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本音

英里佳

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「あたしは」
二人が私を見る。次はあたしの番だ。
「男の子だったたっちゃんが好き。多分そのまぼろしをこれからもずっと追いかける。だけど、女の子の、ほんもののたっちゃんもずっと愛してる」
 たっちゃんは頷いて、宇野の手を握っていない方の手をあたしに伸ばす。あたしはその手を取った。
「桑田、訊いたよね。これからも友だちでいてくれるか、って」
 涙にぬれた目元を拭って、しゃくりあげながら宇野が言う。
「あの時、私、答えられなかったよね。だから、今言っていい?」
「うん……」
 あたしの肩に、宇野の手が触れた。あたしが拒まないでいると、ほっとしたように口元を緩ませる。
「友だちでいよう。これからも。三人で、ずっと友だちでいよう」
「うん」
 あたしは一度目を閉じて、それからゆっくりと開く。目の中に、真っ赤な空が飛び込んできた。その色の強さに、じくじくと目頭が痛くなる。目から何かが落ちて、あたしの指は、あたしの頬を伝うそれを拭った。指についた涙を見てはじめて、あたしは自分が泣いたことに気づく。そして、自分が泣いたことに気づいてはじめて、宇野が腕を限界まで広げて、あたしとたっちゃんを同時に抱きしめていることを知った。冬の海の冷たさも、服の中に入り込んだ砂の感触も、みんなどこかに消えていた。
 あたしたちの時間は、一瞬、止まった。重ねた皮膚と感情と、その全てがあたしたちを一つにしていた。あれだけ傷つけあって、お互いの心を掻き回してきたのに、なぜかあたしは、あたしたちは友だちになれると確信できた。
 やがて日は落ち、止まった瞬間は動き出す。不思議と怖くはなかった。あたしたちが砂まみれで帰宅したのは、あたりが真っ暗になってからのことだった。

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