのは時間がないこともあるが、そういった存在が現れてちょっかいをかけられないためだ。
魔法使いだから襲われてもどうにかできるだろうが、相手をしている時間がもったいない。
いつもなら、明るいうちに村へ着くように街を出る。だが、今日は村へ着いて一時間もしないうちに、また街へ向かうことになってしまった。
これだと、移動だけでほぼ一日。
夕方と呼ぶにはまだ少し早いものの、のんびりしていたら森を歩いているうちに陽が暮れてしまう。
秋と呼ばれる季節になり、暗くなるのが早くなってしまうのが今は痛い。
たいまつ代わりの明かりなど、魔法でいくらでも出せる。だが、その明るさに引き寄せられてしまう存在もいるので、気楽に出せない。
「ああーっ、もうっ。この森、広すぎっ」
いつもは何を思うこともなく通る森だが、こうして急いでいる時はいつまで経っても外へ出られないように感じた。
まさかこの時間からすでに、何か面倒な奴に化かされているのでは……などと疑ってしまう。
こんな時に限って、街へ向かう荷馬車も全く通らないから、それに便乗させてもらえない。やはり、時間が少々遅いせいか。
あー、体力強化の魔法、もっとしっかりできるようにしておけばよかった。
呪文は知っているので、かけることはできる。だが、効果が薄いし、すぐに切れてしまうのだ。こういう時に、自分の実力がはっきりわかって悲しくなってくる。
ずっと走り続けられる程の体力はなく、シェフレラは激しく息を切らしながら歩いた。呼吸が落ち着くと、また走り出す。その繰り返しだ。
だが、体力が減って、走る距離が次第に短くなってくる。普段の仕事でこんなに走ることなどないから、持久力があまりないのだ。
え……何?
息が切れ、また歩き出したシェフレラの耳に、自分の息切れとは違う音が入った。
同じような息切れだが、意識して呼吸の長さを変えてみる。やはり、明らかに自分以外の息遣いが聞こえた。
間違いなく「何か」が近くにいる。
何かしら。出て来ないなら、それでいいんだけどな。でも、ちょっと音が近くない? あたしを狙ってる……のかな。妖精が息を切らせるって、あんまり聞かないし。だとしたら、魔物かも。って言うか、きっとそうだよねぇ。かなり薄暗くなってきてるし、足音がしたから気になって出て来たんだわ。もう、こんな時に。
これで走り出せば、きっと向こうもつられて走り出す。そして、こちらが疲れて歩き出した時に背後、もしくは横から襲い掛かって来ることは十分考えられる。
シェフレラの予想が当たっているなら、ここから先はもう走らない方がいい。息切れのせいで、呪文がちゃんと唱えられなくなってしまう。
森の外まで追って来ることはないだろうが、外へ出るまではまだ距離がある。このままの状態で森を抜けられたらいいが……それは難しいかも知れない。
やっかいだなぁ。とにかく、早歩きで進むしかないよね。そのうち、興味がなくなるってこともあるだろうし。
だが、しばらく歩いても、シェフレラ以外の息切れは消えない。しっかりついて来ているようだ。
どこにいるのだろう。右手にある茂みの向こうか。左手の巨木の陰か。たくみに姿は隠しているくせに、呼吸音だけが聞こえるのは恐怖をあおるつもりか。
基本的な攻撃魔法は使えるけど、それが通じる相手かしら。うー、まさかこんな時間に森を歩くなんて、想定してなかったもん。魔物退治は一人じゃ行かないし。
仕事では、必ず二人以上で行動する。複数いることで、何か魔物が出たとしてもどうにか対処できるように。
こんな状況は、何かの事情ではぐれたりしない限り、まずありえない。
でも、今は仕事ではないし、一人だ。しかも、レベルの低いペーペー。現れるなら、シェフレラでも対処可能な、レベルの低い存在であってほしい。
そう考えた矢先、右手の茂みで大きな音がした。心臓がはねる。
シェフレラがそちらを見ると、がさがさと音をたてながら茂みから大きな影が現れた。
出て来たのは、真っ黒な犬のような姿をした魔物だ。目だけがらんらんと、黄色く光っている。
森や山など、あちこちにいる山犬系の魔物だ。種類としては珍しくないが、シェフレラレベルの魔法使いが一人で相手をするには厄介な相手。
「え……ちょっと、おっきくない?」
シェフレラも今までにこのタイプの魔物は何度か見ているが、だいたい中型犬より少し大きいかな、というサイズだった。
目の前に現れたのは、大型犬より大きいかも知れない。それが次々に現れ、三匹になった。
ええーっ、この森って、こんな大きな魔物がいたのぉ? しかも、三匹って。
もしかして複数では、と思ったが、そういうのに限ってよく当たる。道理で呼吸音がよく聞こえる訳だ。
「ケガしたくなかったら、さっさと帰りなさい」
脅しのつもりで、シェフレラは手のひらに炎を出した。
