手のひらサイズの紅竜は魔法使いに保護される

碧衣 奈美

文字の大きさ
44 / 82
第四話 土(ど)の魔珠

4-05.動物園

しおりを挟む
 幸い、エイクレッドが不調を訴えることはなく、無事に動物園へ着いた。
「昼メシ、どうする?」
 時計を見れば、もうすぐ一時だ。
「あたしね、サンドイッチ作って来たの」
「もしかして、ダウンジャケットだけじゃなくて弁当も入っているから、カバンが大きいのか?」
「まぁ、ね。今日は、一緒に来てくれたレシュウェルのために」
 今日は午前で授業が終わるため、昼休みというものがない。
 昨日の昼休みにお弁当を食べ終わってから、ルナーティアは今日の昼食をどうするかが抜けていたことに気付き、どうしようか迷った。
 でも、せっかくのお出掛けなのに、学校の食堂で腹ごしらえをしてから出発、というのも味気ない。
 園内のレストランか、行くまでにあるコンビニで何か買おうかと考えた時、行き先の環境に改めて気付いた。
 動物園なら、外でお弁当を広げている家族連れも多い。テーブルやベンチもあるし、周囲に気兼ねすることなく、ピクニック気分で食べられるのだ。
 滅多にしないくせに「色々と作ろう」などと張り切ったルナーティアだったが、あまり食事に時間をかけていられない。
 今回の目的は「エイクレッドに動物を見せること」なのだ。
 それなら、簡単に済ませられる方がいい。……ルナーティアも、気負って作らなくて済む。
 で、サンドイッチになったのだ。
 そういうことで、二人はまず食事をすることにした。
 動物園の横を流れる川べりに、食事ができるエリアがあったはず。園内の案内図で確認し、そちらへ移動した。
 その間にも、動物の檻のそばを通るのだが、エイクレッドはそれらに目を奪われている。言葉は出さないが、どんな気持ちで見ているのだろう。
 昼食時間を少し過ぎていたので、ぽつぽつと空いているベンチが見受けられる。なるたけ人が少ない場所を選んで座った。
「おいしそうだな。いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」
 二人はツナや玉子のサンドイッチをつまみ、エイクレッドはルナーティアがひざに広げたハンカチの上で、ゆでたささみやキャベツなどを食べる。
「ここの動物って、みんな閉じ込められてるの?」
「色々な地域の色々な動物を、一カ所に集めているからな。一緒にすると草食獣が肉食獣に食べられたりするし、動物によって暮らしやすい環境が違う。それぞれに適した状態になるように、分けられてるんだ。まぁ……閉じ込められてる、と言われたら、否定はできない」
「竜にしろ、魔獣や魔物にしろ、みんな自由だもんね。もしかしたら、エイクレッドには受け入れにくい部分があるかも。ただね、この世界にはこういう動物がいるんだよってことを教えてもらうには、いい場所なのよ。この後で回るけど、犬やねこ以外にこんな動物がいるっていうのを、エイクレッドに見せてあげられる訳だから」
 普段自由でいる竜から見れば、人間はとんでもなくひどいことをしているように見えるかも知れない。
「人間側の勝手な言い分としては、教育であったり研究するためであったりする。できる限り、ストレスがかからないように飼育されてるとは思うぞ」
 動物園の存在意義だの是非だのを竜と話し出したら、それだけで時間が過ぎてしまいそうだ。
 早々に食べ終えると、園内を回ることにする。
 ライオン、象、キリン、ゴリラなど、色々な動物の檻の前に止まっては、これはこういう動物で、とルナーティアが説明する。時々、レシュウェルが補足して。
 周囲に人がいる時は、おかしく思われないように看板の説明文を音読した。
「色々回ってるけど……気のせいかしら。動物達がみんな、あたし達の方を見ているような。ライオンやトラなんて、いつも寝そべってるイメージがあるのに、顔を上げてこっちを見るし」
 檻やガラスなど、動物達の力ではこちらへ来られないようにしてある、とわかっていても、じっと見詰められると怖い。これで牙をむかれたりしたら、後ずさってしまいそうだ。
「今更人間に見られて、気にする奴もいないだろう。みんな、エイクレッドの気配に気付いているからじゃないか?」
「ぼく? 何もしてないけど」
 レシュウェルの肩にいて、ただ眺めているだけだ。
「魔獣程でなくても、動物は人間より圧倒的に気配に敏感だからな。滅多に感じることのない気配に、誰もが気になっているんだ」
 今は魔力が減っていても、竜には違いない。人間にはわからなくても、動物ならその存在がはっきりわかるのだろう。
 小動物エリアのうさぎやヤギなど、少し数が多めの動物が全部こちらを向くと、攻撃するつもりがなくても、肉食獣とは違った怖さがある。
 特に、サル山のサルが一斉にこちらを向いた時は、どきりとした。
 それまで仲間同士で遊んでいたのに、ルナーティア達が近付くとこちらを凝視し、離れるまでずっと視線を向けられるのだ。
 そんな動物達の怖い部分も感じつつ、園内を巡る。
「エイクレッド、どう? この世界の、まだほんの一部でしかないけど」
「んー、ぼく達の世界にいる動物や魔界の生き物より、気配は薄いみたい。でも、命を感じることはできるよ。みんな、かわいいね」
 動物達にじっと見詰められたことについては、エイクレッドは気にしていないようだ。
 それに、竜本来の大きさからすれば「どの動物も小さくてかわいい」となるのだろう。
「俺達にすれば、今のエイクレッドもかわいいけどな」
「え? そう?」
 自分のサイズに、時々自覚がなくなるエイクレッドだった。
☆☆☆
 連日でデート……のような感じだが、日曜の逢瀬はかなり緊張が強いられるものとなる。
 イナリーの駅で待ち合わせ、ルナーティアはレシュウェルと合流した。
 行き先が、もう少し穏やかな場所ならなぁ。
 魔珠鏡の術が完成するまではそうもいかない、とわかっているが、昨日の動物園デート(メインはデートではないものの)が楽しかった分、ルナーティアはついそう思ってしまった。
 イナリーの駅で顔を合わせると、レシュウェルは人目につかない陰の方へとルナーティアを連れて行く。そこで、薄気はっきの魔法を自分達にかけた。
「ガイハケ ニウヨンラカワ ウスッウ レナ」
 魔法をかけるのはパラレル魔界の入口付近でもいいのだろうが、人の目というのはどこにあるかわからない。
 あの二人、前にも見たけど……? と思う人が絶対にいないとは言い切れないから、早めにかけておくのだ。
 この付近に住んでる子かしら、くらいに思ってくれればいいが、この前石碑の近くでうろうろしてたわね、などと覚えられていたら面倒である。
「これで、周りの人はあたし達のことを気にしなくなったの?」
 呪文を聞いているから、かけられたはず。でも、あまりなじみのない魔法だし、かけられた感覚がない。
「魔法が失敗してなければな。あと、いつまで効果が持続するかもわからないから、さっさと行くぞ」
 自分、または相手から触れられたりして認識されれば解けるようだが「何もなければどれくらいの時間まで魔法が続くのか」という点は、魔法書にも触れられていなかった。その辺りは術者の技量次第、という部分もあるのだろう。
「結界じゃないけど、もやみたいな感じだね」
「そうか。竜にはそう見えるんだな」
 竜には効かないのかと思ったが、今はエイクレッド込みで魔法をかけているから、魔法効果がそういう形で認識できるのだろう。
 パラレル魔界への入口となる、石碑の前まで来た。
 ここへ来るまでにすれ違う人が数人いたが、まるで誰もいないかのように歩き去る。普通でもこんな状態だったかも知れないが、その様子からするとこちらには意識が向いてないようだ。
 魔法の効果有り、と思ってもいいだろう。
 すれ違う人は、こちらの存在を意識していない。今は大丈夫だったが、次以降はぶつかられることがないように、歩くときは気を付けた方がいいだろう。
「ケラヒ チミ」
 レシュウェルが素早く呪文を唱え、ルナーティアの手を取って石の中へと入る。
 いつものように、石碑の中へ入ると途端に人工物が消え、山や草原などの自然が目に入った。
「よし、これなら次からも十分に使える」
 パラレル魔界へ入るところを、一般の人に見られたら。
 そのことを心配していたが、今後はこの魔法で気持ちをわずらわされることがなくなる。問題が一つ、解決した。
 それだけでも、思った通り、気が楽になる。
「ねぇ、ログバーンを呼んで、あたし達のことがわかるのかしら」
「呼ぶ声は聞こえるんだから、来てくれる。わからなければ、こちらから触れればいいんだ。ここにいるってことがわかれば、ログバーンなら触らなくても見破れるかもな」
 レシュウェルが、ログバーンを呼び出す呪文を唱える。そう時間をおくことなく、炎馬えんばは現れた。
「ログバーン、俺達がわかるか?」
「……姿がぼやけているな。言われなければ見過ごしそうだが。レシュウェル、本当にそこにいるのか」
 見えているのに、見えていないような、不思議な感覚らしい。
 完全に見破るとまではいかなくても、やはり魔獣は気配に敏感だ。人間なら気付かずに通り過ぎても、魔獣だとそうはいかない。
 お互いを見知っているから、なおさらわかりやすいのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

