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ごめんね

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「なんか、ごめんね、英里佳」
 たっちゃんに言われ、更に胸が痛くなる。
「謝んないでよ。たっちゃんは悪くないよ」
 あたしが言うと、たっちゃんはまた申し訳なさそうに目を細めた。
「……そっか。そうなんだね。ごめんね――あっ」
 ごめんねと口に出した瞬間、たっちゃんは恥ずかしそうに口を押さえる。そんなたっちゃんがかわいくて、あたしは笑った。
「誰も悪くないんだよね」
 たっちゃんは、確かめるように言葉を口に出す。
「そうだよ」
 あたしはそう答えるけれど、それは本心じゃなかった。誰が悪いのかなんて分かってる。あたしだ。宇野もたっちゃんも、この関係を崩さないためにやってきたのに、あたしは一時の感情のままにぶち壊したんだ。だけど、たっちゃんにそんなことを言ってどうする?嫌われるだけじゃん。たとえ嫌われなくても、たっちゃんの中から、確実にあたしを位置づける何かはそがれてしまう。そんなのイヤだ。あたしは、絶対にたっちゃんだけは失いたくない。だから、こんなしょうもない嘘をつくんだ。自分は「嘘つかないで」なんて言ってる癖に。こんなだから、あたしはたっちゃんに好かれないんだよ。宇野は正直で、いい奴なんだ。人気者だし、運動できるし、優しいし、たっちゃんみたいな人達にも理解がある。性別うんぬんを別にしても、あたしじゃ勝てるはずがないくらい魅力的な奴だ。だけど、あたしはたっちゃんが好きなんだ。だからあたしは、こんなみっともないことばっかりするんだ。たっちゃんは、誠実で真面目な人がタイプなのに。バカみたい。
 いっそのこと、ほかの誰かを好きになりたい。それができたら、どれだけ楽なことか。叶わない恋は、疲れる。楽しくなんかない。辛いだけ。だけど好きなのはやめられない。そういうもんじゃん、恋って。きっと、それはたっちゃんも同じらしくて。だからあたしたちは苦しいばっかりの関係になるんだ。お互いにやめられないから、お互いに通じない。変わることなんてできない。きっと、きっと。
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