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4 The advent of the past
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春風が咲き誇る花を散らす。風はオーレリアの髪も舞い上げた。
アルマンゾの低い囁きは、否応無しに彼女を過去へ誘う。オーレリアは必死に心の動揺を抑えた。アルマンゾはそんなオーレリアに追い打ちをかける。
「オーレリア嬢は我が保護し貰い受けよう。この国から彼女は出さない……いいな」
アルマンゾは、そこに居る者達に宣言をしオーレリアに手を差し出す。
彼女はアルマンゾの手を見つめる。この手を取らないとこの場はどうにもならないのか……。震えながらアルマンゾの手を取ろうとした。
だが次の瞬間テリウスが動いた。強い力でオーレリアを後ろに引き寄せ直ぐ様背に隠した。テリウスは無表情でアルマンゾを見た。そして自分の腰の剣に手をさり気なくかける。
オーレリアに緊張が走った。止めるようにテリウスをの名を呟く。
「テリー……」
「ーー」
テリウスは黙ったままだ。微動もしない。オーレリアを背に隠したままでいる。そして今度はザカリーが動く。アルマンゾの前へ出ると跪いたのだ。そのまま静かに話しを始めた。
「大公閣下、閣下の意向はわかりました。……姉は一旦モンファで預かります」
ザカリーは言い終えると深々と頭を下げる。オーレリアは衝撃を受ける。主君でもないアルマンゾに伯爵であるザカリーが跪くなど本来ではあり得ない。
「……わたしのところでは不都合か?国から追い出されるよりいいだろう?それに五年前本来ならばわたしの処・に来るはずだったのだから」
アルマンゾは目を細めザカリーを見下ろした。淡々とした口調だががそこには嘲りも窺える。
「閣下、姉はモンファで引き取ります」
ザカリーはアルマンゾの問に答えることはなく更に深く頭を下げる。先程の言葉を繰り返した。だが跪いたザカリーの手には拳が作られていた。オーレリアは動揺しながらもそれを見逃さなかった。
彼女は自分が情けなかった。ザカリーに頭を下げさせいつもこの男に翻弄させられる。
「ザカリーの言う通り、わたくし閣下とは参りません。一旦モンファ辺境伯にお世話になります。……わたくしはこの国の王・の臣下……。陛下のお言葉には逆らえません。異論がございましたら、陛下にお話し下さいませ……」
オーレリアは、楚々とした様子で言葉を紡いだ。そしてテリウスの後ろから横にずれる。テリウスは、オーレリアの方を振り返り眉間に皺を寄せた。彼女はテリウスを横目で見た後でゆっくりと腰を折る。
オーレリアは自分で言いながら他人が言っているように聞こえた。五年前の彼女だったら立っていることさえままならなかっただろう。アルマンゾの下へはけして行かない。そして主君だけに跪くであろう伯爵であるザカリーが自分を庇う為に跪く。オーレリアには全てが耐え難いことだ。
彼女の言葉を聞くとアルマンゾはあっさりと差し出した手を引っ込めた。
「そうか……。そうだった。オーレリア――王に忠誠を誓ったと言っていたな……。昔から――。貴女を追い出して、王が后を娶ることに何も思わないか?」
「……」
彼女は何も答えずに顔を上げアルマンゾを見返す。緑色の瞳はいつの間にか深い色に変わっていた。深い緑色の瞳――。オーレリアは感情が高ぶると瞳の色が濃くなる。それに気づいたアルマンゾはニヤリと笑う。
「では、王に正式な書状を出そう。オーレリアがそう言うなら」
今までの横柄な態度とは違い直ぐに引き下がった。それに驚いている者もいたが、オーレリアは薄々感じていた。彼女は、否応なしにアルマンゾの性格を知っている。人を挑発し、相手が自分にどんな態度をとるか弄ぶ―――王のアイゼルに逆らう気ならもっと前に行動を起こしているはず。いつまでも過去に囚われアルマンゾに振り回される自分に又もや嫌気がさした。
ザカリーとテリウスも薄々それは分かった。たが用心をして低姿勢で準じた。アルマンゾとて国境を預かり傭兵を抱えているモンファを怒らせたくないはずだと踏んでいた。だが何処までも何を考え何を企てているのか分からないのがアルマンゾだ。
アルマンゾに早く引き取って欲しかった宰相のフォルケイ公爵は書状を認めて貰えば王に直ぐ様届けると口を挟んだ。
あからさまな宰相のフォルケイ公爵の態度にアルマンゾは鼻で笑う。
「オーレリアまたな」
一言だけ言うと供の者を連れて踵を返す。オーレリアはアルマンゾから目を逸らすことはなかった。逸らせばそのまま卒倒してしまいそうだった。
今まで一言も喋らずにいたコライス伯爵夫人がオーレリアを見て言葉を投げつけた。
