デートは悪魔とご一緒に

碧衣 奈美

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10.ちょっぴり感謝

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「今日は楽しかったけど……もしかしたらさんざんだったかもね。こんな風にゴンドラは止まっちゃうし。そうだ、おばけ屋敷も止まっちゃったしね。迷路は疲れちゃったし、ゲームの銃は暴発するし」
 リートの仕業というのはわかっているが、それでも大変な一日だったには違いない。特に、何も知らないクリスにとっては。
 この観覧車の停止も、またリートがやっているのだろうか。変なことはもうしないで、と釘を刺したつもりだったが……。
 相手は悪魔なのだし、マリアの言葉を聞かないで悪ふざけをしているのかも知れない。
「逆に言えば、滅多に起こらないことばかり経験できて、結構面白かったよ、俺は」
 そう言ってもらえると、マリアとしては嬉しい。
 リートが勝手にしたことではあるけれど、マリアのためにしていたのだから、突き詰めてゆけば自分のせいでもあるような気がしているからだ。
「何だか……ほんとーに二人っきりって感じね」
 おばけ屋敷でも、迷路でも、その他の場所でも。二人だけの時はあった。
 でも、何だか慌ただしい所ばかりで、そんな意識を持つこともできなかった。
 学校ではクラスメイトがいるし、学校以外の場所でも人がいる。遊園地の中でも、こういう場所柄なので近くには誰かしらいた。
 完全に二人っきりで、誰の目もない場所にいる、というのは……もしかして初めてかも知れない。
「しばらく動かなくてもいいって思うのは……不謹慎、かな。マリアが怖がってるのに」
「あたし、別に怖がってる訳じゃないわよ」
 ただこのまま止められたら、と思うといやなだけ。
「じゃ、もう少しの間、ここにいたいと思ってもいい?」
「……うん」
 夕日の差し込むゴンドラの中、二人がキスをしてしばらくしてから、観覧車は再び動き出した。
☆☆☆
 無事にゴンドラから降りた頃には、ちょうど閉園の時間になっていた。
 おとなしく遊園地を出ると、電車に乗って帰路につく。駅でクリスと別れ、マリアはクリスにゲットしてもらったライオンのぬいぐるみを抱いて、家に戻った。
 マリアに抱かれてやって来たライオンにやきもちをやいているのか、ポウが少し離れた所からしばらく睨んでいる。
 だが、相手が何もしないでただ座っているだけなのがわかると、フンと無視するようになった。
「あら」
 食事も済み、お風呂にも入って自分の部屋へ入ったマリアは、窓辺に座っている悪魔を見付けた。
 昼間のような人間の姿ではなく、昨日の悪魔の格好だ。サイズも小さくなっていて、近寄って来たポウをなでてやっている。
 今思えば、普通の少年の格好もよかったよね。あれで街を歩いてたら、スカウトされるんじゃないかしら。大きくなったことではっきり見えたからわかったけど、割りと顔はいいもんね、リートって。今はかわいいって感じだけど。
「よっ、今日はお疲れ」
 リートはお気楽に、そう挨拶した。
「もう……誰のせいで疲れたと思ってるのよ」
 もちろん今日一日は楽しかったが、疲れたというのも本音。本当なら、こんな疲れ方はしなかったはずなのに。
 今頃は、楽しい思い出のみにひたっているはずだった。
「でも、悪くはなかったろ」
「余計なおばけやモンスターに遭って、悪くない、なんてはずがないでしょ。怖かったんだからね。あ、それとゲームでライフルがいきなり暴発したけど、あれもリートの仕業なの?」
 どうせ今日の遊園地でのおかしな出来事は、全てリートのやったことだと思ってはいるが。一応の確認。
「あ、あれ? 仕業ってんじゃないけど……俺のせいってことになっかな」
 リートは少し恥ずかしそうな顔になる。いたずらが見付かってしまった子どもみたいだ。
「どういう意味?」
「俺と相性の悪い機械ってのがあってさ。俺が近付くと、俺が何もしなくても壊れたり誤作動する奴があるんだ」
「へー。機械の相性ねぇ。魔力と何か反応してってことなの?」
「ま、そんなとこ」
 どうやら、マリア達の乗ったジェットコースターが後で点検されたのは、それが原因らしい。
 リートはマリア達の後をつけていたから、当然アトラクションのそばへ行くことになる。そうなると、相性の悪い機械はリートがそばにいるだけで、点検が必要になってしまったのだ。
「あたし達が乗ってる時に、よく壊れなかったわね」
 そう考えると、ちょっと怖くなる。
 壊れるタイミングが一つ狂えば、乗っている時に壊れてそのまま地上へ投げ出されかねない。
「よくそんなで、人のデートをうまくいくようにしてやる、なんて言ったわね」
 マリアはあきれてしまった。
 最悪、本当に魂を持って行かれかねなかったのだ。そうなれば、デートどころの騒ぎではない。恨んでも相手が悪魔では、鼻で笑われそうだ。
