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第六話 水(すい)の魔珠
6-06.あいつら
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このぶどう石の周囲にはプランクトンが発生しやすく、それを求めて川の魚が集まって来る。
パラレル魔界においても食物連鎖は有効で、その魚を狙った獣や鳥が集まって来るのだ。
この石を探す時は、こういった獣や鳥を探すのが近道である。もちろん、これらはほとんどが魔物なので、注意が必要だ。
この周囲にいる鳥で多いのは、銛鳥という種類。くちばしが名前の通り銛のようになっていて、人間がする漁のように水中の魚を突き刺すのだ。
その時、水に飛び込んだ時の勢いで、くちばしの先がぶどう石に当たることが多い。銛鳥のくちばしは丈夫なのでなんともないが、ぶどう石は割れやすいので、その衝撃で割れたりひびが入ることがよくある。
ぶどう石が大きく育たないのは、この鳥が原因になっていることがほとんどのようだ。
「できるなら、獣より銛鳥がいる辺りを狙いたいんだ。彼らは魚しか興味がないから、石を探しやすい。獣だと、その種族によっては一悶着起こりそうだから、避けたいんだよね」
なので、リクリスは銛鳥が飛んでいるところを探し、周囲に別の獣が徘徊していないかを確認するために、双眼鏡で見ているのだ。
しばらくそうやって探していたリクリスだが、鳥の姿を発見した。白い羽に覆われた、サギのような鳥が二羽。くちばしが長く鋭いから、間違いない。
ルナーティア達は、そちらへ向かった。
川幅は広い所で五十メートルは軽く超えそうだが、今いる場所は少しだけ狭い。とは言っても、三十メートルはありそうだ。
鳥達が狙っている辺りは、川岸からそんなに遠くない場所だった。その辺りにぶどう石があるなら、こちらとしても助かる。
「食事中、悪いな」
言いながら、レシュウェルは自分の立っている地点から、川の中へ向かって長方形の結界を張った。これが舞台なら、ランウェイができたような形だ。
銛鳥が狙っていたエリアを含んで張った結界により、川の水が一部遮断される。結界によるダムを造ったのだ。
川幅全てをせき止めた訳ではないので、川の水はレシュウェルの結界を迂回するようにして流れてゆく。
しばらくすると、水が流れなくなった部分の川底が見えてきた。当たり前だが、人間界の川のようなゴミはない。
ただ、人間界にはない色の、コケむした大小の石が転がっていた。そんな石や砂の上で、逃げ遅れた魚がはねている。パラレル魔界では珍しく、人間界と同じようなサイズの魚だ。鮎より少し大きいくらいか。
水という障害物がなくなって獲物の姿がわかりやすくなり、銛鳥がはねている魚を狙って急降下してきた。
だが、突然バランスを崩して空へと押し上げられる。リクリスが風を起こし、鳥を押し戻したのだ。
銛鳥が魚を狙うのは構わないのだが、その勢いでそばにあるぶどう石が割れたりしては困る。魚の姿がしっかり見えるようになったとしても、わざわざぶどう石をよけて漁をしよう、とはならないだろう。
さらに言えば、鳥側に狙う気がなくても、人間に危害を加えられてはたまらない。鋭いくちばしは、かすっただけでも相当なダメージになる。
なので、銛鳥達にはしばらく空中で強制的に待機願う、という訳だ。
その間に、レシュウェルがぶどう石を探す、という寸法。
二人はここへ来る前に、こういう連携を取ることを決めておいたのだ。ルナーティアにも、だいたいのことは話してある。
川の水や石は、触れても特に問題はない。それならと、ルナーティアも川へ入って石を探す。目は少しでも多い方がいい。
それに、結界があるエリアだけは水がない状態だから、ぬれることを気にしなくて済む。
もちろん、エイクレッドもルナーティアの肩に乗った状態で、周囲に目をこらした。
炎馬達は、水がなくなったとは言っても川へ入るのは抵抗があるようで、岸から自分達が見える範囲で探してくれている。
「ルナーティア、すべりやすいから足下に気を付けろよ」
「うん。水があった時はよく見えなかったけど……パラレル魔界の川底ってカラフルなのねぇ」
特に問題はない、と言っても、緑以外の色をしたコケがあると不気味だ。黒や茶色ならまだありえそうだが、白や黄色など、花でもないのに妙にきれいなものもある。
これだけならいいが、それらの色が混在して転がっていると、全くきれいに思えないから妙なもの。赤い色のコケなど、鮮やかすぎて何となく血の色みたいに見えるので怖い。
