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本音

たっちゃんへ

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「たっちゃんに連絡とるから。話しに行こう」
 ポケットからスマホを出す。宇野が、ん、と、緊張したような返事をした。そっとあたしの手をすり抜ける。電話をかけると、たっちゃんはすぐに出た。
「たっちゃん。今、家?」
「違うよ」
「じゃあどこ?あたし、学校の近くにいるんだけど、そっち行ってもいい?」
「いいよ。私、海にいるから」
 え、海?この真冬に? あたしの困惑を察したのか、たっちゃんはケラケラ笑い、優しく説明してくれる。
「海って言っても、防波堤があるだけのあそこのちっちゃい場所だよ。一年のとき、学校でボランティアにきたじゃん。ほら、海岸清掃のさ。そっちからなら、自転車で二十分もあればつくでしょ」
「う、うん。じゃあ今から行く」
「了解。待ってるね」
 ふふ、と笑い、たっちゃんは電話を切る。あたしは二、三秒画面を見つめて、それから宇野を見た。
「どこって?」
 宇野が訪ねる。
「海だって」
「海。なんでまた」
「知らない。とにかく、行こうよ」
 首を傾げる宇野をよそに、あたしは駐輪場に向かう。宇野が慌てて後をついてきた。
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