魔法使いとペンダント ~それは一体誰のもの?~

碧衣 奈美

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06.シェフレラの疑問

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「あれ? あいつ、どうしてペンダントの現在地へ、自分で直接行かなかったのかしら」
 シェフレラの頭に、ふっと疑問がわいた。
「何の話だ?」
「あ、ごめん。あのね」
 シェフレラは、ガルビートの村で起きたことをリオントに話した。こんな時間に森を抜けることになった理由を。
 ペンダントを追跡した結果、クロスカスはターミスの前へ現れたようだったが、本来ならターミスが売ったという店へ向かえばいい話ではないのか。
 そこに、もしくはその店で買った客の手元にペンダントがあるのだから、村へ来てターミスを問い詰めても意味がない。
「俺はその魔法使いを見ていないから、推測だけど。そのぼうずがペンダントを持って一度村へ戻った頃に、その使い魔の気配が消えたんだろう。何をどう使役しているか知らないが、そんなに強くない魔物だと気配も薄い。そいつが追える使い魔の気配が、村で完全に切れたんだ。それで、村にあると思った。村へ来て近付いてみたら、そのぼうずにかすかな気配が残っていたから、こいつだと目星をつけたってところだろうな」
「そう言われてみれば、ターミスがペンダントを拾ったことを白状した時、やはりお前だったかって言ったの。推測だから、やはり、なんて言い方をしていたのね」
 ほぼ確実だろうと思いながら締め上げ、もしターミスが拾ったことを言わなければ、どうするつもりだったのだろう。
 ターミスは、盗んだのではなく拾った、という認識だから、ずっと否定し続けていたかも知れない。
 そうなれば……あの様子だと、本当に殺しかねない気がする。さすがにそこまでの事態になれば、本当に持っている奴が現れるだろう、とでも思ったのだろうか。
 逆に、怖がって誰も名乗り出なくなってしまう気もするが。
「そもそも、どうして使い魔はペンダントを落としたのかしら。落とした後の行動も気になるし。ちゃんと働いてくれないから、関係のない村人が迷惑をこうむるんじゃない」
「ありがちなのは、他の魔物に襲われたってところか。魔法使いから逃げたんじゃなければ、その線が一番濃厚だろう。それはともかく、そのぼうずが売った店っていうのは、目星がついているのか? 普通の宝石店だと、盗品は面倒なことになりかねないから、引き取らないことが多いと聞くぞ」
 ターミスがいきなり「このペンダントを買ってください」と頼んでも、うさん臭がられるのではないか。
 どう見ても金持ちには見えない風体の子どもの持ち物を、喜んで買ってくれる店はないだろう。それがどんなに高価なものであっても。
 いや、むしろ高価な程に怪しまれる。
 ターミス本人に聞けたらよかったのだが、クロスカスに連れて行かれたので確認すらできない。
「ラメルボの店じゃないかなって思ってるの。怪しさ全開の所だからね。目星と言うよりは、ほとんど偏見なんだけど。そこで見付からなければ、他で聞いてみるって程度よ」
 六十過ぎの小太り男が店主をしている店だ。宝石やその他装飾品を買い取る店だが、どうやって生計を立てているのかよくわからない。
 あの店は掘り出し物があって面白い、なんて話は一度も聞いたことがないし、むしろ「盗賊がよく出入りしている」という、よくない噂があったりする。
 実際、盗品が売られていたこともあったらしいが、ラメルボが「買い取る時に盗品とは思わなかった」としらばっくれたらしい。
 絶対に盗品とわかっていながら買い取った、という証拠がなかったので、捕まることはなかった。しかし、盗品であろうとなかろうと買い取り、それを売っているらしい、という疑いは濃い。
 宝石などを盗まれた人がこの店へ行き、売り物の中に自分の物を見付ける。これは自分のものだ、と言っても、ラメルボにすれば知ったことではない。
 売りに来た人間から買い取っているのだから、自分はあくまでも「真っ当な取引」をしただけ。