「はは……だけど、あいつのこと、惚れ直しただろ。それだけでも、今日のデートは収穫があったじゃん」
「それはそうだけど……口がうまいわね」
 確かに、収穫と言えるものはあった。
 あの観覧車が止まったのもリートのせいなら、それだけはちょっと感謝してもいいかな、と思う。
 止まらなければ、きっと何ごともなく降りてしまっていただろう。そのまま遊園地を出て電車に乗って、駅で別れ……キスするタイミングなんてなかったはず。
「まぁ、また何かあったら呼んでくれよ。余程忙しくなけりゃ、来てやるから」
 リートは窓を開けた。
「呼べって、どういう風に?」
「俺の名前を呼べばいいんだよ。どこにいても、俺達は自分の名前を呼ばれれば聞こえるんだから」
「ふーん、そんなものなの」
 名前を呼んで現れるのは、ヒーローのような気がするのだが。悪魔の名前を呼んで現れたら、呪いの儀式などの方向へ行きそうだ。
 もっとも、リートに呪いを頼んでも、うまくいかない気がする。
 偏見かも知れないが、リートの顔を見ていたらそんな気がするのだ。
「リートも、来るなら来ていいわよ。ミルクくらいなら、ごちそうしてあげるから」
 今日のことが「成功」と言えるのかは少々疑問だが、恩返しを考えてくれるような悪魔なら「また会ってもいいかな」と思う。
 魂を持って行かれない、とわかっていることが条件だが。
「ああ、また押し掛けてやる」
 笑いながらそう言って、リートは窓から外へ飛び出しかけ、それから振り向いた。
「あ、マリア。遊園地で、おばけ屋敷がどうのって言ってたけどさ」
「それがどうかした?」
「俺、おばけ屋敷は何もしてないぜ」
「え……」
「ま、済んだことだよな。じゃあな」
 リートはそう言って、窓の外へと姿を消した。見送りのつもりか、ポウが小さく一声鳴く。
 おばけ屋敷は何もしてない? じゃ、あのコースターが止まったのは、偶然だったってこと? あの異様な程の数のおばけも? でも……前はあんなじゃなかったわよ。絶対におかしい。
 ちょっと待ってよ。それじゃ何? まさかあれは、本物だって言うの? いくらなんでも、そんなはずないわよね。映像がすり抜けてくだけだったんだし、それが本物な訳は……。
 ただおばけが通り過ぎるだけのもの、と言えば何でもないようだが、あれが異常な状態であったとすれば。
 マリアはリートの仕業と思っていたから、何でもないと思えたのだが、リートは知らないと言った。つまり……。
 え、ちょっと……うわぁっ。ちょっとリートってば、余計なこと教えてくれなくてよかったのに。眠れなくなっちゃうじゃないのよっ。
 あれが実は本物だったなんて……あたしは信じないから。夢に出て来たら、リートを呼び出して、絶対に文句言ってやるからねっ。
☆☆☆
 はは……悩ませちゃったかな。でも、俺ってやっぱり生粋きっすいの悪魔だからなぁ。ちょっといたずらしないと、どうも落ち着かないんだよな。ま、かわいいいたずらだし、罪はないだろ。
 勝手にそういうことにしてしまうリート。
 最後にリートが「おばけ屋敷の件は知らない」とマリアに言ったが、あれは嘘だ。おばけ屋敷も、やっぱりリートがやったこと。
 コースターを止め、おばけを連続で出す、という演出をしたのはリートなのだ。あれも森の中の迷路同様に、クリスの度胸を見るために仕掛けたこと。
 あそこでクリスがもし怖がったりすれば、森の迷路はもっとレベルを落とすつもりでいたのだ。
 あんな映像にしか見えないおばけでわめくような男なら、マリアにはふさわしくない。クリスのビビリ具合によっては、後で何とかして鍛えてやろう、とまで考えていたくらいである。
 森のおばけも、リートが出したものだ。知り合いの魔法使いにちょっとばかり出張してもらい、モンスターはリートが出した。
 おばけ屋敷の時は映像だけだったが、森のモンスターの時は実物で出しておいたのだ。でなければ、レベルを上げた意味がない。
 そして、クリスは見事にクリアした。リートとしては「ま、いいだろう」というところだ。
 あのクリスなら、本当に何かあった時でもマリアを守ろうとするだろう。リートは自分の代役としてクリスがマリアのそばにいるのを許している、という心境でいる。
 マリアがそれを聞いたら「頼んでないっ」と怒鳴ってくるだろう。
 一応、俺の仕事は終わったな。へへ、最後はご愛嬌で観覧車止めたけど、いい方に向かったよなぁ。
 観覧車は、リートが意図的に止めた。せっかく完全な二人っきりになったのだから、少しでも長くいさせてやろうという、リートのお世話である。
 これに関しては、マリアも少し感謝していたようだが。
 次にマリアが俺を呼んでくれりゃ、おばけ屋敷の件は嘘だって教えてやってもいいか。俺もそこまで悪い奴じゃないからなー。
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