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本音

女の子

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「たっちゃん、ごめんね。『私』でいいんだよ。『僕』じゃなくていいんだよ」
 今、目の前にいるたっちゃんを一生懸命抱きしめた。
「私? ……私。私……」
 たっちゃんは自分の唇に指を当てて、その言葉が存在することを確認するように、ゆっくり、丁寧に言う。
「そうだよ、たっちゃん。たっちゃんはたっちゃんのために生きていいんだ」
「私、私、私、私……!」
 何回も繰り返し、たっちゃんは泣き出す。心の底から絞り出したような声で。
「あのね、本当は幸せになりたいの。普通の女の子として生きたいの。できるのかな。私、そんな生き方できるのかな?」
 たっちゃんが好きで好きでたまらない。まだあたしに縛り付けていたい。だけど、もう終わりなんだ。たっちゃんをここまで追い詰めた自分を見てしまったから。もう、これ以上あたしのわがままで生きていくことは許されない。
「大丈夫。たっちゃんならきっとできる。たっちゃんは生まれつきの女の子だもん。体が男の子なだけ。たっちゃんは女の子だよ。だから幸せになれるよ」
 初めて、たっちゃんが本当に女の子だということを口にする。男の子じゃないだとか、女の子になりたがってるだとか、そんな言い訳を排して。そうすることで、ようやく、たちゃんが女の子だということを受け入れられた気がした。
「ありがと、英里佳。ありがとう」
 たっちゃんはあたしの背中に両手をまわして、あたしを抱きしめた。さっきとは違う抱き方。たっちゃんは女の子として、女の子であるあたしに接している。友だちとして、強く、ひたむきに。
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