手のひらサイズの紅竜は魔法使いに保護される

碧衣 奈美

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第二話 木(もく)の魔珠

2-07.頼ればいい

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(エイクレッドがルナーティアに見付けられて頼ったように、ルナーティアも俺や他の連中に頼ればいいんだ。何も遠慮する必要はないんだから)
 言われてみれば「一人でがんばろう」と思うようになっていた気がする。第一発見者としての責任、みたいなものを勝手に感じて。
 でも、これはルナーティアの義務ではない。あくまでも、善意だ。
 それに、周りには頼りになる魔法使いや、支えてくれる見習い魔法使い達が大勢いる。言ってみれば、最高の環境にいるのだった。
(さっき話していた、今朝のことでもそうだ。エイクレッドを連れているルナーティアが、事情を知らない人間に絡まれる。それを知って、クラスメイトが解決策を考えてくれたんだろ)
「うん」
「たとえ少しでも、自分にできることをしてくれる奴がいるってことだ」
 エイクレッドの回復、という根本はどうしようもない。自然回復を待つか、魔珠鏡の術を完成させるか。その魔法だって、確実ではない。
 それでも、困ったことがあれば。ルナーティアの周りにいる人や、彼らを通じて他の魔法使いが助けてくれるだろうし、レシュウェルの方でもそういう人達がいるだろう。
「うん、あたし、前向けた」
 そう言って、ルナーティアは肩にいるエイクレッドに笑みを向けた。
☆☆☆
 先週と同じく、ルナーティアとレシュウェルは日曜日にイナリーの駅で待ち合わせた。そこから、パラレル魔界へ続く入口のある場所へ向かう。
 服装については前回指摘されたので、ルナーティアは黒のブルゾンを着て来た。土曜日の昨日、姉のラーミリアについて来てもらい、買って来たものだ。
 レシュウェルは前回と同じく、グレーの迷彩柄のブルゾン。普通に歩く分には、地味な二人連れだ。
 もっとも、今の季節はこういうもの。似たような格好の人は、あちこちにいる。
 パラレル魔界へ続く、石碑もどきの石がある路地。そこへ二人が入ろうとした時、通りすがりの男性がちらりとこちらを見た。
 この近辺の人だろうか。何も言われないが、何か言いたそうな顔に見えた。気にしすぎだろうか。
「入る場所は、時々変えた方がよさそうだな」
 たまたまこちらを見ただけ……かも知れない。
 だが、その石とパラレル魔界がつながっていることは、一般人でもほとんどの人が知っている。その中で、深刻に考えている人がどれだけいるだろう。
 二人が出入りしているところを見て「そこから魔物が出て来たら、どうしてくれるの」と、神経過敏になって怒る人が出て来ることもありそうだ。
 結界があるのでそんなことはまず起こらないのだが、それは魔法使い側の言い分でしかない。一般の人にはそれが本当か、確実で安全なのか、ということはわからないのだ。
 この先、今回を入れても六回は出入りすることになるし、それも予定としてはほぼ毎週。いつも同じ場所だと、この近所の人に目を付けられる。
 レシュウェルはよくても、最寄り駅がイナリーのルナーティアが困るだろう。どこで苦情を言われるかわからないなら、そういうリスクは避けるべきだ。
 来週のことは明日以降に考えるとして、今はさっさとパラレル魔界へ行くことにする。
 石の前まで来ると、レシュウェルは呪文を唱えた。
「ケラヒ チミ」
 暗い灰色の石に変化はないが、レシュウェルはルナーティアの手を握ると、ためらうことなく石の中へと入る。
 途端に周囲から人工物は全て消え、薄暗い空の下に山や森、荒れ地などが現れた。
 パラレル魔界へ来たことを確認すると、ルナーティアは背負っていたリュックから黒いマントを取り出す。パフィオから借りている防御マントだ。
 その間に、レシュウェルはここで協力してくれる炎馬えんば)ログバーンを呼び出した。
「ログバーン、今日も頼む」
「ああ。……エイクレッド、少し変わったか?」
 ルナーティアの肩にいるエイクレッドを見て、ログバーンが尋ねる。
「え? そうかな」
 自覚のないエイクレッドは、首をかしげた。
「あ、前回来た時より、少しだけど大きくなったのよ。この前探した素材で魔法の実ができる木を作ったんだけど、毎日食べてるからほんのちょっとだけでも魔力が戻ったんだと思うわ。それで、身体が本来の大きさに、ちょっぴりだけど戻ってるのよ」
「本当にちょっぴり、なのだろうな」
 そう言って、ログバーンは笑う。
