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本音

本音

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「たっちゃん、訊いていい?」
 あたしが尋ねると、たっちゃんは「なぁに」と小さく声をあげる。
「たっちゃんさ、いつからあたしの気持ち、気づいてたの?」
 あたしの質問に、たっちゃんはプッと笑い出した。
「気づかない方がどうかしてるよ。だって英里佳、私の前でだけかわいいもん」
「意識はないんだけどな」
「バレバレだよ」
「言っとくけど、たっちゃんもだからね?」
「私はそんなことないもん」
「そんなことあるよ」
「だからないって」
 ほっぺをプクッと膨らませるたっちゃんに、幸せな気分がこみ上げる。やっぱり、あたしはたっちゃんが好きだ。
「たっちゃん、あたしね」
 思わず、言葉が口をついて出た。
「これからもたっちゃんのこと好きだと思う」
「……うん」
 たっちゃんは微かに笑い、あたしの手に触れる。少し渋り、それから口を開いた。
「英里佳はレズビアンなの?」
「違うよ」
 その言葉に、ようやくあたしは本当の答えを出した。今まではたっちゃんを変に気遣って言えなかった。さんざん傷つけてはいたけれど、それだけは言えなかった。
「あたし、たっちゃんが男の子の恰好をしていたときから好きだったもん。あたしが好きなのは、男の子のたっちゃんだよ」
 あたしがそう言うと、たっちゃんは黒目がちの目を大きく開いて、あたしを見る。
「ありがと。本当のこと聞けて良かった」
 その表情はゆるりとほどけて、すぐに淡い花が咲いた。
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