だが、ぶどう石は紫色だから、赤系統の色を無視する訳にもいかないのだ。
「あ、ねぇ。ルナーティア、あれは?」
リクリスが何度か銛鳥を風で阻んでいる中、エイクレッドが小さな前脚をある方向へ伸ばした。
ルナーティアがそちらを見ると、緑のコケの中にこっそり隠れるようにして、わずかに紫色が見える。いかにもそれっぽい。
レシュウェルも、エイクレッドの声に気付いてこちらへ来た。
問題はない、と言ってもあまりコケに触りたくないルナーティアは、レシュウェルが確かめてくれるのをそばで見るだけにする。
「エイクレッド、お手柄だ」
確かに、それはぶどう石だった。
二粒だけの小さなものではあったが、サイズは構わない。
素材が全部そろって、最終的に水の珠が作れればいいのだから。
レシュウェルはルナーティアに渡されたビニール袋に、今見付けたぶどう石を入れ、しっかり口を縛った袋をさらに別の袋の中へ入れた。
それを持ち、二人は急いで岸へ戻る。川の上空を飛び回っていた鳥達を遠ざけていたリクリスは、二人が完全に岸へ上がったことを確認すると、風を起こすのをやめた。
自分達の行く手を阻むものがなくなった途端、銛鳥は弱り始めた魚へと急降下する。魚をその鋭いくちばしに刺して空へ戻るのを見てから、レシュウェルは結界を解いた。
岸へ戻ってすぐでもよかったのだが、食事の邪魔をしたことへのちょっとしたお詫びのつもりだ。きっと銛鳥は、邪魔されたことも、気を遣ってもらったこともわかっていないだろうが。
結界が消えて、川の水が再び流れ始めた。
「あの鳥達、結構強い力だね。わずかな風だと、ものともしないで突っ込んで来そうだったよ」
ルナーティアは特に考えずに石探しに回ったが、風を起こす係だったら負けていたかも知れない。リクリスにしてもらっていて、正解だ。
こうして無事に一つ目を手に入れ、次へ向かおうと炎馬達の方へ歩きかけた時。
ログバーンとディージュが、同時に川の方を見た。その動きに、三人とエイクレッドも、振り返ってそちらへ視線を移す。
「え、何……あれ」
ルナーティアがレシュウェルにしがみつく。
川の中央に、水面から魚が顔を出しているのが見えたのだ。とは言っても、銛鳥が狙っていたような、普通の川魚サイズではない。
岸から多少の距離はあるが、人間の頭より大きいだろうと思われる。水面から出ているのはえらの辺りまでだが、全身が現れたらどれだけのサイズになるのだろう。
しかも、現れているのは三匹。形は人間界にもいるような川魚のようだが、詳しい種類はわからない。
いや、その種類が何であれ、やはり問題はその大きさだ。
マグロなどのように、人間と同じかそれ以上に大きい魚は探せばいくらでも存在するが、パラレル魔界においてはあのサイズでも怖いし危険だ。
攻撃する気でいるのなら、なおさら。
炎馬が見るくらいだから、あまり相手にしたくないタイプのはずだ。
その魚達が、いきなりルナーティア達に向けて水を吐きかけてきた。
太い槍のような水がこちらへめがけて飛んできたのを見て、レシュウェルとリクリスが防御の壁を出す。その壁に当たって、水は飛び散った。
「あいつらじゃないのか?」
見間違い、聞き間違いでなければ……魚がしゃべった。
低い男の声だ。滑舌はあまりよくないが、確かにそう言った。
「たぶん、そうだな」
別の魚が言う。さらには、その魚達がゆっくりと水から出て来た。
顔が大きいので身体も相当では、と思っていたが、全体的に大型犬サイズといったところか。
しかし、顔が大きいし、ひどくアンバランスだ。しかも、現れたその身体には、人間のものに近い形の足が二本ある。足だけ、なぜか肌色。
「魚って、足あったっけ?」
「人間界の魚にはないわよ、エイクレッド」
答えるルナーティアの声は、かすかに震えていた。
魚ならマグロの方が大きい、とかそんな問題ではない。しゃべって歩く魚なんて、ひたすら不気味なだけ。
それが、水から出て来たのだ。これだと、魚と言うより両生類に近い。半魚人と呼ぶには、身体のほとんどが魚だ。変なオブジェみたいに見える。
「レシュウェル、ルナーティア。ログバーンに乗って。ここを離れるよ」
リクリスが、冷静な声で指示する。
それを聞いて、レシュウェルがログバーンに飛び乗った。それからすぐに、ルナーティアの手を掴んで引き上げる。
自分の背に収まったと認識した途端、ログバーンは地を蹴った。リクリスを乗せたディージュも、一瞬早く飛んでいる。