 実際、ウィスタリアが来た時に言ったように「1センチ伸びた」が、あれからそれ以上は伸びてない。人間のダイエットのように、最初は順調でも停滞期があるのだろうか。
 だが、胴回りがわずかに太くなった……ように思える。
 リクリスに教えられた通りの水やりをして、魔果がエイクレッド曰く「甘酸っぱく」なった。
 恐らく、それが魔果の完全に近い味であり、今までよりもエイクレッドの回復に一役買っているのだ。
 回復して元に戻るのは、身体の長さだけではない。
 それに気付いたルナーティアは、次回から身体の太さもチェックすることにした。
 何にしろ、ログバーンも細かいところによく気付いたものである。
「ルナーティア。悪いけど、リュックに入れておいてくれ」
 レシュウェルがルナーティアに渡したのは、スーパーの袋。受け取ると、中身はちょっと重い。
「何、これ」
「鶏肉」
「え……これで何するの?」
 何か持ってるな、とは思っていたが、鶏肉とは思わなかった。
 まさか、パラレル魔界のどこかで焼き鳥をする訳ではないだろう。そんなことをしたら、匂いにひかれて何が現れるやら。
「今日行く場所で、エサにすることがあるかも知れない。使わなければ、ログバーンに進呈だ」
「新鮮か?」
 自分に渡されることがあるかも知れないと聞いて、ログバーンが尋ねる。
「古くはないけど、野生じゃないから味は落ちるだろうな。口に合わないかも知れないが、腹の足しにしてくれ。使わなければ、の話だけど」
 まだ用途が不明だが、ルナーティアはリュックに鶏肉の入った袋を入れた。
「それじゃ、行くか。まずはカーラマチからだ」
 二人はログバーンの背に乗り、北を目指す。
 カーラマチは南地区。ここパラレル魔界へ入って来たイナリーも同じ南地区だが、カーラマチはその中でも北部に位置するのだ。
 ここで必要なのは「三つ色木の実」と呼ばれるもの。
 ライチほどの大きさと見掛けで、中は名前の通り三色に分かれているのだ。赤黒く、少しごつごつした皮をめくると、赤青黄の実が現れる……と本に出ていた。
「信号みたいよね。リンゴみたいに皮が赤で、実が白ならあたし達の世界にもあるけど」
「黄色の部分が緑なら、光の三原色だな」
 変わった色合いなのは、やはり魔界だからか。
 出発点からそんなに離れていないので、カーラマチと呼ばれるエリアへはすぐに着いた。
 パラレル魔界では、この周辺が何と呼ばれるエリアかを示す看板はない。そこは、レシュウェルがリクリスから借りている地図が頼りだ。
 確認すると、現在位置を示す赤い部分の横に「カーラマチ」と出ていた。目的地で間違いない。
 このエリアの一角に、雑木林とでも言うのか、二、三メートル程の高さの木々が立ち並んでいる場所がある。
 ルナーティアでも簡単に抱えられそうな太さの幹に、斜め上へと伸びる細い枝。その枝に、青々と茂る葉。これと言う特徴のない、街路樹にでもありそうな木だ。
 葉っぱを見ると、少し桜に似ている……ような気もするが、二人は植物にそう詳しくないので、木に関してはスルーした。
 必要なのは木ではなく、その木がつける実だ。
 無秩序ではあるが、数メートルの間隔をもって木は立っている。その木と木の間の地面に、ゴルフボールより少し小さく、赤黒い実がたくさん落ちていた。
「ねぇ、何かいるよ」
 エイクレッドが短い前脚を、ある方向へ向ける。そちらを見ると、幼稚園児くらいの大きさの影がいくつか見えた。
 頭の形はちょっと長く、髪はない。人型ではあるが、肌が緑っぽい。顔は老人のように見えるが、好々爺こうこうやとは真逆の顔つき。裂けたような大きな口には、ぎざぎざした歯が並んでいる。
「やっぱりいたか」
「あれがゴブリンね」
 三つ色木の実について調べた時、これを好む魔物についても書かれていた。それが、そこに現れているゴブリンだ。
 この実が落ちている周辺をよくうろついているらしく、自分達の仲間以外の姿を見ると襲って来ることもあるらしい。
 だが、仲間との結びつきが強い、という訳でもないようだ。仲間同士でも「実の取り合いになることがある」と書かれていたから、共通の敵がいる時だけ一緒に行動するのだろう。
 見たところ、地面に落ちている実はかなりの数に思えるのに、それを取り合いするとは強欲だ。たくさん持っていたいのか、他者に取られたくないくらい美味な実なのか。
 これと言って強い魔法は使えないようだが、棍棒のような物を持って襲って来るので油断はできない。小さくても力はあるので、なおさらだ。
「そこにいるの、五匹くらいかしら」
「いや、向こうにもいるから、もっとだな。木の陰に隠れた奴がいるかも知れないから、そいつらが出て来たら結構な数になりそうだ」
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