手のひらサイズの紅竜は魔法使いに保護される

碧衣 奈美

文字の大きさ
53 / 82
第五話 金(ごん)の魔珠

5-03.新たな不安

しおりを挟む
「じゃ、シオンさんはどういう存在?」
 気を取り直して、聞いてみる。
「偉いお方がいたら、その下に世話したりする誰かがいるもんやろ? うちはそういうの。雑用係よりちょっと上、みたいな感じやね。神さんと思われてるお方の下にずっといるもんやから、うちまで神さんに近い扱いになってるけど。化けもんや言われて退治されたりしぃひんのやったら、うちらとしては何でもええねん」
 そう言って、シオンは笑う。
 神様のおつかい狐が、雑用係よりちょっと上って……。
 ルナーティアも同じように笑ったが、その顔は完全に引きつっていた。
(お互いの解釈は違うけど、要はウィンウィンってことか。……いや、どちらかと言えば、人間がうまく利用されてるって気がするぞ)
「シオンさん達にすれば、自分達を神としてあがめろって、強制した訳じゃないもんね。悪いものが来ないようにしてもらってることは事実みたいだし、それだけでもありがたいって思うべきなのかも」
 ルナーティアは、そう言って苦笑した。
 イナリー神社がそうなら、きっと他の所も似たようなものなのだろう。人間の思い込みも、怖いものである。
「イナリーの神様がエイクレッドの存在に気付くようになったってことは、学校へ行くまでの間にいる神様も気付いてるのかな。同じように、どういうことだって説明させられたりするかしら」
(イナリーは、ルナーティアが住んでいる所だからな。一つの場所にいる時間が長いから、気になったんだと思う。学校へ行くまでだと、ほとんど地下鉄に乗ってるだろ。すぐに通り過ぎるし、問い詰められるってことはないと思うけど)
 こればかりは、レシュウェルも断言はできない。相手は、人間が「神」と呼ぶ存在だ。どういう形でか、接触してくることはありえる。
 こちらが乗っているのが電車だろうが車だろうが、追いつくことは可能に違いない。追いつかなくても、後を追う術はきっと人間以上に知っているはず。
「ぼく、悪いことしてないのに」
 エイクレッドが、少し不服そうにつぶやく。
 やろうとしても、自由に動けないし、力もない。それなのに、警戒にも似た感じで見られてしまうのは、エイクレッドとしても不本意だ。
「うん、わかってるわよ、エイクレッド。あなたはいい子だもん」
(人間から神と呼ばれている存在が、いきなり襲って来ることはないだろ。気になれば、確認に来る。そんな感じだと思っていいんじゃないか?)
「そうね。シオンさんだって、びっくりさせてごめんって言ってくれたもん」
(それにしても、これから賽銭を入れていいのか、考えさせられるな)
 一生懸命お願いしても、それをかなえてくれない、守ってくれない。
 そうとわかって、お賽銭を入れる意味があるのだろうか。
「あ、あたしもそれをちらっと言ったの。そしたらね」
 似たようなことを考え、ルナーティアはシオン達はお賽銭を必要としていないのか、と尋ねてみた。
「うちらは人間のお金で生活してるんやないしねぇ。せやけどな、ここの敷地を整備してくれる人間には、あれこれ必要やろ。身の回りが汚いと、イナリーの神さんもここに愛想尽かして、どっか行かはるかも知れへんし。人間の世界ではやっぱり、先立つもんって大事や思うえ」
 敷地や設備を整備・保持するには、費用がかかる。整備してくれる人の給料もいる。だから、お金は必要、という訳だ。
(……はは、現実的な話だ)
 それを聞いて、レシュウェルが苦笑した。
(賽銭はともかくとして、たまの気まぐれでも肩入れしてもらえるよう、念を強くできるようにしないとな)
☆☆☆
 翌日の火曜日。
 レシュウェルはリクリスの授業を受けた後、教授の研究室を訪ねた。
 毎週、ルナーティアと共にパラレル魔界へ赴き、エイクレッドの力を回復させる術に必要な素材を収集しているが、次回はリクリスも同行することになっている。その打ち合わせだ。
「昨日、イナリーで……」
 必要かはわからないが、エイクレッドに関わることには違いない。
 レシュウェルは、ルナーティアから聞いた話をリクリスにした。
 ルナーティアから聞いた時のレシュウェルと同じく、リクリスも意外すぎる存在の出現に驚く。
「はあ……そういう存在があることは知っていたけれど、目の前に現れるなんてことがあるんだね」
「もしかすると、聞かない方がよかったかも知れない情報も、あれこれと」
 その話を聞いて、リクリスは苦笑する。
「神様は人間の思い込み、かぁ。厳しいね」
 この話を聞くと、誰もが苦笑するしかないようだ。
