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アンコン前日

悟くんの愚行

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「あ、森先輩……」
 取り巻きが、たっちゃんをじっと見た。ヤバい。
「森先輩、森先輩来たの?」
 泣きながら、中崎が顔を上げる。中崎、やめて。
「あ、中崎ちゃん、おはよう。どうしたの」
 バカ! 下手に突っついたらヤバいって! たっちゃん、自分の危機を分かってない。中崎は恨めしそうにたっちゃんを見た。
「私、昨日、宇野先輩に振られたんです。知ってると思うけど」
 中崎、中崎、中崎、そんなことしてどうなんの。辛いけど受け入れよう。男は悟くんだけじゃないって。――口に出したら多分キレられるので、心の中でつぶやいた。もちろん、届くわけがない。
「電話一本ですよ。好きな人ができたから、別れてくれって。サイテーですよね」
 投げやりに、中崎が吐き捨てる。たっちゃんはまだ分かっていないようで、困惑を顔に浮かべていた。
「何で、何も言わないんですか。また、僕は悪くないー、とか、僕は関係ないー、とかいい子ぶるんですか? キモいんですよそういうの。自覚してくださいよ」
 中崎の目が真っ赤だ。あ、そろそろ来る。あたしもやった側だから、何となく分かる。たっちゃん逃げて。あたしもかばうつもりだけど、間に合うかどうか分からない。心の中で、切実に願った。
 だけど、たっちゃんは分からないまま地雷を踏んだ。
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