現れた魚達は、さっきのようにまた水を吐きかけようとするが、一気に上昇した炎馬までは届かない。
それでも、ルナーティアは怖くて下を確認できなかった。
パラレル魔界においても食物連鎖は有効で、その魚を狙った獣や鳥が集まって来るのだ。
この石を探す時は、こういった獣や鳥を探すのが近道である。もちろん、これらはほとんどが魔物なので、注意が必要だ。
この周囲にいる鳥で多いのは、銛鳥という種類。くちばしが名前の通り銛のようになっていて、人間がする漁のように水中の魚を突き刺すのだ。
その時、水に飛び込んだ時の勢いで、くちばしの先がぶどう石に当たることが多い。銛鳥のくちばしは丈夫なのでなんともないが、ぶどう石は割れやすいので、その衝撃で割れたりひびが入ることがよくある。
ぶどう石が大きく育たないのは、この鳥が原因になっていることがほとんどのようだ。
「できるなら、獣より銛鳥がいる辺りを狙いたいんだ。彼らは魚しか興味がないから、石を探しやすい。獣だと、その種族によっては一悶着起こりそうだから、避けたいんだよね」
なので、リクリスは銛鳥が飛んでいるところを探し、周囲に別の獣が徘徊していないかを確認するために、双眼鏡で見ているのだ。
しばらくそうやって探していたリクリスだが、鳥の姿を発見した。白い羽に覆われた、サギのような鳥が二羽。くちばしが長く鋭いから、間違いない。
ルナーティア達は、そちらへ向かった。
川幅は広い所で五十メートルは軽く超えそうだが、今いる場所は少しだけ狭い。とは言っても、三十メートルはありそうだ。
鳥達が狙っている辺りは、川岸からそんなに遠くない場所だった。その辺りにぶどう石があるなら、こちらとしても助かる。
「食事中、悪いな」
言いながら、レシュウェルは自分の立っている地点から、川の中へ向かって長方形の結界を張った。これが舞台なら、ランウェイができたような形だ。
銛鳥が狙っていたエリアを含んで張った結界により、川の水が一部遮断される。結界によるダムを造ったのだ。
川幅全てをせき止めた訳ではないので、川の水はレシュウェルの結界を迂回するようにして流れてゆく。
しばらくすると、水が流れなくなった部分の川底が見えてきた。当たり前だが、人間界の川のようなゴミはない。
ただ、人間界にはない色の、コケむした大小の石が転がっていた。そんな石や砂の上で、逃げ遅れた魚がはねている。パラレル魔界では珍しく、人間界と同じようなサイズの魚だ。鮎より少し大きいくらいか。
水という障害物がなくなって獲物の姿がわかりやすくなり、銛鳥がはねている魚を狙って急降下してきた。
だが、突然バランスを崩して空へと押し上げられる。リクリスが風を起こし、鳥を押し戻したのだ。
銛鳥が魚を狙うのは構わないのだが、その勢いでそばにあるぶどう石が割れたりしては困る。魚の姿がしっかり見えるようになったとしても、わざわざぶどう石をよけて漁をしよう、とはならないだろう。
さらに言えば、鳥側に狙う気がなくても、人間に危害を加えられてはたまらない。鋭いくちばしは、かすっただけでも相当なダメージになる。
なので、銛鳥達にはしばらく空中で強制的に待機願う、という訳だ。
その間に、レシュウェルがぶどう石を探す、という寸法。
二人はここへ来る前に、こういう連携を取ることを決めておいたのだ。ルナーティアにも、だいたいのことは話してある。
川の水や石は、触れても特に問題はない。それならと、ルナーティアも川へ入って石を探す。目は少しでも多い方がいい。
それに、結界があるエリアだけは水がない状態だから、ぬれることを気にしなくて済む。
もちろん、エイクレッドもルナーティアの肩に乗った状態で、周囲に目をこらした。
炎馬達は、水がなくなったとは言っても川へ入るのは抵抗があるようで、岸から自分達が見える範囲で探してくれている。
「ルナーティア、すべりやすいから足下に気を付けろよ」
「うん。水があった時はよく見えなかったけど……パラレル魔界の川底ってカラフルなのねぇ」
特に問題はない、と言っても、緑以外の色をしたコケがあると不気味だ。黒や茶色ならまだありえそうだが、白や黄色など、花でもないのに妙にきれいなものもある。
これだけならいいが、それらの色が混在して転がっていると、全くきれいに思えないから妙なもの。赤い色のコケなど、鮮やかすぎて何となく血の色みたいに見えるので怖い。
だが、ぶどう石は紫色だから、赤系統の色を無視する訳にもいかないのだ。
「あ、ねぇ。ルナーティア、あれは?」
リクリスが何度か銛鳥を風で阻んでいる中、エイクレッドが小さな前脚をある方向へ伸ばした。
