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本音

はしゃいで

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 チャックが下ろされる音と、その間から覗く体操服の白が、嫌にまぶしく見える。たっちゃんもあたしも目を見張り、宇野の行為を無言で確かめた。宇野は脱いだ上着を無造作に防波堤の上に置くと、今度は履いていた通学靴とくるぶしまでの靴下を脱ぎだした。
「はは、あははは!」
 膝のすぐ下までズボンをめくり、宇野は防波堤から砂浜に飛び降りる。唖然とするあたしとたっちゃんをよそに、両手を高く上げて、波打ち際へと駆けた。パチャンと音を立てて、宇野の大きな足が冷たい海水の中に入っていく。その間、ずっと大声で笑っていた。
「つめてえ! マジ足死にそう!」
 そう言って、ザブザブと海の中を歩いていく。そして、鍛えられた脹ら脛が半分まで水に浸かったとき、突然振り向いた。
「桑田も来いよ!」
 左手を、あたしに向かって伸ばす。どうかしてる。そう思ったのに、口には出せなかった。気がつけば、あたしもコートを脱ぎだしていた。
「英里佳、大丈夫?」
 短パンの下に履いているタイツを脱ぐわけにはいかず靴のまま防波堤にまたがるあたしに、たっちゃんが心配そうに声をかける。
「大丈夫」
 そのつもりで飛び降りると、着地に思いっきり失敗した。あたしを心配して下まで着ていたたっちゃんの真上に飛び降りてしまう。たっちゃんは砂浜の上にしりもちをつき、あたしの体重にうめいた。
「何してんだよ。服、砂まみれじゃん!」
 砂で汚れたあたしとたっちゃんを見て、宇野は笑う。
「はは、バカみてー……」
 あたしは片方の靴を脱いで、それを空で逆さまにして中の砂を出した。綺麗になった靴を履いて、次はもう一方の靴を脱ぐ。たっちゃんは砂浜の上に手をついて、ゆっくり起き上がった。スカートをパンパン叩き、お尻についた砂を落とす。
「なにしてんだろうね、私も英里佳も、宇野君も」
「知らないし。言っとくけど、これ元凶たっちゃんだからね?」
「えー、私は悪くないよ。さすがに」
「そういやさ、夏にここ、陸上の連中で来たんだけどさ。そんときに畠尾がさ……」
 楽しそうに話を始めようとして、ふと宇野は口をつぐむ。自分がしたことを思い出したのか、急にばつの悪そうな顔になっている。たっちゃんの表情から、心なしか色が褪せた。
「あのさ、森」
 海水に足を浸したまま、宇野は口調だけを変えた。あたしもたっちゃんも、一緒になって宇野を見る。宇野はしばらく思いつめたように黙っていて、やがて意を決したのか、大きく息を吐いて、肩を一度、上下に揺らす。
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