手のひらサイズの紅竜は魔法使いに保護される

碧衣 奈美

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第一話 魔力を失った竜

1-12.エイクレッドに魔法をかける

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 エイクレッドの言葉に、ルナーティア達は緊張する。
 こんな場所で「何か」と言われれば、まず嬉しいものではないはず。
 姿が見えないようにしている、と言っても、実際はここにいるのだ。それに、そういった魔法を見破る魔物だって存在するから、安心はできない。
 見えなくても気配を察知して、闇雲に襲って来るタイプもいるだろう。
 だが、幸いと言おうか、エイクレッドが告げた「何か」は、ルナーティア達を狙っているのではなかった。
 銀色の光が走ったかと思うと、蜂達が飛ぶ中へと突っ込んで行く。その光は蜂を一匹捕まえたかと思うと、近くの枝に留まった。
「今の……鳥?」
 現れたのは、確かに鳥だ。銀色の翼に、長い銀色のくちばしの鳥が、蜂を捕まえている。
 くわえられた蜂の大きさから推測するに、鳥の身体は蜂の二倍くらいか。
 飛んで来た鳥は、自分の身体の半分近くもある蜂を、獲物として捕まえているのだ。
「ハチドリだな」
 ログバーンが、それを見てつぶやいた。
 目的の蜜を持つ蜂については調べたが、天敵となるような鳥のことまでは、ルナーティアも調べていない。それは、レシュウェルも同じだ。
「ハチドリって、あれが? あたし達の世界だと、ハチドリって確か身体はもっと小さかったと思うけど」
「蜂を補食する鳥だから、ハチドリだ。魔物の図鑑にはちゃんとした名前があったが、俺もそこまで覚えていないからな」
 レシュウェルの説明を聞いて、魔物にもちゃんとした名前って必要なのかしら、とルナーティアは不思議に思う。わかりやすければ、それで十分なのに。
 だが、そういう質問はもっと状況に余裕のある時にすることにした。
「蜂の群れに突っ込んでたけど、反撃されないのかしら」
 人間や他の生き物が同じことをすれば、間違いなく反撃されて大変な目に遭う。
「あの鳥は鋼のように羽が堅いので、蜂の針も通さないようだ。恐らく、奴らにとって唯一の天敵だろう」
 ルナーティアの疑問に、ログバーンが答えてくれた。
 その天敵の襲来に、蜂はさらに羽音を大きくして飛び回る。パニックになっているのか、少しでも天敵に襲われることを回避しようとしているのか。
 そのせいで、どれがレシュウェルの飛ばした木片の蜂かわからなくなった。
 だが、木の方を見ていると、他の蜂が右往左往するように飛んでいる中、ひたすらうろのふちに固まっている蜜にくっついている蜂がいる。どうやら、あれのようだ。
 そこだけを見ていると、状況を気にしない食いしん坊みたいに思える。もちろん、こんな時に食事をしようとする蜂なんて、他にはいなかった。
 蜂の羽音が響くそばにいるのは、はっきり言って苦痛だ。しかし、あの木片の蜂が戻って来なければ、ルナーティア達はこの場を去ることができない。今はひたすら待つだけだ。
 見ているとようやく蜜の塊を取れたようで、木片の蜂はそれを持ってふらふらとこちらへ戻りかける。
 他の蜂は怪しいと思わないのか、それどころではないのか。群れの中を通り抜けて別行動する仲間に、ちょっかいをかける蜂はいない。
 早く戻って来るように、と願いながら見ていると、またハチドリが飛んで来た。
 さっきとは別の鳥だ。しかも、二羽いる。ますます蜂が騒ぎ出す中、ハチドリ達は入れ食い状態のように獲物を捕まえた。
「まずい……」
 ハチドリが一匹の蜂をそのくちばしに捕らえた時、翼の一部が運悪く木片の蜂に当たったらしい。その衝撃で、地面に落ちてしまったのだ。
 カツンッという、いい音が響いた。地面には、魔法が解けて元に戻ってしまった木片が転がっている。そのそばには、取って来た「蜜の塊」があった。
 普通の状態であれば「すぐそこ」なのだが、さっきから強い警戒の音を出しながら蜂が飛び回っているので、へたに出て行けば興奮した蜂に襲われる。
 だが、離れた場所から木片に、同じ魔法をかけられない。予備の木片は持って来なかった。まさかこういうアクシデントが起きるとは、レシュウェルも予測していない。
 いくら蜃気楼が姿を隠してくれても、これ以上近付けば気配で気付かれてしまうだろう。蜜が落ちているのはほんの数メートル先なのだが、果てしなく隔たっているように思えた。
「さっと行っても……ダメかしら」
「ハチドリがいなくなって、蜂が落ち着くまでは危ないな。防御はしていても、あの数で襲い掛かられると破られかねない」