「今度は王でなく大公閣下ですか?あの方も私生児、セルバの奴隷の血を引いている。あの紫の瞳はその証ですわ。でもお似合いですわね」
オーレリアへの侮辱をコライス伯爵夫人がザカリーの前でしたのは初めてだった。自分が乳母をしていた王アイゼルを軽んじているアルマンゾへの鬱憤をオーレリアにぶつけた。
「コライス伯爵夫人口がすぎます。姉への侮辱は許さない」
ザカリーはコライス伯爵夫人に厳しい言葉を浴びせる。オーレリアはどうでも良かった。もう彼女の精神は限界を迎えていた。そしてその場に崩れ落ちる。
周りで何か言っているが彼女には遠くのざわめきのように聞こえた。崩れ落ちた自分に手を差し伸べるザカリーにたいして彼女は呟いた。それだけしかオーレリアにはもう気力が残っていなかった。
「ザカリー早く行きましょう……」
ギーと軋む木戸の音が響く。深く帽子を被った男が慌てた様子で入って来た。
「リアは大丈夫か?」
「……あんたか、あんたが詰めが甘いから、こんな事になっている」
薄暗い部屋の片隅で椅子に座りその男を一瞥する。それはオーレリアの弟ザカリーだ。弟に一言だけ呟き意識を無くしそのまま発熱したオーレリアに付き添っていた。
意識が半日戻らない。ここは王都にあるモンファの別邸だ。
ザカリーにその男を尚且つ睨みつける。
「……すまない、言い訳はしない。でリアの様子は?」
「離宮で意識を失ってから微熱が続いている。医者は疲れからだと言っていた。時折りうわ言を言う」
その男は帽子を脱ぎ熱でうなされているオーレリアの傍らに座った。
彼女をその男に一旦任せ、ザカリーはテリウスを呼びに部屋を出た。
オーレリアは密かな人の気配を感じる。
声をひそめた会話が聞こえる。でも瞼は重く目を開けられない。
瞼に何かが触れる。頬にも鼻先にも……。微かに慣れ親しんだ香り――。オーレリアは薄く目を開けると見えるヘーゼル色の髪。
彼女の頭の中にしまい込んでいた過去が溢れ出す。
『オーレリアもっと乱れろ、俺に身を任て啼け』
忌々しい思い出したくない声が蘇る。彼女は拒絶の言葉を発した。
「いやっ、やめてっ、わたしに触らないで」
固く目を瞑り叫びながら手足をバタつかせた。
「オーレリア!暴れるな、大丈夫だ」
「リア、……大丈夫だ、しー、いい子だ」
その男は暴れるオーレリアを抱き込む。そして言い聞かせるよう呟く。オーレリアは大きく息を吸いまた眠りに落ちた。
男は安心したように溜息をつく。オーレリアの上掛けを直し腰を下ろした。
「リア、済まない……。俺のせいだなーー、いつも貴女を守れない。許してくれ」
眠っているオーレリアの傍らで男は、贖罪しょくざいの言葉を吐いた。
アルマンゾの低い囁きは、否応無しに彼女を過去へ誘う。オーレリアは必死に心の動揺を抑えた。アルマンゾはそんなオーレリアに追い打ちをかける。
「オーレリア嬢は我が保護し貰い受けよう。この国から彼女は出さない……いいな」
アルマンゾは、そこに居る者達に宣言をしオーレリアに手を差し出す。
彼女はアルマンゾの手を見つめる。この手を取らないとこの場はどうにもならないのか……。震えながらアルマンゾの手を取ろうとした。
だが次の瞬間テリウスが動いた。強い力でオーレリアを後ろに引き寄せ直ぐ様背に隠した。テリウスは無表情でアルマンゾを見た。そして自分の腰の剣に手をさり気なくかける。
オーレリアに緊張が走った。止めるようにテリウスをの名を呟く。
「テリー……」
「ーー」
テリウスは黙ったままだ。微動もしない。オーレリアを背に隠したままでいる。そして今度はザカリーが動く。アルマンゾの前へ出ると跪いたのだ。そのまま静かに話しを始めた。
「大公閣下、閣下の意向はわかりました。……姉は一旦モンファで預かります」
ザカリーは言い終えると深々と頭を下げる。オーレリアは衝撃を受ける。主君でもないアルマンゾに伯爵であるザカリーが跪くなど本来ではあり得ない。
「……わたしのところでは不都合か?国から追い出されるよりいいだろう?それに五年前本来ならばわたしの処・に来るはずだったのだから」
アルマンゾは目を細めザカリーを見下ろした。淡々とした口調だががそこには嘲りも窺える。
「閣下、姉はモンファで引き取ります」
ザカリーはアルマンゾの問に答えることはなく更に深く頭を下げる。先程の言葉を繰り返した。だが跪いたザカリーの手には拳が作られていた。オーレリアは動揺しながらもそれを見逃さなかった。
彼女は自分が情けなかった。ザカリーに頭を下げさせいつもこの男に翻弄させられる。
「ザカリーの言う通り、わたくし閣下とは参りません。一旦モンファ辺境伯にお世話になります。……わたくしはこの国の王・の臣下……。陛下のお言葉には逆らえません。異論がございましたら、陛下にお話し下さいませ……」