火を恐れる普通の獣なら、これでかなり警戒してくれるのだ。うまくいけば、こちらが一歩踏み出そうとするだけで、すぐに逃げてしまう。
しかし、相手が魔物となると、この程度ではなかなか逃げてくれない。
実際、目の前にいる魔物も、逃げる素振りは全く見せてくれなかった。
「やるっての?」
軽い脅しのつもりで、シェフレラは出した炎を魔物の一匹に向けて放る。
狙った訳ではないので、魔物はあっさり逃げてしまい、炎は地面で火花を散らして消えた。
この火花を見て、どこかへ逃げる獣も多い。
だが、シェフレラの目の前から魔物の数が減ることは……なかった。
もう、迷惑だなぁ。急いでるんだから、ちょっとは空気を読みなさいよ。
心の中でグチる。時間が惜しい、という精神的余裕のなさでいらいらしてきた。
魔物が低く唸る。逃げるどころか、むしろ怒らせたような雰囲気だ。身体が黒いせいか、むき出した牙が不自然なくらいに白く見えた。
「あたしはこんな所で、あんた達のエサになってる場合じゃないの」
普通に歩けば、村から街へはおよそ半日かかる距離だ。余程の急ぎでもなければ、シェフレラは歩いて行き来していた。
馬を持つだけの手持ちがない、というのもある。しかし、今ばかりは馬がほしい、と心から思った。
まだ召喚術はほとんどできないからなぁ。まして、あたしを乗せて移動してくれるような魔獣なんて、呼び出せないよぉ。
自分の実力がないことを、こんなに「悔しい」と思ったことはなかった。
今までにも、もっとうまくできるようになりたい、と思うことはいくらでもあったが、悔しいとまではいかなかったのだ。
でも、こうして人が困っている時にすぐ動ける力がない、というのは何と情けないことか。
三年でようやく一通りの魔法がこなせるようになった程度だから仕方がない、とは言うものの、それは言い訳だ。もっと短い期間で高い実力を身に着けた魔法使いなど、世間にはいくらでもいる。
とにかく、文句を言っている場合ではない。
馬がないなら。乗せてくれるような魔獣を呼び出せないのなら。少しでも早く、目的地へ行きたいなら。
自分で走るだけだ。
そういう訳で、シェフレラは自分の足で街へ向かって走っていた。今はガルビートの村とディーシャの街の間にある、カーミンの森の中だ。
森を通らず、迂回する形で街へ向かうルートもあるが、それだと遠回りになってしまう。そんな時間の余裕はない。
ちゃんとした舗装はされていないが、森には人や馬車が長年踏み固めた道がしっかりと伸びている。それをたどれば、森を抜けられるのだ。一本道だから、迷うことはまずない。
ただし、それは昼間に限った話。
森や山では、どこかしらに妖精や精霊、そして魔物がいるのだ。昼間はあまり人間の前に現れない彼らも、夜になるとどこからともなく現れる。
シェフレラが今走っているカーミンの森も、例外ではない。軽いいたずら心、もしくは悪意を持った存在が、森を抜けようとする人間を惑わせようとしてくることがある。
シェフレラが走るのは時間がないこともあるが、そういった存在が現れてちょっかいをかけられないためだ。
魔法使いだから襲われてもどうにかできるだろうが、相手をしている時間がもったいない。
いつもなら、明るいうちに村へ着くように街を出る。だが、今日は村へ着いて一時間もしないうちに、また街へ向かうことになってしまった。
これだと、移動だけでほぼ一日。
夕方と呼ぶにはまだ少し早いものの、のんびりしていたら森を歩いているうちに陽が暮れてしまう。
秋と呼ばれる季節になり、暗くなるのが早くなってしまうのが今は痛い。
たいまつ代わりの明かりなど、魔法でいくらでも出せる。だが、その明るさに引き寄せられてしまう存在もいるので、気楽に出せない。
「ああーっ、もうっ。この森、広すぎっ」
いつもは何を思うこともなく通る森だが、こうして急いでいる時はいつまで経っても外へ出られないように感じた。
まさかこの時間からすでに、何か面倒な奴に化かされているのでは……などと疑ってしまう。
こんな時に限って、街へ向かう荷馬車も全く通らないから、それに便乗させてもらえない。やはり、時間が少々遅いせいか。
あー、体力強化の魔法、もっとしっかりできるようにしておけばよかった。
呪文は知っているので、かけることはできる。だが、効果が薄いし、すぐに切れてしまうのだ。こういう時に、自分の実力がはっきりわかって悲しくなってくる。
ずっと走り続けられる程の体力はなく、シェフレラは激しく息を切らしながら歩いた。呼吸が落ち着くと、また走り出す。その繰り返しだ。
だが、体力が減って、走る距離が次第に短くなってくる。普段の仕事でこんなに走ることなどないから、持久力があまりないのだ。
え……何?