「神様の話はともかくとして。エイクレッドの回復が諸刃もろはの剣になりつつある、ということになるのかな」
「諸刃、ですか?」
「ルナーティアに確認しに来るまでに、竜のような何かがいるぞってことが感じられた訳だよね。今回は現れたのが神獣だからよかったけれど、そうじゃない誰かも気付く可能性が高くなった」
「ギルードルみたいな奴が……ってことですか」
 レシュウェルの言葉に、リクリスがうなずいた。
 ギルードルはエイクレッドの心臓を狙って現れた、パラレル魔界にいるイタチの魔性。リクリスが一緒に魔界へ行くことになった根源だ。
 恐らくは、たまたま近くを通りかかったのであろう時、エイクレッドの存在に気付き、本当に竜なら喰ってやろうと襲って来た。
 また現れるのでは考えてアンテナを張り、それに引っ掛かったのでまた襲って来たのだ。
 パラレル魔界へ行くのは、次の日曜日。ギルードルがエイクレッドを襲おうとしてから、一週間だ。
 その間も、エイクレッドは少しでも魔力を回復させるため、魔果を食べている。これが実際に効果があり、シオン達はエイクレッドの存在に気付いた。
 次にパラレル魔界へ行った時。たまたまではなく、多少遠くにいても敏感に感じ取る魔物や魔性がいたら。
 ギルードルと同じように、エイクレッドを狙って他の魔物達が襲って来る可能性が出て来るのだ。
 リクリスが言う諸刃の剣は、エイクレッドが回復する一方でこういった魔物に狙われやすくなる、ということ。
 それは同時に、一緒にいるルナーティアやレシュウェルに危険が及ぶ、ということでもある。
 いくらエイクレッドが竜で、わずかでも魔力が回復しつつあると言っても、その力はあまりに心もとない。
 今の、エイクレッドだけでは襲って来る魔物に対処できないし、攻撃を阻止しようとするレシュウェルやルナーティアを「邪魔者」と認識されれば……。
「知能が高い魔物や魔性は、人間を襲えば魔法使いに拘束、もしくは消滅させられる危険があることを知っている。それでも、対象が竜の力だとなれば、そんなリスクは無視することもありえるね。竜の力が自分のものになれば、魔法使いが束になってかかって来ても簡単に蹴散らせる。そう考えたりすれば、強引に仕掛ける場合も考えられるよ。パラレル魔界なら、なおさらだね」
 本当に強い魔力と高い知力がある魔性なら、竜の力を取り込むことがどれだけ危険かを冷静に判断し、エイクレッドの前に現れることはまずない。
 問題は、中途半端な魔力と知力があるタイプ。自分なら大丈夫、と過大評価しがちになるので厄介なのだ。
「とりあえず、イナリーの神の力が及ぶ範囲であれば、ルナーティアもエイクレッドも大丈夫だと思います。パラレル魔界では一人になることがまずないから、対応できるとして……今の問題は、イナリーから出て学校へ来るまでの間ですね」
 リクリスが言うように、強引にエイクレッドの力を奪ってやろうと考える魔物であれば。
 ルナーティアが満員の地下鉄に乗っていようが、人通りの多い道を歩いている時だろうが、構わないで襲って来るだろう。
 魔物にとって、魔力のない、もしくは弱い人間など、踏みつぶしても全く心が痛まない存在なのだ。
 他の人間が多すぎて邪魔だと思えば、駅から学校の間に狙う、ということも考えられる。
「こういう特殊なことがありましたって話をしたつもりだったんですが、思ったよりよくない傾向だったんですね」
 神獣が現実に現れてびっくり、で終わる話だと思っていたのに。
 思った以上に、事態は深刻だった。
「だけど、気付かせてもらえてよかったよ。もしもその神獣が現れなかったら、ぼく達はルナーティアやエイクレッドがこちらの世界で襲われる可能性に考えが至らなかったからね」
 危険を突きつけられたが、おかげで警戒するきっかけになった。悪いことばかりではない、と考えるべきだ。
「これからどうしましょうか」
 危険かも知れない、とわかった。それが取り越し苦労であったとしても、手をこまねいてはいられない。
「魔物の攻撃は、結界を張ればほぼ防ぐことは可能だけど、それだけじゃねぇ。かと言って、弱いと言っても竜の力だし、ぼく達の力では隠せない。んー……」
 人間の、つまりルナーティアの存在なら、隠すことはできる。だが、それが竜とあっては、どうしたって隠しきれない。
 存在が特殊すぎるのだ。どんなに弱い力であっても。
「隠せないなら、来た時に迎え撃つしかないですね」
 どんな存在が現れるかもわからないのに、強気なレシュウェルの発言だ。
 しかし、リクリスも苦い表情を浮かべながら、小さくうなずくしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪

naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。 「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」 そして、目的地まで運ばれて着いてみると……… 「はて?修道院がありませんわ?」 why!? えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって? どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!! ※ジャンルをファンタジーに変更しました。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

異世界異話 天使降臨

yahimoti
ファンタジー
空から天使が降って来た。 落ちたんだよ。転生かと思ったらいきなりゲームの世界「ロストヒストリーワールド」の設定をもとにしたような剣と魔法の世界にね。 それも面白がってちょっとだけ設定してみたキャラメイクのせいで天使族って。こんなのどうすんの?なんの目的もなければ何をしていいかわからないまま、巻き込まれるままにストーリーは進んでいく。

【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。 クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

二度目だから容赦なし!元聖女のやり直し冒険記

ゆう
ファンタジー
金曜の夜。仕事を終えた私は、最寄り駅から自宅までの道を歩いていた。 今日も残業。クタクタだ。 だけど、コンビニで買った缶ビールがカバンに入っていると思うと、それだけで足取りが少し軽くなる。 (あー早く帰ってシャワー浴びて、ぐいっといきたい……!) そんなことを考えながら信号を渡ろうとした時だった。 よくある召喚ものです。 カクヨム様で柊ゆうり名義で公開していたものをリメイクしつつ公開します。 完結していないので、完結は同じとこに落ち着く予定ですが中は修正しつつ公開します。 恋愛…になかなかならない、、むしろ冒険ものに、、、 ファンタジーに変えました(涙) どうぞよろしくお願いします。 ※本作は、他投稿サイト(カクヨム様/小説家になろう様)にも掲載しています。 他サイトでは一部表現や構成を調整した改稿版を公開しています。

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

『婚約もしていないのに婚約破棄ですか? 〜岩塩で殴れば目が覚めます?〜』

しおしお
恋愛
「岩を売る田舎娘と婚約?そんなもの破棄だ!」 ――そう言い放ったのは、まだ婚約すら成立していないのに“婚約破棄”を宣言した内陸王国の王太子。 塩は海から来るもの。 白く精製された粉こそ本物。 岩塩など不純物の塊に過ぎない。 そう思い込んだ彼は、ハライト公国公爵令嬢ヴィエリチカを侮辱し、交易を軽んじた。 だが―― 王都に届くその“白い粉”は、すべてハライト産の岩塩から精製されたものだった。 供給が止まった瞬間、王国は気づく。 塩は保存であり、兵站であり、治療であり、冬越しの生命線であったことを。 謝罪の席で提示された条件はただ一つ。 民への販売価格は据え置き。 だが国家は十倍で買い取ること。 誇りを守るために契約を受け入れた王太子。 守られたのは民。 削られたのは国家。 やがて赤字は膨らみ、担保は差し出され、王国は静かに編入されていく。 処刑はない。 復讐もない。 あるのは――帰結。 「塩は、穢れを流すためのものです」 笑顔で告げるヴィエリチカと、 王宮衛生管理局へ配属された元王太子。 これは、岩塩を侮った物語の、静かな終着点。 --- もしアルファポリス向けにもう少し軽くする版も欲しければ、作ります。 それとも、 ・タグもまとめる? ・もっと煽る版にする? ・文学寄りにする? どの方向で仕上げますか?

処理中です...