オーレリアは、楚々とした様子で言葉を紡いだ。そしてテリウスの後ろから横にずれる。テリウスは、オーレリアの方を振り返り眉間に皺を寄せた。彼女はテリウスを横目で見た後でゆっくりと腰を折る。
オーレリアは自分で言いながら他人が言っているように聞こえた。五年前の彼女だったら立っていることさえままならなかっただろう。アルマンゾの下へはけして行かない。そして主君だけに跪くであろう伯爵であるザカリーが自分を庇う為に跪く。オーレリアには全てが耐え難いことだ。
彼女の言葉を聞くとアルマンゾはあっさりと差し出した手を引っ込めた。
「そうか……。そうだった。オーレリア――王に忠誠を誓ったと言っていたな……。昔から――。貴女を追い出して、王が后を娶ることに何も思わないか?」
「……」
彼女は何も答えずに顔を上げアルマンゾを見返す。緑色の瞳はいつの間にか深い色に変わっていた。深い緑色の瞳――。オーレリアは感情が高ぶると瞳の色が濃くなる。それに気づいたアルマンゾはニヤリと笑う。
「では、王に正式な書状を出そう。オーレリアがそう言うなら」
今までの横柄な態度とは違い直ぐに引き下がった。それに驚いている者もいたが、オーレリアは薄々感じていた。彼女は、否応なしにアルマンゾの性格を知っている。人を挑発し、相手が自分にどんな態度をとるか弄ぶ―――王のアイゼルに逆らう気ならもっと前に行動を起こしているはず。いつまでも過去に囚われアルマンゾに振り回される自分に又もや嫌気がさした。
ザカリーとテリウスも薄々それは分かった。たが用心をして低姿勢で準じた。アルマンゾとて国境を預かり傭兵を抱えているモンファを怒らせたくないはずだと踏んでいた。だが何処までも何を考え何を企てているのか分からないのがアルマンゾだ。
アルマンゾに早く引き取って欲しかった宰相のフォルケイ公爵は書状を認めて貰えば王に直ぐ様届けると口を挟んだ。
あからさまな宰相のフォルケイ公爵の態度にアルマンゾは鼻で笑う。
「オーレリアまたな」
一言だけ言うと供の者を連れて踵を返す。オーレリアはアルマンゾから目を逸らすことはなかった。逸らせばそのまま卒倒してしまいそうだった。
今まで一言も喋らずにいたコライス伯爵夫人がオーレリアを見て言葉を投げつけた。
「今度は王でなく大公閣下ですか?あの方も私生児、セルバの奴隷の血を引いている。あの紫の瞳はその証ですわ。でもお似合いですわね」
オーレリアへの侮辱をコライス伯爵夫人がザカリーの前でしたのは初めてだった。自分が乳母をしていた王アイゼルを軽んじているアルマンゾへの鬱憤をオーレリアにぶつけた。
「コライス伯爵夫人口がすぎます。姉への侮辱は許さない」
ザカリーはコライス伯爵夫人に厳しい言葉を浴びせる。オーレリアはどうでも良かった。もう彼女の精神は限界を迎えていた。そしてその場に崩れ落ちる。
周りで何か言っているが彼女には遠くのざわめきのように聞こえた。崩れ落ちた自分に手を差し伸べるザカリーにたいして彼女は呟いた。それだけしかオーレリアにはもう気力が残っていなかった。
「ザカリー早く行きましょう……」
ギーと軋む木戸の音が響く。深く帽子を被った男が慌てた様子で入って来た。
「リアは大丈夫か?」
「……あんたか、あんたが詰めが甘いから、こんな事になっている」
薄暗い部屋の片隅で椅子に座りその男を一瞥する。それはオーレリアの弟ザカリーだ。弟に一言だけ呟き意識を無くしそのまま発熱したオーレリアに付き添っていた。
意識が半日戻らない。ここは王都にあるモンファの別邸だ。
ザカリーにその男を尚且つ睨みつける。
「……すまない、言い訳はしない。でリアの様子は?」
「離宮で意識を失ってから微熱が続いている。医者は疲れからだと言っていた。時折りうわ言を言う」
その男は帽子を脱ぎ熱でうなされているオーレリアの傍らに座った。
彼女をその男に一旦任せ、ザカリーはテリウスを呼びに部屋を出た。
オーレリアは密かな人の気配を感じる。
声をひそめた会話が聞こえる。でも瞼は重く目を開けられない。
瞼に何かが触れる。頬にも鼻先にも……。微かに慣れ親しんだ香り――。オーレリアは薄く目を開けると見えるヘーゼル色の髪。
彼女の頭の中にしまい込んでいた過去が溢れ出す。
『オーレリアもっと乱れろ、俺に身を任て啼け』
忌々しい思い出したくない声が蘇る。彼女は拒絶の言葉を発した。
「いやっ、やめてっ、わたしに触らないで」
固く目を瞑り叫びながら手足をバタつかせた。
「オーレリア!暴れるな、大丈夫だ」
「リア、……大丈夫だ、しー、いい子だ」
その男は暴れるオーレリアを抱き込む。そして言い聞かせるよう呟く。オーレリアは大きく息を吸いまた眠りに落ちた。
男は安心したように溜息をつく。オーレリアの上掛けを直し腰を下ろした。
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