 ルナーティアにはもちろん、そんなことはさせられない。かと言って、レシュウェルが近付き、何かあったら次にルナーティアが襲われるかも知れないのだ。
 いくらレシュウェルの成績がよくても、彼もまだ見習い。足りない部分はまだまだあるし、そのために起きるミスにどこまで対処できるか。
「ねぇ、ぼくが行って来る」
 それまでおとなしくしていたエイクレッドが、そんなことを言い出した。
「危ないわよ、エイクレッド。普段の姿なら蜂なんてどうってことなくても、今のエイクレッドはあの蜂より小さいのよ」
 あまり「小さい」と言って傷付けたくないが、本来の姿と同じ気でいるなら危険だ。
「でも、あそこに落ちちゃった蜜がいるんでしょ。さっきレシュウェルが木のかけらにしたみたいに魔法をかけてくれたら、ぼくがあそこへ飛んで行って蜜を持って来る」
「だけど……」
 ルナーティアが戸惑う。レシュウェルも魔法をかけていいものか、悩んだ。
 擬態の魔法そのものは難しくないし、失敗はしないだろう。
 でも、かける対象が竜となると、しかも通常とは違う状態だから判断に苦しむ。
「今のエイクレッドに魔力はあまりないが、基本的な防御力なら人間よりも高いだろう。問題はないと思うぞ」
 二人が悩んでいるのを見てか、ログバーンが助言する。
「レシュウェルの魔法なら、ぼくも飛べるでしょ。すぐそこだもん、平気だよ」
 木片が蜂の姿になることで飛べたのだから、エイクレッドも当然飛べるようになる。
 蜜を取りに行く、というのはともかく、もしかしたらエイクレッドは飛びたいのかも知れない。
 人間界へ来て魔力を奪われて以来、飛べなくなってしまった。でも、蜂になれば、いつもと違う形ではあるが、飛べるから。
 もしくは……自分でも何かしたいのだろう。
 全てを任せたままでいたくなくて、自分でも動きたくて。
「……悩んでる時間はないか。エイクレッド、やるぞ」
「うん」
 レシュウェルはさっき木片にかけた擬態の魔法を、エイクレッドに向けてかけた。すると、飛んでいる蜂達と同じ姿になる。
 そして、しっかり羽音を出してエイクレッドは飛んでいた。
「具合、悪くないか?」
「うん。やった、ぼく、飛んでる」
 姿が変わっていても、そんなことは関係ない。久々に飛べて、エイクレッドは嬉しそうだ。
「エイクレッド、急いで」
「あ、うん。取って来るね」
 エイクレッドは、木片が転がっている所へ向かって飛んだ。
「木片はいらないんだ、エイクレッド。蜜だけでいい」
 レシュウェルに言われ、エイクレッドは木片を無視して蜜を拾う。
 さくらんぼより少し大きい蜜のかけらを持って、エイクレッドはルナーティア達の方へと飛んだ。
「ねぇ、エイクレッドにあたし達の姿は見えてない……わよね?」
 蜂に見付からないよう、蜃気楼を出して姿を隠している。離れる時は問題がなくても、いざ戻ろうとしたらルナーティア達の姿はエイクレッドから見えなくなっているのではないか。
「竜なら問題ない」
 ログバーンが請け合う。
「だけど、今は魔力がほとんどない状態でしょ。見破ることなんて、できるの?」
「魔力がなくても、竜であれば見抜ける。もし駄目なようであれば、一瞬でも姿を見せれば位置がわかるだろう」
 ただし、それをすれば蜂に見付かる可能性も高くなるが。
 とりあえず、二人はエイクレッドがこちらへ来るのを見ていた。これでエイクレッドがあちこちさまようようであれば、こちらだとわかるように姿を見せなくてはならない。
 ひとまず、ぎりぎりまで様子を見る。
 エイクレッドは蜜のかけらを持って、来た方向へ飛ぶ。だが、こちらを見た時に誰もいないように見えるはずだ。
 なので、戸惑ったかのように止まったものの、すぐにまた進み出す。
 その時、蜂になっているエイクレッドの目が、一瞬赤く光ったように見えた。その後、エイクレッドは迷うことなくこちらへ飛ぶ。
 しかし、何か様子がおかしいと思った数匹の蜂が、その後を追い始めた。
「気付かれたな。エイクレッド、急げ」
 レシュウェルの言葉に、エイクレッドはスピードを上げた。
「ルナーティア、しっかり掴まってろ」
「うん」
 言われたルナーティアは、レシュウェルにしがみつくようにして掴まった。
 ほぼ同時にログバーンが走り出し、伸ばしたレシュウェルの手がこちらへ飛んで来る蜂のエイクレッドを掴まえる。
 こちらの姿が見えなくても、蜂達は明らかにおかしいと感じたのか、羽音を高くした。警戒のアラームだろうか。
 それを聞いた他の蜂までが、一斉に動き出す。
 しかし、その時にはすでにログバーンは宙を走り出し、蜂の羽音は後方へと消えていった。
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