 持ち主が事情を訴えても「うちの商品に言い掛かりをつけるな」と怒鳴られ、追い返された人もいる、という話も聞いた。
 盗品の中には、持ち主がとても大切にしていたものも当然あるだろう。しかし、売られているものが自分のものだと証明できなければ、どうしようもない。
 取り戻したければ、自分のものであっても「買う」しかないのだ。
 シェフレラの勝手な想像だが、その時に吹っ掛けて得た利益で生活しているのだろう。
 街で魔法の修業をするようになったシェフレラは、村へ帰った時に子ども達から「街の話をしてくれ」と、よくせがまれた。
 その時に、街にはこんな怪しい店があるんだよ、と話した記憶がある。彼らが街へ行くことがあっても、だまされたりしないように、という警告のつもりで。
 その場には、ターミスもいたはずだ。彼がどこまでしっかり記憶していたかはともかく、素性のわからない拾ったペンダントを売るなら、その店はうってつけだと思ったに違いない。
 持ち込まれる物品の出所など、店主は聞かないという話だ。ちょっと後ろ暗い人間が売りに行く店としては、ありがたいだろう。
「盗賊達が売り込みに来やすいよう、街の端に店を構えているんだ、なんて言われてたりもするのよ。……ディーシャの街にリオントのお母さんの気配があるなら、リオントの捜し物もそこにあったりするかもね」
 その品を盗んだ輩が、現金をほしいと思えば。ディーシャの街に通り掛かっていたら。
 ラメルボの店に売られているかも知れない。可能性は十分にある。
「なるほど。その店をのぞいてみる価値はありそうだ」
「ただ……あったらあったで、面倒かもよ。そこの店主、かなりがめついから」
 へたに、これは自分のものだ、と言ってしまえば。買い戻そうとした時に足下を見られ、本来売るつもりだった金額から一気に跳ね上げる。
 これまで聞いた噂から、そうなることは容易に考えられることだ。
「そういうシェフレラも、同じ状況なんじゃないのか? その店にあったら、そのおやじのいい値で買わされることになる」
「う……うん。とんでもない値段になってないことを祈るしかないわ。たぶん、ターミスの命がかかってる、と言ったところで、値引きしてくれるような店主じゃないもん」
「話だけ聞いていると、屑と言いたくなるような人間だな」
 本当はそんな人じゃない、と思いたい。
 でも、シェフレラは実際にその店主と会ったことがないので人となりを全然知らないし、噂ではいい話を全く聞いたことがなかった。
 フィーエには大丈夫だと言ったが、正直なところ、かなり不安だ。
 そんな話をしながら、ふたりは森を抜けてディーシャの街へ向かう。
 着いた頃には、すっかり暗くなっていた。空には、もう少しで完全に満ちる月が浮かんでいる。
「あそこが、ラメルボの店よ」
 シェフレラが指し示したのは、街の南の入口から入ってすぐの所にある家。
 周囲には普通の家が並び、そこが店であるとわかるのは玄関の扉の上に「ラメルボの店」と小汚い看板が掛かっているからだ。
 字も汚い。本人が書いたのだろうか。これはこれで味がある……のかも知れないが、芸術などにうといシェフレラが見れば、単なる「汚い文字の汚い看板」だ。
「さて、出てくれるかな」
「だって、こっちはお客よ」
「営業時間っていうものがあるぞ。どう見ても、まだやっていますって感じはない」
 店への出入口である扉は、しっかり閉じられている。窓も雨戸が閉まっているようで、明かりももれていなかった。これだと、中に人がいるかも怪しい。
 時間的には食事時だから、酒場にでも出向いているのだろうか。
「とにかく、聞いてみるわ」
「こんな時間に何かほしいなんて言えば、吹っ掛けの上乗せをする口実を与えないか?」
 リオントに言われ、扉をノックしかけたシェフレラの手が止まった。
 単に「もう今日は店じまいだ」と言われるだけなら、まだいい。
 こいつはうちの商品をほしがっている、だったらたっぷり巻き上げてやろう、なんて思われたら困る。
 ただでさえ、ペンダント本来の金額がどれくらいのものなのか予測もつかないのに。
 考えてみれば、今は手持ちもほとんどなかった。
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