ルナーティアがそちらを見ると、緑のコケの中にこっそり隠れるようにして、わずかに紫色が見える。いかにもそれっぽい。
レシュウェルも、エイクレッドの声に気付いてこちらへ来た。
問題はない、と言ってもあまりコケに触りたくないルナーティアは、レシュウェルが確かめてくれるのをそばで見るだけにする。
「エイクレッド、お手柄だ」
確かに、それはぶどう石だった。
二粒だけの小さなものではあったが、サイズは構わない。
素材が全部そろって、最終的に水の珠が作れればいいのだから。
レシュウェルはルナーティアに渡されたビニール袋に、今見付けたぶどう石を入れ、しっかり口を縛った袋をさらに別の袋の中へ入れた。
それを持ち、二人は急いで岸へ戻る。川の上空を飛び回っていた鳥達を遠ざけていたリクリスは、二人が完全に岸へ上がったことを確認すると、風を起こすのをやめた。
自分達の行く手を阻むものがなくなった途端、銛鳥は弱り始めた魚へと急降下する。魚をその鋭いくちばしに刺して空へ戻るのを見てから、レシュウェルは結界を解いた。
岸へ戻ってすぐでもよかったのだが、食事の邪魔をしたことへのちょっとしたお詫びのつもりだ。きっと銛鳥は、邪魔されたことも、気を遣ってもらったこともわかっていないだろうが。
結界が消えて、川の水が再び流れ始めた。
「あの鳥達、結構強い力だね。わずかな風だと、ものともしないで突っ込んで来そうだったよ」
ルナーティアは特に考えずに石探しに回ったが、風を起こす係だったら負けていたかも知れない。リクリスにしてもらっていて、正解だ。
こうして無事に一つ目を手に入れ、次へ向かおうと炎馬達の方へ歩きかけた時。
ログバーンとディージュが、同時に川の方を見た。その動きに、三人とエイクレッドも、振り返ってそちらへ視線を移す。
「え、何……あれ」
ルナーティアがレシュウェルにしがみつく。
川の中央に、水面から魚が顔を出しているのが見えたのだ。とは言っても、銛鳥が狙っていたような、普通の川魚サイズではない。
岸から多少の距離はあるが、人間の頭より大きいだろうと思われる。水面から出ているのはえらの辺りまでだが、全身が現れたらどれだけのサイズになるのだろう。
しかも、現れているのは三匹。形は人間界にもいるような川魚のようだが、詳しい種類はわからない。
いや、その種類が何であれ、やはり問題はその大きさだ。
マグロなどのように、人間と同じかそれ以上に大きい魚は探せばいくらでも存在するが、パラレル魔界においてはあのサイズでも怖いし危険だ。
攻撃する気でいるのなら、なおさら。
炎馬が見るくらいだから、あまり相手にしたくないタイプのはずだ。
その魚達が、いきなりルナーティア達に向けて水を吐きかけてきた。
太い槍のような水がこちらへめがけて飛んできたのを見て、レシュウェルとリクリスが防御の壁を出す。その壁に当たって、水は飛び散った。
「あいつらじゃないのか?」
見間違い、聞き間違いでなければ……魚がしゃべった。
低い男の声だ。滑舌はあまりよくないが、確かにそう言った。
「たぶん、そうだな」
別の魚が言う。さらには、その魚達がゆっくりと水から出て来た。
顔が大きいので身体も相当では、と思っていたが、全体的に大型犬サイズといったところか。
しかし、顔が大きいし、ひどくアンバランスだ。しかも、現れたその身体には、人間のものに近い形の足が二本ある。足だけ、なぜか肌色。
「魚って、足あったっけ?」
「人間界の魚にはないわよ、エイクレッド」
答えるルナーティアの声は、かすかに震えていた。
魚ならマグロの方が大きい、とかそんな問題ではない。しゃべって歩く魚なんて、ひたすら不気味なだけ。
それが、水から出て来たのだ。これだと、魚と言うより両生類に近い。半魚人と呼ぶには、身体のほとんどが魚だ。変なオブジェみたいに見える。
「レシュウェル、ルナーティア。ログバーンに乗って。ここを離れるよ」
リクリスが、冷静な声で指示する。
それを聞いて、レシュウェルがログバーンに飛び乗った。それからすぐに、ルナーティアの手を掴んで引き上げる。
自分の背に収まったと認識した途端、ログバーンは地を蹴った。リクリスを乗せたディージュも、一瞬早く飛んでいる。
現れた魚達は、さっきのようにまた水を吐きかけようとするが、一気に上昇した炎馬までは届かない。
それでも、ルナーティアは怖くて下を確認できなかった。
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