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アンコン前日
できないこと
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中崎が、図星をさされた顔で歯を食いしばる。
「何が分かるんですか、桑田先輩に……」
こらえたような声で、彼女はつぶやいた。
「分かんないかもね。でも、多分それに近いのは分かる」
「テキトーなこと言わないで下さいよ!どうせ桑田先輩は森先輩の味方なんでしょ!」
そうだよ。あたしは、多分死ぬまでたっちゃんの味方だよ。たっちゃんがそのことを知ることは無いだろうけど。だからあたしはあんた側なんだ。そう思ったけど、言わなかった。
「いつもそうじゃないですか! 私、桑田先輩にそういうの求めてませんから。だって先輩、森先輩しか見てませんしね、いっつも! それなのに分かったふうな口なんか――」
「中崎さん、まだ悟くんが好きなんでしょ?」
あたしの一言に、中崎はプツッと言葉を失った。怒りで赤くなっていた顔が、みるみる青くなる。認めたくないんだ。自分を酷い方法でむちゃくちゃに傷つけた悟くんを、自分がまだ好きでいることを。心の底から分かっているけど、だから、認めたくないんだ。好きだったから、憎い。今も好きだから、憎い。きっと彼女はそうなんだろう。
「楽になる方法、教えてあげる」
周りは黙ったまま、あたしを見つめている。その視線のど真ん中で、あたしは淡々と口を開いた。
「無かったことにすればいいんだよ。そうしたら、もう苦しまなくていい。泣かなくてもよくなる。忘れたらいいんだよ、全部。そうでしょ?」
あたしはできないから苦しいんだけどね。口先では偉そうに言っておきながら、自分は何にも。だから、あたしはもう何年もたっちゃんを好きなんだ。傍で鼻血を流してボーッとしているたっちゃんが愛おしくて愛おしくて、今、この瞬間でも息の詰まりそうな苦しさを感じてる。バカみたい。
中崎、こんなダメ人間になんかなっちゃダメだよ。あんたの目の前にいるあたし、クズだよ。叶わない恋のために、周りの人を――好きな人でさえも――みんな傷つけてる。心の中なんかもう、ドロドロで、汚くて、見れたもんじゃない。あたしはね、あんたみたいな奴の成れの果てだよ、きっと。だからこうならないで。苦しいよ、こんな生き方。
「……う……だって、でも……」
中崎はしばらく、わなわなと唇を震わせてあたしを見ていた。口にしたい言葉を見失って、同じ言葉を繰り返し始める。
「でも……でも、でも、でも、でも!」
「中崎さん!」
ようやく、部長が怒鳴った。中崎はハッとしたように動きを止める。
「出欠、始めるから」
淡々とそれだけ言い、部長は出席簿を開く。遠巻きに見ていた部員たちが慌てて、自分の椅子に座る。中崎は顔を赤くして、頬についた涙をこすってから座った。たっちゃんはまだ意識が確かじゃなかったので、あたしが腕を引いて座らせた。タオルを退けると、鼻血は止まっていた。
「何が分かるんですか、桑田先輩に……」
こらえたような声で、彼女はつぶやいた。
「分かんないかもね。でも、多分それに近いのは分かる」
「テキトーなこと言わないで下さいよ!どうせ桑田先輩は森先輩の味方なんでしょ!」
そうだよ。あたしは、多分死ぬまでたっちゃんの味方だよ。たっちゃんがそのことを知ることは無いだろうけど。だからあたしはあんた側なんだ。そう思ったけど、言わなかった。
「いつもそうじゃないですか! 私、桑田先輩にそういうの求めてませんから。だって先輩、森先輩しか見てませんしね、いっつも! それなのに分かったふうな口なんか――」
「中崎さん、まだ悟くんが好きなんでしょ?」
あたしの一言に、中崎はプツッと言葉を失った。怒りで赤くなっていた顔が、みるみる青くなる。認めたくないんだ。自分を酷い方法でむちゃくちゃに傷つけた悟くんを、自分がまだ好きでいることを。心の底から分かっているけど、だから、認めたくないんだ。好きだったから、憎い。今も好きだから、憎い。きっと彼女はそうなんだろう。
「楽になる方法、教えてあげる」
周りは黙ったまま、あたしを見つめている。その視線のど真ん中で、あたしは淡々と口を開いた。
「無かったことにすればいいんだよ。そうしたら、もう苦しまなくていい。泣かなくてもよくなる。忘れたらいいんだよ、全部。そうでしょ?」
あたしはできないから苦しいんだけどね。口先では偉そうに言っておきながら、自分は何にも。だから、あたしはもう何年もたっちゃんを好きなんだ。傍で鼻血を流してボーッとしているたっちゃんが愛おしくて愛おしくて、今、この瞬間でも息の詰まりそうな苦しさを感じてる。バカみたい。
中崎、こんなダメ人間になんかなっちゃダメだよ。あんたの目の前にいるあたし、クズだよ。叶わない恋のために、周りの人を――好きな人でさえも――みんな傷つけてる。心の中なんかもう、ドロドロで、汚くて、見れたもんじゃない。あたしはね、あんたみたいな奴の成れの果てだよ、きっと。だからこうならないで。苦しいよ、こんな生き方。
「……う……だって、でも……」
中崎はしばらく、わなわなと唇を震わせてあたしを見ていた。口にしたい言葉を見失って、同じ言葉を繰り返し始める。
「でも……でも、でも、でも、でも!」
「中崎さん!」
ようやく、部長が怒鳴った。中崎はハッとしたように動きを止める。
「出欠、始めるから」
淡々とそれだけ言い、部長は出席簿を開く。遠巻きに見ていた部員たちが慌てて、自分の椅子に座る。中崎は顔を赤くして、頬についた涙をこすってから座った。たっちゃんはまだ意識が確かじゃなかったので、あたしが腕を引いて座らせた。タオルを退けると、鼻血は止まっていた。
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