婚約破棄されたので、隠していた聖女の力で聖樹を咲かせてみました

Megumi
恋愛
偽聖女と蔑まれ、婚約破棄されたイザベラ。 「お前は地味で、暗くて、何の取り柄もない」 元婚約者である王子はそう言い放った。 十年間、寡黙な令嬢を演じ続けた彼女。 その沈黙には、理由があった。 その夜、王都を照らす奇跡の光。 枯れた聖樹が満開に咲き誇り、人々は囁いた。 「真の聖女が目覚めた」と——

『無関係ですって言ってるのに! ~婚約破棄の次の標的にされたので、王都から逃げました~』

鍛高譚
恋愛
「はぁ!? なんで私なの!? 私は無関係です!巻き込まないでください!」 突然の婚約破棄騒動の渦中で、傍観者のはずのミラージュ・ダッソーは、まさかの王子から“次の婚約者”に指名される。 断っても聞かない王子。どうしても巻き込まれる未来――そんなの嫌すぎる! 「……反逆?わかりました、では反逆者らしく追放されます」 そう言い放ち、自主的に王都から“逃亡”したミラージュ。 目指すのは自由と平穏な日々――だったのに、辿り着いた隣国では盗賊退治に巻き込まれ、元婚約者の陰謀の影まで迫ってきて……? これは、「巻き込まれたくない系ヒロイン」が、望まぬトラブルを切り抜けながら、自分の力で自由と安息を勝ち取っていく物語。 誰にも縛られない人生、手に入れてみせます! -

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...