息が切れ、また歩き出したシェフレラの耳に、自分の息切れとは違う音が入った。
同じような息切れだが、意識して呼吸の長さを変えてみる。やはり、明らかに自分以外の息遣いが聞こえた。
間違いなく「何か」が近くにいる。
何かしら。出て来ないなら、それでいいんだけどな。でも、ちょっと音が近くない? あたしを狙ってる……のかな。妖精が息を切らせるって、あんまり聞かないし。だとしたら、魔物かも。って言うか、きっとそうだよねぇ。かなり薄暗くなってきてるし、足音がしたから気になって出て来たんだわ。もう、こんな時に。
これで走り出せば、きっと向こうもつられて走り出す。そして、こちらが疲れて歩き出した時に背後、もしくは横から襲い掛かって来ることは十分考えられる。
シェフレラの予想が当たっているなら、ここから先はもう走らない方がいい。息切れのせいで、呪文がちゃんと唱えられなくなってしまう。
森の外まで追って来ることはないだろうが、外へ出るまではまだ距離がある。このままの状態で森を抜けられたらいいが……それは難しいかも知れない。
やっかいだなぁ。とにかく、早歩きで進むしかないよね。そのうち、興味がなくなるってこともあるだろうし。
だが、しばらく歩いても、シェフレラ以外の息切れは消えない。しっかりついて来ているようだ。
どこにいるのだろう。右手にある茂みの向こうか。左手の巨木の陰か。たくみに姿は隠しているくせに、呼吸音だけが聞こえるのは恐怖をあおるつもりか。
基本的な攻撃魔法は使えるけど、それが通じる相手かしら。うー、まさかこんな時間に森を歩くなんて、想定してなかったもん。魔物退治は一人じゃ行かないし。
仕事では、必ず二人以上で行動する。複数いることで、何か魔物が出たとしてもどうにか対処できるように。
こんな状況は、何かの事情ではぐれたりしない限り、まずありえない。
でも、今は仕事ではないし、一人だ。しかも、レベルの低いペーペー。現れるなら、シェフレラでも対処可能な、レベルの低い存在であってほしい。
そう考えた矢先、右手の茂みで大きな音がした。心臓がはねる。
シェフレラがそちらを見ると、がさがさと音をたてながら茂みから大きな影が現れた。
出て来たのは、真っ黒な犬のような姿をした魔物だ。目だけがらんらんと、黄色く光っている。
森や山など、あちこちにいる山犬系の魔物だ。種類としては珍しくないが、シェフレラレベルの魔法使いが一人で相手をするには厄介な相手。
「え……ちょっと、おっきくない?」
シェフレラも今までにこのタイプの魔物は何度か見ているが、だいたい中型犬より少し大きいかな、というサイズだった。
目の前に現れたのは、大型犬より大きいかも知れない。それが次々に現れ、三匹になった。
ええーっ、この森って、こんな大きな魔物がいたのぉ? しかも、三匹って。
もしかして複数では、と思ったが、そういうのに限ってよく当たる。道理で呼吸音がよく聞こえる訳だ。
「ケガしたくなかったら、さっさと帰りなさい」
脅しのつもりで、シェフレラは手のひらに炎を出した。
火を恐れる普通の獣なら、これでかなり警戒してくれるのだ。うまくいけば、こちらが一歩踏み出そうとするだけで、すぐに逃げてしまう。
しかし、相手が魔物となると、この程度ではなかなか逃げてくれない。
実際、目の前にいる魔物も、逃げる素振りは全く見せてくれなかった。
「やるっての?」
軽い脅しのつもりで、シェフレラは出した炎を魔物の一匹に向けて放る。
狙った訳ではないので、魔物はあっさり逃げてしまい、炎は地面で火花を散らして消えた。
この火花を見て、どこかへ逃げる獣も多い。
だが、シェフレラの目の前から魔物の数が減ることは……なかった。
もう、迷惑だなぁ。急いでるんだから、ちょっとは空気を読みなさいよ。
心の中でグチる。時間が惜しい、という精神的余裕のなさでいらいらしてきた。
魔物が低く唸る。逃げるどころか、むしろ怒らせたような雰囲気だ。身体が黒いせいか、むき出した牙が不自然なくらいに白く見えた。
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